残業ゼロの部下を見下していた俺が、評価会議で気づいた時代遅れな自分
「定時で帰るやつは出世できない」と若手に言い続けた俺
入社してきた3年前から、彼女は不思議な部下でした。仕事は丁寧。数字も出している。それでも18時きっかりにデスクを片付け、「お先に失礼します」と帰っていく。俺の感覚では、若手というのは先輩より先に帰るものではなかったのです。
すれ違うたびに、俺は彼女に同じ言葉をかけていました。「定時で帰るやつは出世できない」。最初は軽い冗談のつもりでした。気合いを入れてやろう、根性を引き出してやろうという、ある種の親心だと自分では思っていたのです。
けれど彼女は変わりませんでした。3年間、どんなに仕事が多い日でも同じ時間に退社する。俺の言葉は届いていないように見えました。同じ時期に入った同期が深夜まで残って数字を伸ばす中で、彼女だけが時計の針に従って帰っていく。その姿は、俺には甘えに見えていました。
自分が積み上げてきたものへの執着
考えてみれば、俺は深夜まで働くことを誇りにして生きてきた人間でした。20代の頃は朝まで企画書を書き、家には寝に帰るだけ。子どもの参観日にも行けず、妻からは「あなたの居場所は家にあるのよ」と何度も言われてきました。
それでも会社では昇進が続き、課長になった日には「やっと報われた」と感じたものです。あの何百もの夜を否定したくなかった。仕事のために家族や時間を差し出してきた選択が間違っていなかったと、信じ続けたかったのだと思います。
だから定時で帰る部下を素直に評価できなかった。彼女が結果を出していることは、頭ではわかっていました。それでも「数字は悪くない。ただ、姿勢が」と評価シートに書き続けたのは、自分の生き方を裏切りたくなかったからです。今になってようやくそれが言葉にできます。
評価会議で部長から告げられた一言
評価会議で彼女の名前が議題に上がったとき、俺は係長候補から外す方向で発言しようとしていました。そのとき部長が口を開いたのです。「彼女の生産性は部内トップだ。時間内に成果を出す力こそ、これからの管理職に必要だよ」。
部屋がしんとなりました。誰も俺をかばってくれませんでした。続けて部長は「君も働き方を見直す時期じゃないか」と俺に向き直って言いました。否定されたのは彼女の評価ではなく、俺がこの30年間信じてきた働き方そのものでした。
帰宅する電車の中で、ぼんやり窓の外を眺めながら考えました。俺はこれまで何のために夜遅くまで働いてきたのか。彼女は時間内に同じ成果を出している。彼女が正解だったのか、俺が間違っていたのか。答えが出ないまま、家に着く頃には日付が変わっていました。
そして…
翌朝、彼女のデスクに行って「おめでとう。昇進、君のことだ」と声をかけました。彼女はまっすぐ俺を見て「ありがとうございます」と返してくれました。その目には、3年間揺るがなかった人の落ち着きがあったように思います。
その日の夕方、彼女がいつも通り「お先に失礼します」と退社するのを、俺は手元の書類を見つめながら聞いていました。何かを言いかけて、結局言葉になりませんでした。「定時で帰るやつは出世できない」。30年信じてきたその一言を、もう若手に向けて口にすることはないだろうと思います。
俺の人生が間違いだったとは、今でも思いたくありません。ただ、彼女の働き方を否定することで自分を肯定してきたことは、認めなければならないのだと思います。
(50代男性・営業職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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