十年ぶりに娘へ「今さら関わってこないでよ」と言われた日。それでも、顔が見られればそれでよかった
連絡しようと決めた夜
肺に影が見つかったのは、半年ほど前のことだ。検査を重ね、最終的に医師から告げられた言葉を、俺は一人で聞いた。アパートに戻ってから、引き出しの中にある娘の古い写真を取り出してしばらく眺め、会いたいと思った。
ただそれだけだ。
ただ、病気を理由に来させるのは違う気がした。心配をかけて、申し訳なさそうな顔をした娘と向かい合うのは、自分には耐えられない。だから「ただ会いたい」だけを理由にしようと、そう決めた。
「今さら関わってこないでよ」
駅の改札から娘が出てきたとき、思わず目頭が熱くなった。大人になっていた。当たり前のことが、こんなにも胸に刺さるとは思わなかった。
喫茶店で向かい合い、何から話せばいいかわからず、俺はコーヒーカップを両手で握っていた。「なんで急に連絡してきたの」と娘が聞いてきた。「ただ、会いたかっただけだよ」と答えた。本当のことだから。「今さら関わってこないでよ」という言葉が返ってきた。怒りじゃなく、積み重なった寂しさの声だと思った。だからただうつむいた。
「元気そうで良かった」
しばらくして「元気そうで良かった」と言った。それが本心だった。それだけで十分だと思っていた。
病気のことは話さなかった。話せば娘は罪悪感を持つ。「会いに来るんじゃなかった」と思わせたくなかった。アパートまで一緒に歩き、玄関先で別れた。娘はほとんど振り返らずに歩いていった。胸の奥がきゅっとなったが、それでよかった。来てくれた。顔が見られた。
そして…
アパートに戻ってから、テーブルの封筒に気づいた。片づけるつもりが、すっかり忘れていた。帰り際、娘がドアの隙間から室内を見た気配があった。もしかしたら、気づいたかもしれない。
それでも、俺から連絡するつもりはない。ただ、娘の方から何か来たとき、そのときは正直に話そうと思っている。来なくても構わない。あの日、「元気そうで良かった」と伝えられた。それが、俺にとって最後の親らしい仕事だったのかもしれない。
(50代男性・製造業)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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