是枝裕和監督が愛すIUの曲、イ・ジウン&イ・ジュヨンが触れる日本のエンタメ…お互いが“成功したオタク”<「ベイビー・ブローカー」来日インタビュー>
2022.06.30 07:00
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是枝裕和監督が手掛けた初の韓国映画『べイビー・ブローカー』(全国公開中)に出演する“IU”ことイ・ジウン、イ・ジュヨンが来日。監督とともに3人で貴重なインタビューに応じ、クロスオーバーする韓国と日本のエンターテインメントなどについて語ってくれた。
是枝裕和監督初の韓国映画「べイビー・ブローカー」
物語は若い女性ソヨン(イ・ジウン)が、「赤ちゃんポスト」に赤ん坊を託すことから始まる。借金に追われるサンヒョン(ソン・ガンホ)と「赤ちゃんポスト」のある教会に勤めるドンス(カン・ドンウォン)は、ソヨンの赤ん坊を売るためにこっそり連れ去るのだ。しかし翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊がいないことに気づき2人は仕方なく白状。ソヨンは成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。一方、刑事スジン(ペ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)は、彼らを逮捕しようとその後を追っていく。もともと『そして父になる』(2013)を作ったころから“赤ちゃんポスト”“養子縁組”といった問題に興味を持つようになったという是枝監督。リサーチする中で、韓国にも同じような「ベイビー・ボックス」と呼ばれるものがあり、その利用件数は日本よりも桁違いに多く、社会的議論もより盛んに行われている事を知る。
ちょうどソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナらとの間で、韓国で映画を作る話が持ち上がっていたこともあり、この題材で彼らと組むことになったという。
是枝裕和監督が惚れ込んだIUとイ・ジュヨン
2016年に書かれたプロットから構想が始まった本作。ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナに加え、その後さらにイ・ジウン、イ・ジュヨンという豪華キャストが名を連ねることとなった。2人をキャスティングしたきっかけは、監督がコロナ禍で韓国ドラマにハマったことにあったという。イ・ジウンといえば、“IU”として2008年にデビュー以降「国民の妹」と称され、知らない人はいない人気ナンバーワン歌手として長年君臨する不動の存在。近年は歌手のイメージを覆す繊細な演技が評価を集め、俳優イ・ジウンとしてもめざましく活躍している。
イ・ジュヨンは日本でも爆発的人気を得た『梨泰院クラス』(2020)で、トランスジェンダー女性であるマ・ヒョニ役を熱演し一躍話題に。同年公開の主演映画『野球少女』では韓国で初めて女性プロ野球選手を目指した実在の人物を演じ、高い評価を得たライジングスターだ。
是枝監督は、傑作ドラマと名高い『マイ・ディア・ミスター ~私のおじさん~』(2018)でイ・ジウンの演技にハマり、また『梨泰院クラス』や映画『春の夢』(2016)に出演していたイ・ジュヨンを知ったことでキャスティングにつながったという。
― 監督のお2人へのラブコールでキャスティングが決まったとお聞きしました。下世話な話で恐縮ですが、監督が“成功したオタク”と一部で言われているのをご存知ですか?憧れていたスターと仕事をしたり仲良くなれたりした人のことをそう表現するのですが(笑)。
イ・ジウン&イ・ジュヨン:あはは(笑)。
是枝監督:知らなかった、初めて聞いた(笑)。別に嫌じゃないですね、オタク世代だし(笑)。
イ・ジウン:私も一緒に仕事をする前から監督のファンだったので、そういう意味で私も“成功したオタク”じゃないでしょうか。
イ・ジュヨン:私は是枝監督の全作の大ファンで、イ・ジウンさんのファンでもあるので、この中で一番“成功したオタク”だと思います。
― お3方に会えたので、私が最も“成功したオタク”ですね。
是枝監督:いいオチですね(笑)。
一同:(笑)。
― 監督は歌手としての“IU”さんのことはどう見ていらっしゃるのでしょうか。
是枝監督:そんなに K-POPを聴いていなかったので正直あまり存じ上げなかったのだけど、「マイ・ディア・ミスター」を観たあとにさかのぼって、日本で手に入るCDから、ライブのDVDまで、全部手に入れました。
― それから本作のキャスティングをされたのですか?
