モデルプレスのインタビューに応じた綾野剛、操上和美氏(C)モデルプレス

綾野剛「僕の片思いが届いた瞬間」写真家・操上和美氏との“血肉にした”8ヶ月と愛の話<「Portrait」インタビュー>

2022.10.28 17:00

俳優の綾野剛(40)が、41歳の誕生日となる2023年1月26日に肖像作品集『Portrait』(ポートレート)を発売する。彼自身が切望した、日本最高峰の写真家・操上和美氏(86)との共作―――モデルプレスでは綾野と操上氏にインタビューを実施し、心の奥に秘められた2人の思いに迫った。

綾野剛&操上和美氏の出会い

綾野剛(C)モデルプレス
綾野剛(C)モデルプレス
綾野剛(C)モデルプレス
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綾野が操上氏と最初に出会ったのは、映画『ヤクザと家族 The Family』(2021年)で共演した舘ひろしと雑誌『GQ JAPAN』に掲載された時のこと。撮影を担当した操上氏との対面を、綾野は「とても緊張していたんですが、『なんて優雅で上品なんだろう』と見惚れてしまって」と振り返る。

「シャッターの音は聞こえているのに、全然鋭利じゃなく痛くない。そういう思いをただ感じていました」

綾野剛(C)モデルプレス
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その後まもなく、綾野は雑誌『GOETHE(ゲーテ)』で操上氏のページに呼ばれ再会を果たした。

「『GQ』の撮影からすぐだったので、またお会いできるのがすごく嬉しかったです。片思いですね」

綾野剛「僕の片思いが届いた瞬間」

綾野剛(C)モデルプレス
綾野剛(C)モデルプレス
撮影後、日を改めて2人は食事へ。その時に操上氏から「こんなの出来てるよ」と見せてもらった綾野の写真は、「極端に言うとマネキンのようだった」と綾野自身が言うほど感情が全く写っていなかった。

「何者でもなかったんです。肩書きやパブリックはなく、『ただそこに人がいる』という圧倒的なポートレートにうっとりしました。僕たちは役者として感情を仕事にしていますが『感情を写さないという、また一つの表現がある』という学びを体験し体感したんです。その時に操上さんが『一緒に何か作れたらいいね』とおっしゃってくださって、すぐに『やりませんか?』とお伝えしました。操上さんと出会って、操上さんから学びたいことがたくさん自分の中で湧き、ただ操上さんとの時間を過ごしたかった。操上さんは『いいよ』とすごくフラットに答えてくださいました。僕の片思いが届いた瞬間ですね」

操上和美氏が綾野剛から感じた“光”

綾野剛「Portrait」書影(提供写真)
綾野剛「Portrait」書影(提供写真)
「一緒に何か作れたらいいね」と綾野に伝えた操上氏は、いつからそう思っていたのか?操上氏に質問を投げかけると、綾野も「聞いたことなかったです」と興味津々。そして操上氏は、綾野と舘を撮影した時のことを「2人はなんか違う光を持っていた」と思い返した。

「2人とも大俳優ですが、並んで撮った時に発する光が全然違うんですよ。今まで何百人、何千人と撮っていますが、なんか違うなって。そう感じた時に『あ、絶対面白いな』と思いました。それで偶然30代が終わるという話もあり、『じゃあ30代最後の光で1冊になるといいな』と」

操上和美氏が感じた綾野剛の成長

綾野剛(提供写真)
綾野剛(提供写真)
春先から真冬までの8ヶ月間、毎月一度、同じスタジオ、同じポジションでのストイックな撮影。綾野は驚くほど毎回違った空気をまとって現れた。写真総点数はなんと545枚。綾野を撮り続けた操上氏は「大人になった」と彼の成長を感じていた。

