抑えられない怒り・イライラ……短気は加齢による「脳の萎縮」のせい? 本当の原因は「疲弊」かも

2026.06.05 20:15
提供:All About

【脳科学者が解説】年を重ねるにつれてイライラしやすくなった、ささいなことで怒りっぽくなったと感じていませんか? 「40代から脳が萎縮して短気になる」という説は本当なのか、その真偽と感情が乱れやすくなる本当の原因を解説します。(※画像:Shutterstock.com)

「年を重ねるにつれ、自分の感情をうまくコントロールできなくなった」「ささいなことでイライラして、短気で怒りっぽくなった気がする」「家族に八つ当たりした後、自己嫌悪になる」――そういった変化を感じている方も少なくないかもしれません。

こうした感情コントロールの変化が、「40代から始まる脳の萎縮」によるものだとする説がSNSで散見されるようですが、果たして本当でしょうか? 分かりやすく解説します。

感情がセーブできないほどの「急激な脳の萎縮」は、通常、40代では心配無用

結論から申し上げると、その説は誤りです。もちろん肉体と同様に脳も少しずつ衰えます。どの程度の変化を「萎縮」と判断するかにもよりますが、特別な脳の病気がない限り、40代から急激に脳の萎縮が始まることはありません。

健康な方であれば、一般に65歳くらいまでは、画像検査で明らかに分かるような脳の萎縮は見られません。40代以降で加齢に伴い感情が乱れやすくなる原因は、別のところにあるのです。

感情が乱れやすくなる本当の原因は「萎縮」ではなく「はたらき」の問題

加齢による脳の萎縮は、脳全体に同じように起こるわけではありません。大脳皮質の前頭葉、特に「前頭前野」と呼ばれる部分が、もっとも早く萎縮し始めることが知られています。前頭前野は、理性や思考・判断力などを司り、いわゆる「人間らしい賢さ」を担う脳の最高中枢です。本能的な欲求や感情をコントロールする役割も担っています。

40代で前頭前野の萎縮を心配する必要はありませんが、実は「はたらき」には限界があります。忙し過ぎたり疲れたりすると、萎縮していなくても、うまく働かなくなるのです。その結果、感情をコントロールしきれず、イライラしたり怒りっぽくなったりすることがあります。

40代は仕事や子育てなど、社会でも家庭内でも忙しく過ごしている人の多い世代です。成熟した前頭前野をフルに活用し、多くのことをテキパキとこなせるからこそ活躍できるのですが、抱え込み過ぎると無理が生じ、前頭前野がパンクしてしまうことも少なくありません。

また、女性の場合は、年齢とともに女性ホルモンの量が徐々に減少していきます。女性ホルモンには性機能を担う役割以外に、ストレスを和らげるはたらきもあることが知られています。減少により精神的に不安定になりやすいことも挙げられるでしょう。また、肉体的な衰えを感じることで、気持ちが落ち込みがちになることも考えられます。

イライラ、激しい怒り……感情を落ち着かせるために見直すポイントは?

では、こうした心の変化を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。女性ホルモンの減少への医学的な対処法として、ホルモン補充療法という選択肢もあります。しかし人為的なホルモン療法は新たな身体のアンバランスを招く恐れもあるため、私は積極的にはお勧めしません。

イライラしたり気分が落ち込んだりする原因の多くは、生活や環境にあります。多くのことを一人で抱え込まず、家族や友人と分かち合いながら、「無理をしない暮らしを見直す」ことが、まず取り組める最善策です。

「頑張ること」は美徳でもありますが、感情が自分で抑えきれないほど乱れるのは、脳や身体が発している大切なサインかもしれません。自分の限界に正直に向き合い、無理なく日々を過ごすことが、心の安定を保つ第一歩です。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。


執筆者:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)

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