孫ほどの若い子に席を譲ってもらった朝、私はその子の青ざめた横顔を忘れられなかった
不機嫌のまま家を出た朝
その朝、夫と些細なことで口論になりました。テレビのチャンネルか、味噌汁の味付けか、もう内容も覚えていません。とにかくお互いが「またか」という顔をして、私は買い物に出かけるためにそのまま家を出てしまったのです。ホームに立ったとき、すでに気持ちが沈んでいました。電車に乗り込んでも、座席は埋まっています。50代の頃なら気にもしなかった立ち姿勢が、最近は腰にこたえるようになりました。
つい口から出てしまった一言
目の前の優先席ではない座席に、若い女性が目を閉じて座っていました。ぐっすり寝ているわけではなさそうなのに、目を開ける気配がありません。普段の私なら、そのまま立っていたと思います。けれど、その朝の私は違いました。口から、ぽろっと出てしまったのです。
「最近の若い子は席も譲れないのね」 言ってしまってから、しまったと思いました。彼女ははっと目を開けて、すぐに立ち上がってくれました。 「すみません、気づかなくて」 丁寧に頭を下げ、席を空けてくれたのです。私は無言のまま、その席に座りました。お礼を言うのもばつが悪く、ただうつむいていました。
ドア際で揺れる、青白い横顔
発車してしばらく、ふと顔を上げると、彼女はドア付近に立っていました。つり革に掴まりながら、額にハンカチを当てています。電車が揺れるたびに、その体も力なく揺れていました。横顔が青ざめているのに気づいたのは、そのときです。あの子は、目を閉じていたわけではなく、つらかったのだ。それでも私の一言で、すぐに立ち上がってくれた。私は何をしているのだろうと思いました。夫との喧嘩の苛立ちを、何の関係もないあの子にぶつけてしまった。それも、皮肉という一番卑怯な形で。
そして...
私の降りる駅と、彼女が降りた駅は同じでした。ホームに降りる彼女の足取りは少しふらついていました。私は意を決して「あの」と呼び止めました。 「こっちこそごめんね」 そう言って、頭を下げました。彼女は驚いた顔で「いえ……」とだけ返してくれました。
家に帰る道すがら、私は何度もあの青ざめた横顔を思い出していました。年を重ねるほど、若い人の事情が見えなくなっていく自分が情けなくて、けれど最後にひとこと言えてよかったとも思います。次に席を譲ってもらう日があれば、まずきちんと「ありがとう」を言える私でいたい。そう思った朝でした。
(70代女性・主婦)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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