綾野剛(提供写真)
綾野剛(提供写真)
「人間性というのは仕事の仕方やプライベートの生き方など色々なもので形成されているので、それは変わらない。でも8ヶ月という期間で、やっぱり成長するんですよね。成長するか、堕落するか、止まっているか…それは人によってスピードも違うし、綺麗な直線やカーブで登っていくわけでもない。ただどう成長していくかというのは仕事や恋愛も含めた日々の生き方が関係してくるので、それを観察する面白さはありました。この1冊にはその成長の記録が収められています」

綾野剛が語る操上和美氏のかっこよさ

綾野剛(C)モデルプレス/スタイリスト:申谷弘美、ヘアメイク:石邑麻由 /Tシャツ ¥14,300(RESURRECTION)、パンツ ¥121,000(DUELLUM/TEL:03-5447-2100)
綾野剛(C)モデルプレス/スタイリスト:申谷弘美、ヘアメイク:石邑麻由 /Tシャツ ¥14,300(RESURRECTION)、パンツ ¥121,000(DUELLUM/TEL:03-5447-2100)
一方綾野にとって、操上氏は8ヶ月間ずっと“かっこいい”存在であり続けた。

「時代と足し算をしていくか、削ぎ落として引き算をしていく考え方だけにやがてなり、言葉にすると取り残さないか、取り残すか。2人か1人か。でも操上さんにはその二つの“真ん中”がずっとある。それは上品さや揺らぎなのだと思います。言葉は輪郭になって何かを決定付けたり断定するものにもなってしまう。そんな中で、その断定できない揺らぎらしさを操上さんに学ぶチャンスをいただいた。それがこの8ヶ月間でした。

だから、僕にとって真ん中がしっかりある操上さんはずっとかっこいい。このいただいた学びを、ちゃんと自分の血や肉に。そして同じようにこの学びを得たい人が身近にいたら、シェアしていくことが大切。操上さんはそれをずっとやり続けている人」

操上和美氏の悲しみを乗り越えた方法

綾野剛、操上和美氏(C)モデルプレス
綾野剛、操上和美氏(C)モデルプレス
それぞれ俳優・写真家として様々な経験をしてきた2人に“悲しみを乗り越えた方法”を聞くと、操上氏は「すごいこと聞くね!」と驚きつつも、「悲しみを乗り越えた経験なんてたくさんありますよ。でも今更それを『こう乗り越えました』という話ではない。生きるというのは、どれだけ悲しいことか。その連続です。喜びも同じ。喜びはその倍あるかもしれないけど」と話してくれた。

「その中で僕が一つだけ学んだことは、愛おしむこと。人だけじゃなくてモノも、咲いている花も、今日見た空も、美しくて愛おしいと思える瞬間、その連続が自分が生きていることの自己確認だと思うんですよね。

それに気付いたのはいつだったかな。多分40代で旅をしていた時だと思うんですけど、日本を離れて転々と移動して撮影していたあの頃は、あまりの忙しさで好きな人に会える時間もないし、飛行機の窓から太平洋を眺めて『ここで飛行機が落ちても、俺は絶対に生きて帰るぞ』と思ったぐらい旅が多い時期だったんです。そういう時に、自分のメンタルや人・モノに対して愛おしく思う心が養われていったのかなと。あんまり大げさなものではなく、自分の美の基準というのはそこにあると思う」

綾野剛(提供写真)
綾野剛(提供写真)
愛おしむこと。それは写真家としての操上氏の生き方にも大きな影響を及ぼした。

「美しいと思うことと、道端に咲いている花を見て『あぁ、綺麗』と思うことは等価なんです。それと同じ眼差しで、被写体の役者さん・モデルさんをどういうふうに見るか。見るというのは感じることなので、どう感じるか。感じたものをどう発するか。僕の職業上、発するというのは写真に撮って形にすることだから、その形にしていく作業が自分の中で再構築できれば、自分が死なずにいられる。やっぱり若い時には死にたいと思うこともいっぱいありました。表現者として、それができなくなったら死んだ方がいいかなとか思ったんですよね。

