『花火大会行かない?』『混むから嫌』省エネ彼氏のベランダで見た花火と、用意されていたもの
2往復で終わったメッセージ
日曜の昼下がり、私はソファでスマホを開き、彼にメッセージを送りました。今年こそは浴衣を着て、屋台で何か食べて、川沿いで花火を見上げたい。
「花火大会行かない?」そんな気持ちを込めた誘いでした。
「混むから嫌」返事は5分もしないうちに届きました。それだけでした。短い返信を見つめながら、思わず画面に向かって「えっ」と声が出てしまいました。食い下がるのは負けた気がしてためらいましたが、それでも諦めきれずに打ち直して「花火見たいんだけど」と送信しました。「ベランダから見える」ひとことだけの返信でした。
私はスマホを置いて、ため息をつきました。「行きたくない」とか「人混みが疲れる」とか、もう少し言葉を尽くしてくれる余地はなかったのかと、しばらく天井を見上げていました。
浴衣を出すかどうか迷った数日間
それから数日間、何度かクローゼットの前で立ち止まりました。去年の夏に買った浴衣は、まだ袖を通していません。一緒に花火を見るのが嫌なわけじゃない、ただ場所が彼の家のベランダなら、浴衣まで着ていくのは大げさかもしれない。そんな迷いがありました。
それでも当日の朝、私は浴衣を出して着ることにしました。せっかくの花火大会の日です。場所がどこであれ、自分の中で「特別な日」にしたかった。帯を結びながら、屋台で食べたかった焼きそばや、お祭りの空気を思い浮かべて、少し寂しい気持ちになりました。
鏡の前で何度か帯の位置を直して、家を出ました。彼の家までの道のりで、すれ違う浴衣姿の人たちが少し羨ましく見えました。
玄関を開けた彼が見せた顔
彼の家のチャイムを鳴らすと、すぐにドアが開きました。私の顔を見た彼は一瞬目を見開いて、それから「うん、似合ってる」とひとこと、ぶっきらぼうに言いました。
リビングに通されて、私は思わず立ち止まりました。テーブルにはコンビニとは違うパックの焼きそばと、枝豆が並んでいたのです。冷蔵庫を開けた彼が「焼きそばあるよ。あと、ラムネ冷やしておいた」と言って、瓶を取り出しました。 「混むから嫌」と言ったあの返信からは想像できない準備でした。屋台じゃないし、お祭りの賑やかさもない。それでも、人混みを避けることしか頭にないと思っていた彼が、こんなふうに私のことを考えてくれていたのだと、ようやく腑に落ちる気がしました。
そして...
ベランダに出ると、遠くの空に花火が打ち上がりました。彼が冷やしてくれたラムネを片手に、二人並んで見上げる花火は、川沿いで見るのとは違う、けれど確かに夏の景色でした。 あのメッセージのやりとりだけを思い出すと、今でも少しだけ悔しさが残ります。「ベランダから見える」のひとことで終わらせず、もう少し気持ちを伝えてくれてもよかったのに。それでも、彼が彼なりの形で夏を迎えてくれたことは、今年の私の中に確かに残りそうです。 来年こそは屋台で焼きそばを食べたい。そんなお願いは、また次の夏に取っておこうと思います。
(20代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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