息子が友達に「うちのお母さんはお弁当作ってくれない」と言った夜、私は朝の支度をやめようと思った
偶然耳にしてしまった一言
その日は早めに仕事を切り上げ、夕方の買い物を済ませていました。アパートの角を曲がろうとしたとき、塀の向こうから息子と友達の声が聞こえてきたのです。
「俺、今日もコンビニで好きなの選んできた。マジ最強じゃん」「いいなー、うちは弁当だわ」そのあとに続いたのが、息子の声でした。
「うちのお母さんはお弁当作ってくれないからさ」
買い物袋の取っ手を握り直したまま、私はその場から動けませんでした。
作り続けてきた朝の意味
家に帰ってからも、息子の声が頭の中で繰り返されていました。私は毎朝5時半に起きて、息子の好物を考えながら弁当箱に詰めてきたつもりでした。彩りも、おかずの配分も、忙しい朝に少しずつ工夫してきたのです。
それなのに、息子は友達の前で「作ってくれない」と言った。理由を問いただしたい気持ちと、息子に恥をかかせたくない気持ちがせめぎ合って、夕食の席では何も言えませんでした。
息子はいつも通り「ごちそうさま」と笑っていて、その表情がよけいに分からなくなりました。
明日からはやめてみようと思った夜
お風呂を済ませて寝室に向かう前、私は台所に立って明日の下ごしらえを始めようとしました。けれど冷蔵庫の取っ手に手をかけたまま、私はしばらくその場に立っていました。やっぱりやめよう、と思って電気を消したのです。
作っていないことにして、息子が困る顔を一度くらい見ればいいのかもしれない。そんな小さな仕返しのような気持ちが湧いてきました。明日のお弁当はやめよう。代わりに、何も言わずに普段通りの朝を装おうと決めました。
布団に入っても、なかなか眠れませんでした。私の作る弁当は、息子にとって何だったのだろう。考えるほど、答えが遠くなっていく気がしたのです。
そして...
翌朝、目覚ましより早く、何かが焦げる匂いで目が覚めました。台所に行くと、息子がエプロンも着けずに、流し台の前で立っていたのです。
フライパンには真っ黒に焦げた卵焼き、調理台にはこぼれたご飯、シンクには卵の殻が割れたまま散らばっていました。息子は私の足音に気づくと振り返って、目に涙をためたまま、「お母さん、ごめんなさい。昨日、嘘ついた」と言いました。
私は何も聞こえなかったふりをしようと決めていたのに、その瞬間、自分の決意がどれほど子どもじみたものだったか思い知りました。
「もういいよ。一緒に作ろう」そう答えるのが、私にできた精一杯でした。明日からも私はお弁当を作ります。今度は二人分のおにぎりを、息子と一緒に。
(40代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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