「おはようございます」と送り始めた俺が、彼女に言えなかった祖母との最後の約束
祖母が残した一冊のノート
祖母が亡くなる少し前、入院先で一冊の古いノートを渡されました。中には、若かりし頃の祖父が祖母に宛てて書いた手紙が挟まれていました。仕事で離れて暮らしていた数年間、毎朝欠かさず書いていた手紙だそうです。どれもすべて、丁寧な言葉遣いで綴られていました。
「大切な人には、言葉の一つひとつを丁寧に選びなさい」。祖母が何度も繰り返した言葉です。俺は頷くだけで、その意味を深く考えたことはありませんでした。病室のベッドの上で、祖母は穏やかに笑っていました。
「おはようございます」と打った朝
葬儀を終えた翌週の月曜日、いつものように「おはよう」と打ちかけたところで指が止まりました。祖母の声が耳の奥でよみがえって、気づいたら「おはようございます」と打っていたのです。
送信ボタンを押した瞬間、自分でも驚きました。彼女から返ってきたのは、絵文字ひとつ。戸惑わせてしまったとわかりました。それでも、普段の「おはよう」に戻す気にはなれません。祖母の言葉を守ることが、今の自分にできる唯一の弔いのような気がしたのです。
「なんとなく」としか言えなかった理由
「なんで敬語なの?」と彼女に聞かれたとき、本当はちゃんと話すつもりでした。祖母のこと、手紙のこと、約束のこと。でも、口を開けば祖母の穏やかな笑顔が浮かんできて、声が詰まりそうになります。
結局、俺は「なんとなくだよ」と答えました。情けない返事でした。彼女の傷ついた顔を想像し、胃の奥がきゅっとなりました。伝えたい気持ちと、伝えたら崩れてしまう気持ちが、喉の奥でぶつかり合っていたのだと思います。
そして…
週末、部屋を訪ねてきた彼女が、祖母の写真に気づきました。そこで初めて、俺はたどたどしく全部を話しました。話しながら、自分でもわからないうちに目頭が熱くなりました。
彼女は何も言わずに、そっと手を握ってくれました。翌朝、彼女から届いた「おはようございます」の文字を見て、胸の奥が温かくなりました。丁寧な言葉の向こう側に、ちゃんと気持ちが届いている。祖母が伝えたかったのは、こういうことだったのかもしれません。これからも、少しぎこちなくても、この挨拶を続けていこうと思います。
(20代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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