そういう意味で言うと、綾野さんは変化する肉体(存在)と無限の可能性を持っている役者さんなので、出会えてよかったと思います」

綾野剛(C)モデルプレス
綾野剛(C)モデルプレス
同じ質問を受け綾野は、操上氏とした“愛の話”を明かしてくれた。カジュアルな環境で、特に理由もなく綾野が聞いた「操上さんにとって愛とは何ですか?」という問いに、操上氏は「自分の命より大切なものには違いないよね」と答えたという。

操上氏に対して感じた思いと同様に、綾野は出会った人々の“肩書き・環境”ではなく“その人自身”を見つめることを心がけている。

「表層的な部分ではなく、その人自身を好きかどうかを考える時間が大切です。子どもの頃、とてもシンプルだったように。いつの間にか、その人の立場だけを注目し、全てになってしまうことがある。その人自身が見つめられづらくなっている。だからちゃんと人を見つめたい。それにはすごく時間もかかりますし、体力も使いますし、使わせてしまう。そうなると、それこそ生活に関わってくることだと思うんです。仕事ではその人の立場やその人が持っているものを好きというだけで終われるかもしれないですが、より密接に誰かの人生に介入しよう、介入してもらおうと思ったら、やっぱりその人が大好きなんだという気持ちが1番ブレない。悲しみはそういうことの繰り返しで生まれては果てて更新をつづける。乗り越えるのではなく、その一つ一つの悲しみを見落とさないという感じです」

編集後記

綾野剛、操上和美氏(C)モデルプレス
綾野剛、操上和美氏(C)モデルプレス
操上氏が話す時間、隣に座っていた綾野は体ごと操上氏の方を向き、一つ一つの言葉を噛み締めるように聞いていた。その様子からは、操上氏を心底尊敬し、まさに得た学びを血や肉にしようとしているのだと感じられた。

ありとあらゆる経験を積んできた2人は、それでもなお現状に満足することなく挑戦を続けている。言葉の随所からそれが分かる今回のインタビューに、記者自身もただただ刺激を受けるばかりだった。(modelpress編集部)

綾野剛(あやの・ごう)プロフィール

綾野剛(C)モデルプレス
綾野剛(C)モデルプレス
1982年1月26日生まれ。岐阜県出身。2003年『仮面ライダー555』で俳優デビュー。近年の出演作は、『ヤクザと家族 The Family』(2021年)、『ホムンクルス』(2021年)、ドラマ『アバランチ』(カンテレ・フジテレビ系/2021年)、『新聞記者』(Netflix/2022年)、『オールドルーキー』(TBS系/2022年)など。主演映画『カラオケ行こ!』の公開を2023年に控える。

操上和美(くりがみ・かずみ)プロフィール

1936年1月19日生まれ。北海道出身。1965年からフリーランスの写真家として活動を始め、ファッション、広告分野を中心に活躍。コマーシャルフィルムも数多く手掛け、主な写真集に『ALTERNATES』『泳ぐ人』『陽と骨』『KAZUMI KURIGAMI PHOTOGRAPHS-CRUSH』『POSSESSION 首藤康之』『NORTHERN』『Diary 1970-2005』『陽と骨II』『PORTRAIT』『SELF PORTRAIT』『DEDICATED』、そして2020年、ロバート・フランクに捧げた『April』など。

綾野剛&操上和美氏「Portrait」トークイベント開催決定

この度、綾野と操上氏が「Portrait」撮影の道のりを語るトークイベントの開催が決定。イベントの模様はオンライン配信され、HMVサイトのイベント応募用の商品の購入者は全員視聴可能。さらに、その中から抽選で70人がイベント会場に招待される。

<トークイベント詳細>
・イベント日時:2023年1月28日(土)18:00~予定
場所:東京都内某所
・招待者の発表:2022年11月30日(水)18:00以降
・配信期間:2023年1月29日(日)18:00~2月1日(水)17:59
・予約締め切り:2022年11月13日(日)22:00
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