「なんか夫婦みたい」のひとことで動けなくなった俺と、机に置いた合鍵の話
3カ月、引き出しの中で眠っていた合鍵
半年付き合った頃から、彼女が俺の部屋にいる時間がだんだん長くなっていました。泊まる頻度も増えて、化粧品も歯ブラシも、いつの間にか俺の部屋に居場所を持っていました。
それなら、と思って合鍵を作りに行ったのは3カ月前のことです。けれど、いざ渡そうとすると言葉が出てきません。
「重いと思われたらどうしよう」「まだ早いと言われたら」そんな想像が、毎晩のように頭をめぐっていました。仕事から帰って机の引き出しを開け、合鍵を確認しては、また閉じる。3カ月の間、毎晩それを繰り返していたのです。
朝の通知と、たった一行のメッセージ
その朝も、いつもの「いってきます」が届きました。すぐに「いってらっしゃい、気をつけて」と返したあと、机の上に出していた合鍵にちらりと目をやって、ため息をついたところでした。
そのとき、次の通知が鳴ったのです。「なんか夫婦みたい(笑)」
画面を見た瞬間、3カ月分の悩みが一気にほどけていきました。彼女のほうが、ずっと先を歩いていた。俺がひとりで重さを心配していた間に、彼女は冗談にできる距離まで来てくれていたのです。
返信を打とうとしましたが、文字を入力できませんでした。
5分間、机に伏せていた
気づけば、机に置いたスマホの上に額を乗せていました。
俺はずっと、自分が彼女に追いついていないのが怖かったのだと、ようやくわかりました。距離を縮めようとしていたのは自分だけだと思い込んでいたのに、彼女はとっくに同じ場所にいてくれていたのです。
落ち着いてから、ようやく「ごめん、嬉しすぎて返事ができなかった」と送りました。続けて「今度の休み、ちゃんと話したいことがある」とも。送信したあと、机の上の合鍵を手のひらに乗せました。3カ月の重さが、急に軽くなったように感じました。
そして…
合鍵をハンカチで包んで、鞄の内ポケットに入れました。今週末、ちゃんと言葉にして渡そうと決めたのです。
3カ月もかかってしまいました。彼女に追いつくのに必要だったのは、立派な準備でも完璧なタイミングでもなく、彼女からのたった一行のメッセージだったのです。
家を出る前にもう一度、部屋を見回しました。彼女のマグカップ、置きっぱなしの本、棚の隅に並ぶ歯ブラシ。この風景は、もう半分は彼女のものなのだと、今さらながらに気づいた朝でした。
(20代男性・営業職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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