ChatGPTは人間の思考力を奪うのか。「生成AIで脳が退化(進化)する」って本当?【脳科学者が解説】

2026.01.16 20:45
提供:All About

【脳科学者が解説】「ChatGPTを使うと、思考力が落ちて脳が退化する」「生成AIの活用で、人間の脳はさらに進化する」と、さまざまな説が議論されています。いずれにしても、因果関係と相関関係の違いを踏まえ、科学的に考えることが大切です。分かりやすく解説します。(※画像:Shutterstock.com)

ChatGPTをはじめとする、対話型生成AIの活用が広がっています。対話型生成AIは、スマホやPCなどの情報端末に質問や指示を入力することで、対話するように、求める情報の提供や作業の支援をしてくれる便利なツールです。

昔であれば図書館などで資料を探して調べていたことも瞬時に分かるため、私自身もよく利用しています。ただし、こうした便利なツールを使うことで、人間が頭を使わなくなり、脳が退化するのではないかと指摘する声もあるようです。

しかし、結論から申し上げると、ChatGPTの使用によって脳が退化することはあり得ないと、私は考えています。

今現在、ChatGPTを頻繁に利用する人と、全く使用しない人の脳を画像解析で比較するといった研究が、世界のどこかで行われているかもしれません。しかし、そのような研究をいくら行ったとしても、ChatGPTの利用が原因で脳に変化が生じたことを証明するのは不可能でしょう。

相関と因果は別物……「関連があるように見える=原因」とは限らない

統計の見方でよく言われることですが、2つの事柄に一定の「相関関係があること」と、実際に「因果関係があること」は全くの別物です。

有名な例を挙げると、アメリカの統計で、「漁船から転落して溺死した人の数」と「ケンタッキー州の結婚率」の関連性を調べたところ、「相関係数0.95」という非常に強い相関が得られたという報告があります。しかし当然ながら、「溺死者の増加が原因で、ケンタッキー州の結婚率が上がった」わけではありません。

同様に、「ケンタッキー州での結婚率の増加が原因で、溺死者が増えた」わけではありません。どれだけ相関関係が強く表れても、偶然による「見かけの相関」にすぎないのです。

また、どのような調査でも、研究者が事前の予測に基づいてデータを解析すると、それらしいデータが得られたときに、結果を都合よく解釈してしまうリスクがあります。科学的に見える議論ほど、客観的な視点で慎重に評価する姿勢が欠かせません。データの解釈の仕方でとんでもない話になってしまうこともあるため、より慎重な議論が必要と思います。

科学的に証明は実は不可能? ChatGPTが脳に与える影響を明言できない理由

ChatGPTが脳に与える影響を客観的に検証する1つの方法として、使用前の脳の状態をあらかじめ確認しておき、一定期間ChatGPTを継続的に使用した後で脳の変化を比較する方法が考えられます。しかし、倫理面や実験条件の難しさから、こうした研究を実施するのは現実的ではありません。

また、ChatGPTの使用が個人レベルでは変化をもたらさなくても、何世代にもわたってみたときに脳の構造や働きに影響する可能性があると考える人もいるかもしれません。しかし、無数の要因が絡み合う人間社会において、ChatGPTだけの影響を切り分けて検証することなど不可能でしょう。

結局のところ、科学的な証明はできないと考えます。

「AIが思考を奪う」という考えは誤り! 昔から「誰かに聞いて」生きてきた人類

さらに、私がこうした議論を無意味だと思う理由がもう1つあります。それは、「ChatGPTを使うと自分で考えなくなる」という論調自体に違和感があるからです。

ChatGPTが存在しなかった時代、分からないことがあれば、全ての人が自力で調べて解明していたでしょうか。実際にそれをしていたのは、一部の研究者だけでしょう。多くの人は、身近で知識がありそうな人、例えば親や先人に質問し、その答えを信じて生活してきたはずです。質問する相手が人間からChatGPTに置き換わったとしても、本質的な違いはありません。

やがて人類は、研究成果を文字で後世に伝えるために「本」を作り、図書館という仕組みを整えました。新聞、ラジオ、テレビが発明されると、自分で調べなくても、誰かが集めた情報が次々と伝えられるようになりました。さらに、パソコンやインターネットが普及し、検索1つで膨大な情報にアクセスできるようになりました。ChatGPTは、その延長線上にある存在にすぎません。

人から聞いた話も、本も、メディアも、ChatGPTも、全て情報源の一種です。かかる手間や時間の違いはあれど、本質的には大きな違いはないのではないでしょうか。

ChatGPTを使いこなせるのは、情報に振り回されない人

「ChatGPTの情報には間違いがある」と否定的に言う人もいますが、親や先生、先輩であっても誤ったことを言う場合はあります。専門家と呼ばれる人でも、自分の考えを押し付け、客観的な説明をしないこともあります。テレビやニュースの報道が事実ではなかった、という例も少なくありません。基本的には、ChatGPTも同じです。

大切なのは、得られた情報をうのみにしないことではないでしょうか。人から聞いた話であれ、ChatGPTの回答であれ、根拠を自分の目で確かめ、信用できるものだけを受け入れればよいのです。そうした思考力を持つ人であれば、ChatGPTを積極的に使っても問題はなく、むしろ勉強や仕事の効率は飛躍的に向上するでしょう。

一方で、常に思考停止の状態で言われたことをそのまま受け入れてしまう人は、ChatGPTを使わなくても、人づての情報やメディアに振り回され、真偽を見極められずに、だまされたり混乱したりするだけです。

「ChatGPTで脳が退化する」という話は、物事の本質を捉えきれていないことによる誤解にすぎない、と私は考えます。

ChatGPTで脳は進化も退化もしない? 結局は「通過点」にすぎない最新技術

一方で、「ChatGPTが普及した近未来の人間の脳は、今より進化するのではないか」という説もあるようです。これについても、私はそうは思いません。

なぜなら、今は目新しいChatGPTも、10年後には「そういえば昔そんなものが流行った(はやった)よね」と振り返られる存在になっている可能性が高いからです。テクノロジーの進歩は非常に速く、ChatGPTが何世代にもわたって人間の脳に影響を与え続けるとは考えにくいでしょう。「AIの登場」に対して、必要以上に過剰な期待や不安が語られている面があるように、個人的には感じています。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。


執筆者:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)

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