是枝監督:そうです。
― ちなみに一番好きな曲は?
是枝監督:最近のバラード系も好きなんだよな…。よく、夜に脚本を書いたりしながらかけるのは「Love Poem」のアルバム。あのアルバムは全曲好きなので、よくかけています。特に「Love Poem」と「My sea」かな。
イ・ジウン:すごくうれしいですし、不思議ですね。実はキャスティングされる1年ほど前に、一度飲食店で監督とお会いしたことがあるのですが、そのあとに私が出演した作品や曲を聴いてくださったということで、縁って不思議だなと。そういったものが伝わって作品に出演することになって、私にとってすごくラッキーだったなと思います。
― 飲食店で遭遇された当時、監督はイ・ジウンさんのことをまだ知らなかったとか…?
是枝監督:それこそ「マイ・ディア・ミスター」のイ・ソンギュンさんは知っていて、挨拶している時にイ・ジウンさんはスッと出ていってしまったんです。あとから彼女のことを聞いたのだけど、プライベートでご飯を食べていたから追いかけて挨拶はしない方がいいのかなと、そこはちょっと遠慮しました。
― 知らなかったわけではないということですね(笑)。
是枝監督:そうですそうです。でも、その時中途半端に挨拶しなくてよかったです。
イ・ジウン&イ・ジュヨン、関心のある日本のエンターテインメントは?
― 逆にイ・ジウンさんとイ・ジュヨンさんは、日本のエンターテインメントから刺激を受けたり、興味深いと感じることはありますか?イ・ジウン:私は是枝監督の新しい作品(Netflixシリーズ「舞妓さんちのまかないさん」/2022年世界同時配信)に期待しています。
是枝監督:嬉しいです。頑張ります。
イ・ジュヨン:最近私は日本のドラマをたくさん観ていて『コントが始まる』というドラマを観て、菅田将暉さんに関心を持つようになりました。彼が出演された映画やドラマなどをたくさん観ています。韓国で上映されている彼が出演された映画や、『ミステリと言う勿れ』という作品も今観ている最中です。
― 一緒に仕事をしてみたい日本のエンターテインメント界の人物はいらっしゃいますか?
イ・ジウン:現実的には難しいと思いますが、坂本龍一さんです。小さいころからすごく好きですし、監督からも坂本さんの話を聞いています。監督とは特別な仲ということをお聞きしているので、機会があれば一度お会いしたいですね。韓国には坂本さんのファンがたくさんいて、私自身も幼いころから自然と、音楽の巨匠である彼を知りました。彼の自然な、そして深みのある音楽は、私だけでなく韓国の多くのミュージシャンやファンの方たちが愛していると思います。
世界の注目を集める韓国作品「エンターテイナーとしてすごく喜ばしい」
― そうだったのですね。一方日本では韓国のエンターテインメントがとても人気になり、韓国ドラマのリメイクも次々に行われています。『梨泰院クラス』をリメイクした『六本木クラス』というドラマも今後放送されますが、ご存知ですか?イ・ジュヨン:『梨泰院クラス』が日本でとても人気があるという話をお聞きしましたし、リメイクされるという話も聞きました。キャスティングされた俳優の方々を比べた写真なども目にしましたし、最近仕事で『梨泰院クラス』のキム・ソンユン監督に会ったのですが、「本当に楽しみだ、どうなるか気になる」という話をお互いにしたんです。これからどのように日本の感性で生まれ変わらせるのか、とても楽しみです。
― 今韓国のエンターテインメントは世界的に評価されていますし、コンテンツがすぐに拡散され世界中から注目を浴びますよね。このような状況に対しどんな心境でいらっしゃいますか?プレッシャーはないのでしょうか。
イ・ジウン:私自身韓国人ですが、Kコンテンツのファンとしてとても嬉しいですし、とても素敵なことだと思います。K-POPやKドラマ、韓国の映画が関心を持ってもらえるということで、以前の作品を見たというファンの方も多いです。そうやって韓国の作品の生命力が長くなっているということは、エンターテイナーとしてすごく喜ばしいことだと思っています。
是枝裕和監督&イ・ジウン&イ・ジュヨンの「夢を叶える秘訣」
― 最後に、モデルプレス読者に向けて、世界で活躍されるお3方が考える「夢を叶える秘訣」をお伺いしたいです。是枝監督:そういうことを考えて日々生活してないかもしれない。でも、好きなことをずっと続けて仕事になって、30年以上やって来ている。続けて来られたのは、縁があった、色んな人に恵まれたおかげだと思う。だからそういう人の縁に恵まれることが大事なんじゃないかな。それって秘訣とかとは遠いことで、自分でどうにかできるものではないけれど。
― 人の縁に恵まれたというのは、なにかご自身に理由があったと思われますか?
