「洗濯物の干し方が下品」と隣家にクレーム→玄関先で頭を下げる隣人を見て、自分が恥ずかしくなった話
「景観を損ねる」と書いた苦情書
事の発端は、隣家のベランダや庭に干される洗濯物の量が、ある時期から急に増えたことでした。タオルやシーツ、大人用のパジャマや下着までもが何枚も並び、強い日差しの下で目に飛び込んできます。
二階の窓から外を眺めるたびに、整えた庭の景色が台無しになっている気がして、私の苛立ちは日に日に膨らんでいきました。あいさつ程度の付き合いしかない隣人に直接伝えるのは気が引けて、自治会長に書面で苦情を出すことにしたのです。
「洗濯物の干し方が下品で、景観を損ねている」。書きながら、地域の美しさを守るためにきちんと声を上げているのだと、不思議な達成感さえ覚えていました。
自治会長と立った玄関先
苦情を出した翌週、自治会長から「ご一緒に伺ったほうがいいかと」と声をかけられました。夕方、玄関先まで案内されながら、内心では「ようやく分かってもらえる」と少し誇らしい気持ちでいたのです。
インターホンを押すと、エプロン姿の奥さんが出てきました。自治会長は柔らかい口調で「ご近所から、洗濯物が景観を損ねるとご相談がありまして」と切り出します。
奥さんの表情がこわばりました。深く頭を下げ、「申し訳ありません」と何度も繰り返したのです。想像していた態度とは違い、強い反論ではなくただひたすらの恐縮でした。
玄関の奥に見えたもの
奥さんが頭を下げ続ける肩越しに、廊下の奥のリビングが目に入りました。介護用のベッドが置かれていて、白髪のお母様が眠っていたのです。
玄関の脇には、たたんだ介護用のタオルやパジャマがいくつか積まれていて、洗濯物の量の理由が、見るだけでわかってしまいました。
「洗濯物が多くてすみません。母を引き取ったばかりで、まだ干す場所のやりくりがついていなくて」
奥さんはそうこぼしました。下品でも嫌がらせでもなかった。二階から眺めて苛立っていたものは、誰かが必死に守っている日常そのものだったのです。
そして...
家に帰ってからも、玄関先で頭を下げ続ける奥さんの姿が頭から離れませんでした。書面に「下品」と記した自分の言葉が、何度も思い返されます。
翌朝、私の方からインターホンを押しました。出てきた奥さんに「何か困ったことがあれば声をかけてください」と伝えました。奥さんは少し驚いたような表情を浮かべたあと、「ありがとうございます。本当に助かります」と頭を下げました。
景観を守っているつもりで、私はただ自分の視界だけを守っていたのかもしれません。あの日から、私たちの会話は天気の話で始まり、洗濯物を取り込むタイミングのことまで広がっていきました。
(40代女性・専業主婦)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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