30年前、新任だった私も同じ夜を泣いていた。引き出しから取り出した一枚の紙
30年前、私も同じ夜を泣いた
私が新任教師だった頃、毎日が辛くて、毎晩泣いていました。生徒から陰口を言われ、保護者会では「もっとベテランの先生に変えてほしい」と要望が出たこともあります。
ある夜、答案用紙の前で泣いていた私に、当時の先輩教師が一枚の紙を差し出してくれました。「これ、お守りに」それだけ言って、先輩は職員室を出ていったのです。
紙にはこう書かれていました。
「今日あなたが直した一文を、その子は10年後も覚えています。だから、続けてください」
その言葉が、私の30年を支えてきたのです。あの先輩はもう亡くなっていますが、あの紙は今も机の引き出しの一番奥にしまってあります。
続けられなかった後輩たちのこと
教師を続けてきて30年、教科主任として何人もの新任の先生を見送ってきました。続けられた人もいれば、3年以内に辞めていった人もいます。
辞めていった先生たちの顔は、今でも覚えています。「自分がもっと早く声をかけていれば」と、後悔を引きずってきました。教師という仕事は、教える側も削られていきます。誰もが続けられるわけではないのです。
だからこそ、今年赴任してきた新任の先生が、毎晩遅くまで職員室にいるのを見て、放っておけませんでした。けれど私の立場から声をかけると、かえって重く感じさせてしまう気がして、声をかけられずにいたのです。
何も言葉が出なかった夜
コーヒーを淹れに職員室に戻ると、彼女が答案用紙を見つめたまま、涙を落としていました。「先生、まだいたの」と声をかけると、彼女は顔を上げ、「先生、もう辞めたいです」と子どもみたいな声で言ったのです。
私は彼女の隣の椅子にそっと腰を下ろし、しばらく自分のマグカップを見つめていました。励ましの言葉も、教師としての説教も、何ひとつ出てこなかったのです。30年前、先輩からもらった紙を読んだとき、どんな言葉も入ってこなかった自分のことを覚えていたからでした。
代わりに、引き出しの奥から、30年前に書き写した一枚の紙を取り出しました。先輩からもらった原本のコピーを、私はずっと何枚か取っていたのです。いつかこういう時に渡せるようにと、思っていたから。
「これ、お守りに」と同じ言葉だけ伝えて、私は職員室を出ました。
そして...
翌朝、彼女は普段通りに出勤してきました。すれ違いざまに、目を合わせて軽く頭を下げてきたので、私もうなずきました。それだけで、お互いに伝わるものがあったのです。
紙に書かれた言葉が、彼女にどう届いたのかはわかりません。けれど、続けてくれることを願っています。30年前、私を救ってくれた先輩はもう亡くなりましたが、あの紙はこうして、世代を越えて誰かを支えていけるのだと思います。
教師という仕事は、教えながら教えられる仕事です。今夜、私はようやく、先輩への恩を少し、返せた気がしました。
(50代女性・教師)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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