アニメ「逃げ上手の若君」、話題となった理由に迫る

最終回直前、アニメ「逃げ上手の若君」が話題となった理由とは? 他作品と一線を画す主人公、実験的な作画演出……

2024.09.28 10:30
アニメ「逃げ上手の若君」、話題となった理由に迫る

今期の話題作となったTVアニメ「逃げ上手の若君」(毎週土曜深夜11:30-0:00ほか、TOKYO MXほか/ABEMAほかで配信)。現在第十一回までが放送されており、物語はクライマックスを迎えている。最終回を前に、本作が優れていた点を振り返りたい。(以下、ネタバレを含みます)

これまでのジャンプ作品と一線を画す主人公

秋の訪れとともに続々と最終回を迎えている夏アニメ。今期もラインナップが豊富だったが、その中でも話題作となったのが「逃げ上手の若君」だ。

本作は、「魔人探偵脳噛ネウロ」「暗殺教室」で知られる松井優征が週刊少年ジャンプ(集英社)にて連載中の歴史スペクタル漫画が原作。鎌倉幕府滅亡後、北条家の生き残りである北条時行(CV:結川あさき)が謎多き信濃国の神官・諏訪頼重(CV:中村悠一)に逃げ隠れの才能を見出され、仲間とともに鎌倉奪還を目指す冒険譚となっている。

「友情・努力・勝利」というジャンプの王道パターンを踏襲する本作だが、これまでと大きく異なるのは主人公が“逃げ腰”だということ。北条家の正統後継者でありながら武芸の稽古から逃げ続け、幕府滅亡に際し一族のほとんどが討ち死にか自害を選ぶ中、時行だけは頼重の助けで生きおおせる。誇りのために戦い、いざという時は潔く死ぬことこそ美徳とされたこの時代。多くの人間は時行の生き様を恥と非難するかもしれないが、頼重はそれこそが英雄になるための素質であると肯定するのだ。

逃げることを良しとする姿勢は今っぽいと言えば今っぽいが、本作は決して「逃げること」それ自体を肯定しているわけではない。生死を賭けたスリルに興奮と快楽を覚える“生存本能の怪物”で、敵から逃げているときの姿がまるで鬼ごっこを楽しんでいるようにも見える時行。そんな主人公の人生を通して、「生きること」から逃げず、命ある限り人生を遊び尽くすことを賛美する物語なのだ。

未来が見える頼重の視点で日本の中世を楽しく学べる

あくまでもフィクションとはいえ、基本的な流れが史実に沿っており、日本史の勉強にもなるのが嬉しいポイント。それでも不思議ととっつきにくい感じがしないのは、諏訪頼重という存在のおかげでもあるだろう。頼重は神力を操ることができ、おぼろげながら未来をも見ることができるキャラクター。そのため、メタ的な発言が多い。

例えば、小笠原貞宗(CV:青山穣)と犬追物で対決することになった時行が馬上で身体をひねり、敵に逃げながら矢を放つ「押し捻り(おしひねり)」を繰り出す場面では、頼重が「未来ではもっと少年心をくすぐる通称で呼ばれるようだ」とニヤリ。そこからナレーションでこの「押し捻り」が紀元前に中東のパルティア王国が世界最強の国家だったローマの大群を撃破した後ろ射ち戦術のことであり、のちに「パルティアンショット」と呼ばれるようになることが明かされる。

他にも、第十回では頼重が人の住まう範囲が広がり、人の目につかない場所がどんどん減っていけば、時行のようなお尋ね者はすぐに捕まってしまうと説明。その場面では、渋谷のスクランブル交差点にある大型ビジョンに時行の姿が映し出される演出がとられた。そうした頼重の俯瞰した視点があるおかげで、私たちは現代の日本に置き換えながら楽しく物語の舞台である中世を学ぶことができるのだ。

物語にメリハリをもたらす実験的な作画演出

本作のアニメ化にあたっては、「SPY×FAMILY」や「ぼっち・ざ・ろっく!」など数々のヒット作を手がけてきたCloverWorksが制作を担当。監督の山崎雄太、キャラクターデザインの西谷泰史、色彩設計の中島和子など、作画の技術が高く評価された「ワンダーエッグ・プライオリティ」のスタッフが集結しているのは特筆すべきポイントだ。

本作も今期No.1と言えるほど作画のクオリティが高く、初回の放送直後からSNSで「作画素晴らしすぎて言葉失うどころじゃない」「控えめに言っても神レベルの作画では!?」「ただただ圧倒される」と絶賛の声が上がっていた。

CGやエフェクトと組み合わせてダイナミックな戦闘シーンを作り出す「鬼滅の刃」や、キャラクターの心情を繊細に表現した「【推しの子】」など、作画レベルの高さが話題になった作品はいくつもある。その中でも、本作を唯一無二の作品たらしめているのは作画演出の豊富さではないだろうか。

例えば、第二回では焼き払われた鎌倉の街が水墨画のようなタッチで描かれており、その中を歩く時行の絶望感や戸惑いがよりくっきりと浮かび上がった。続く第三回では、時行たち一行が鎌倉から信濃国へ移動する過程が絵巻風のイラストで描かれる。戦闘シーンでも敢えて荒々しい筆使いで敵の勢いを表現したかと思いきや、あくまでも“鬼ごっこ”を楽しむ時行の軽やかさを繊細な線画で見せるなど、本作はこうした実験的な作画演出によってメリハリをつけ、視聴者を飽きさせない。他にも中世日本の風景を繊細に描いた背景美術、鮮やかでどこかレトロな配色、時代劇を思わせる手書きテロップなど、細部にわたって作り手のこだわりが感じられる本作。第十二回「がんばれ時行、鎌倉奪還のその日まで」は、本日9月28日夜11:30から放送だ。

◆文/苫とり子

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