是枝監督:いや、本当に恵まれただけ。自分が落ち込んだ時に助けてくれる人がいた。人との出会いでしか、もう自分が成長しないなと思う。人って一人だと成長しないんだよ。特にこの年になると(笑)。
イ・ジウン:私の場合、「現実的な大きさに夢をダウンサイジングさせる」というのがあります。夢を見るのが好きな方なのですが、実現不可能な夢というのはあまり見ないんです。小さな目標を設定して、それを達成していくのを楽しむ、そういうスタイルです。
イ・ジュヨン:私は芝居を始めたとき「何かを成し遂げたい」ということは全く考えなかったんです。だからこそ逆に、いいチャンスに恵まれてここまで来れたのではないかとも思います。夢を持つということ自体を厳しい目で見るような社会だと思いますし、理想的に聞こえるかもしれませんが、それでも自分自身に対し堂々と胸を張って、それを継続していくこと。それが私が夢を叶えるためにやった努力だと思います。
― ありがとうございました。
(modelpress編集部)
是枝裕和(これえだ・ひろかず)
1962年6月6日、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。2011年に独立し制作者集団「分福」を立ち上げる。主なTV作品に、「しかし・・・福祉切り捨ての時代に」(91/CX/ギャラクシー賞優秀作品賞)、「もう一つの教育~伊那小学校春組の記録~」(91/CX/ATP賞優秀賞)など。1995年、『幻の光』で監督デビューし、ヴェネチア国際映画祭で金のオゼッラ賞を受賞。2004年の『誰も知らない』では、主演を務めた柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞。2013年、『そして父になる』で第66回カンヌ国際映画祭審査員賞を始め、国内外で多数の賞を受賞。『海街diary』(15)は第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品された。2018年、『万引き家族』が、第71回カンヌ国際映画祭で栄えある最高賞のパルムドールを受賞し、第91回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。2019年には初の国際共同製作作品『真実』が日本人監督として初めてヴェネチア国際映画祭コンペティション部門オープニング作品に選定された。イ・ジウン(IU)
1993年5月16日、韓国生まれ。“IU”というアーティスト名でソロ活動をするシンガーソングライター。韓国では老若男女を問わず絶大な知名度と人気を誇り、“国民の妹”、“K-POPクイーン”、“CM女王”などの異名を持つ。ドラマ『ドリームハイ』(2011)でドラマデビューし、『キレイな男』(2013)、『最高です!スンシンちゃん』(2013)、『プロデューサー』(2015)、『麗<レイ> ~花萌ゆる8人の皇子たち~』(2016)など俳優としても活躍。『マイ・ディア・ミスター ~私のおじさん~』 (2018)では冷たくも繊細な演技が高く評価され、『ホテルデルーナ ~月明かりの恋人~』 (2019)も同年を代表するヒットドラマとなった。イ・ジュヨン
1992年2月14日、韓国生まれ。大学時代に演技科に転科し俳優を志し、独立系の映画に多く出演。2016年に出演した映画『春の夢』で第21回釜山国際映画祭のレッドカーペットを踏んだ。その後『恋のゴールドメダル ~僕が恋したキム・ボクジュ~』(2016)、『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』(2018)など人気ドラマで知名度を上げ、『梨泰院クラス』のトランスジェンダー女性マ・ヒョニ役で一躍脚光を浴びた。『野球少女』(2020)では韓国で初めて女性プロ野球選手を目指した実在の人物を演じ、第45回ソウル国際映画祭独立スター賞を受賞した。
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