21年春夏パリ・コレクション コロナへのレジスタンス見せるフィジカルショー

2020.10.05 21:41
提供:繊研plus

フィジカル(リアル)なショーとプレゼンテーション、そしてデジタルによるパリ・ファッションウィーク(PFW)が27日開幕した。新規含めて通常より多い84ブランドが、PFW初の試みとなるハイブリッド「フィジタル」(フィジカルとデジタルの造語)開催に参加。その過半数以上がデジタルで21年春夏を披露する。

フランスのコロナ新規感染者数はパリを中心に連日1万人超え。人の動きからも街の光景からも、そして広告からもモードの都を感じさせるものは何もない。マスクだけが今を象徴している。ハイブリッド開催もいざ現実となると、支持率が下がる一方で、デジタルプレゼンはまだ一定のレベルに達していないと専門家たちは声を強める。主に屋外を会場にしたショーも、衛生基準変更や天気で中止の不安を拭いきれない。不透明な現状を打破するクリエイション力に期待が膨らむ。

(写真はブランド提供)

〈フィジカル〉

不意のロックダウンの体験を基に、仏若手デザイナーたちは何を考えたのだろうか。その答えとなる現実へのポジティブな抵抗を試みるクリエイションは、停滞していたファッションウィークに息を吹き込む。コペルニは、パリでいちばん空に近いモンパルナスタワーのルーフトップを会場に選んだ。天空とパノラミックな眺望をバックに、地動説を唱えた天文学者名を由来にした「コペルニ」が、今ファッションウィークのリアルショーの先頭を切った。

アルノー&セバスチャンのデュオデザイナーが、都市封鎖中の熟考から得たテーマは体を保護する服、「レディートゥーケア」。防菌、保湿、UV(紫外線)カットの機能を備えたセカンドスキンのようなジャージーを素材で、ミニマリズムなコレクションに仕上げた。頭をすっぽり包むフードパーカーとジップアップスーツは地上の潜水服のようでコペルニらしいフューチャリズムを見せる。ブランドカラーのホワイトから、懐かしきiPodをほうふつさせるカラーブロックへの飛躍も新鮮だ。

コペルニ

コシェのショー会場は、雨上がりのパリ最大の公園ビュット・ショーモン。森と湖の中からバグパイプの楽団に導かれのランウェーがスタートした。「自然」と「ボリューム」が、クリステル・コシェによるレディスとメンズのクチュールストリートウェアの中心にある。それをまとうのは素人のモデルたち。女性のアイテムの男性モデルを見ても何の変哲も感じない。ロックダウンを経て、コシェのDNAがよみがえる。

ジョギングパンツには、羽根飾りのブレストプレートタンクトップ。羽根細工メゾン「ルマリエ」のアーティスティックディレクターでもあるクリステルのフェザークラフトは、ケープ、そしてラグジュアリーなロングドレスへとさえる。レースは深いスリットの入ったアシンメトリーなドレスのバイアス、切り替えを裾に使いエレンガンスに。「私は服を動かし、踊らせ、ジャンプさせ続ける」とクリステル・コシェ。

コシェ

(パリ=松井孝予通信員)

〈デジタル〉

住居と服の間を探る

アンリアレイジ

富士の裾野の豊かな自然の中にカラフルなテントが並んでいる。アンリアレイジは緑豊かな朝霧高原で撮影した映像をデジタル配信した。テーマは「ホーム」。緑に映えるサイケデリックカラーの立体的なテントが服へと変わる。テントの骨組みを外してドローコードで絞ることで、違うフォルムを作ることができる。6種類のテントの形から着方を変えて24種類の服が生まれた。夜になると鮮やかな色の服たちは光を放つ。染色で蓄光機能を持たせた服は、闇の中でまばゆい住居となる。

「服なのかテント(住居)なのかのあいまいな間を探るコレクション。どの分量をどこに集約するかを考えました。半径1メートルの自分の空間の中で作ってみよう。ホームというファッションにはない概念をポジティブにとらえる意味合いです」と森永邦彦。服の素材には抗ウイルス性がある銅繊維を織り込んだ。

アンリアレイジ

今の時代を象徴するホームという概念を生かしながら、それを服へと転換するコンセプトは明快。そしてそのデザインとテクノロジーの生かし方にはアンリアレイジらしさがしっかりと貫かれている。

惜しむらくは、服のフォルムがデジタルでははっきりと見せられないことであろう。アンリアレイジは時にコンセプトが先に走り過ぎて、フォルムを犠牲にしてしまうこともあった。今回はどうであっただろうか。そこはリアルの展示会で確認するしかない。

アンリアレイジ

デジタル発表コレクションを「この5カ月間を反映する鏡」と予告したマリーン・セル。その映像は短編映画のようなストーリー仕立てとなった。アンドロジナスな裸の人間が、三日月のタトゥーとともに違う種族のもとへ旅する物語。実験室から旅立った主人公が自然界や水の世界へと移動する幻想的な映像だ。異なる世界への変化と適応の必要性を描いた背景には、現在の世界が置かれた状況がある。映像タイトルの「AMOR FATI」は、人生におけるあらゆる喜びと逆境を取捨選択することなく、積極的に受け入れることへの招待状だという。

コレクションはマリーン・セルらしい未来的なイメージとユーティリティーを感じさせるアイテムが揃う。スポーティーなマルチポケットのブルゾンやシグネチャーともいえるボディースーツが充実した。テーラードスーツやハーネスとボーンが一体化したようなアウターなどにはフェティッシュなムードを感じさせる。生分解性ナイロンとリサイクルモアレ、再生デニムといったサステイナブル(持続可能)な素材使いも特徴となった。

マリーン・セル

(小笠原拓郎)

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