疲れた心にじんわり刺さる。吉本ばなな『幸せへのセンサー』から学ぶ“幸せの本質”

疲れた心にじんわり刺さる。吉本ばなな『幸せへのセンサー』から学ぶ“幸せの本質”

2024.09.21 11:10

これまで何かに傷つくたび、疲れ果てるたびに自己啓発本を手にとってきた。本屋に行くと数え切れないほど、心のストレスに向き合うための本、疲れを癒やすための本が置いてあって、どの本も読めば、読む前よりスッキリする。だけど意外にも、また疲れが溜まった時に「もう一度読み返そう」と思える本がなかった。

言っていることはなんとなく分かる、思っていることを言語化してもらってスッキリはするんだけど、ただそれだけで。生理の時に飲む、痛み止めのようなもの。対処療法にはなるのだけど、心の傷に対する根本解決にはなかなかならない。

だけど今回は生まれてはじめて「何度も読み返したくなる」、カウンセラーのような本をやっと見つけることができた。

・他人にとってや社会にとっての「幸せ」と、自分の幸せは一緒とは限らない

・自分を理解することと、自己肯定感は違う

・「自分を愛すること」とは、日々の微調整を自分の価値観で行うこと

■小説家が書くエッセイ×自己啓発本

『幸せへのセンサー(吉本ばなな著・幻冬舎)』の著者は、1980年代から活躍する小説家。世界から評価される作家なので、有名な作品なら読んだことがある、という人も多いかもしれない。登場人物の感情の機微や、細やかな人間関係を描くのがとても上手い人で、女性ファンが多い印象がある。

もともと随筆もたくさん出版している人なのだが、この本は近所の本屋でも、小説やエッセイのコーナーではなく「啓発・心理」の棚にどーんと置かれていて気になった。そもそも、最近の自己啓発本は心理系の資格を持っている人、精神医療の従事者、脳科学に精通している人とか、はたまた恋愛について発信しているインフルエンサーとか、啓発に特化している人の作品が多いので、必然的にその人たちの本を手に取る機会が増えていた。

そういう本も、読んだ瞬間には心がスッキリするので決して悪くないのだけど、この本はひと味違った。吉本ばななさんは、たとえ話が上手い。本は、私たちが日常で抱えやすいストレスの正体や、心の疲労を回復するにはどうしたらいいのかなどに触れられているのだが、たとえ話に自然と共感せざるを得ない。

彼女が具体的に挙げてくれる一例が「たしかに……」と思わざるを得ないもので、そしてすごく日常的なものなので、自分が疲れちゃう瞬間ってこういう時だったんだなあ、と自然に理解できる。

■じんわりと心に刺さる、独り言のような教え

そして本の中で吉本さんが勧めているのは、幸せを察知する「心のセンサーを育てよう」ということ。周囲に気を使うことを美徳とする日本人の感性を肯定しながらも、自然と「自分が嫌なこと」を避けることができるようになることだ。

「いや、それってどういうことよ」と私も最初は思ったのだが、読み終わると自然とスッキリしている。あと、泣いた。すごく感動的な教えが書いてあるわけではないのだけど「人間って、こんくらいでいいんだな」と思えて、生きていくためのハードルが低くなったような気がして泣いた。

吉本さんの文章はすごく、自然なのだ。過度に誰かに何か教えようとしていない感じがする。彼女の独り言を盗み聞きしているような、そんな感じだ。本の中のたとえ話の一つに、現代のSNSについての話があったのだが、投稿で流れてくる知らない誰かの「伝えたい!」という思いにも、疲れ果てていたのかもしれないと気付いた。

ある意味、自己啓発本もそういうものだ。啓発本を手に取る時、人は何かに傷ついて弱っている時なので、本も著者も「君を助けるよ!」と言わんばかりにライフハックをたくさん教えてくれるのだが、よく考えたらそういうものも疲れる。誰かに話を聞いてほしいし、言語化してほしいから啓発本を読んでいるのだが、たいてい教えてくれるハックの中に「そんな考え方できたら苦労してないっつーの」というものが混ざっている。

本の中には、そういうものがひとつもなかったように感じた。体験談も踏まえて書いてあるので、感じ方・やり方を押し付けられている感じがしないし、そもそも彼女自身が実践している方法がすごく自然なことなので、結果的に「頑張る、のハードル」が下がったように感じるのだ。

とはいえ、最近は「頑張るハードルを下げること」をテーマにして書かれた啓発本も多い。だけどこの本はそれだけをテーマにまとめられているわけではないところもよかった。頑張りすぎるのも、頑張ることを辞めようとしてみるのも違う。というより、誰かに勧められてやらなくてもいいんだと思えたのが、すごくよかった。

■言葉のプロの文章に癒やされて

心理学とか脳科学とか関係なく、人間というものがなんなのかをよく考えてきた人が紡ぐ文章は、なだらかで優しい。彼女が人間心理の専門家ではなく、言葉と文章に心身を注いできた人だからということも大きかったかもしれない。時に「こういうことをするのは不幸だ」と言い切っている文章もあったが、選び取っている言葉が優しいので、考え方を押し付けられたような感じがしないのだった。

日本は識字率が高く、誰でも日本語を書けるので、今のインターネットは「言葉のプロ」ではない人の文章も溢れている。心理学の専門家も、言葉のプロだとは限らない。だから、同じようなことが書かれていても、読んだ側の感じ方が違うのかもしれないと思った。

ストレスや心の問題に関することは、あまりに十人十色すぎるしケースバイケースすぎるので、本やSNSで、誰もに向けた内容を作ることは難しい。だから今、世の中には極論が溢れている。会社を辞めてフリーランスになるのも、服を10着にしてフランス人のような生活を送るのも、あまりにも極端すぎるし、それで全員が幸せになるわけではない。

「自分には実践できない」と思ってしまうような極論の押し付けに疲れてしまっている人、ぜひこの本を手にとってほしい。ちなみに、Amazon Audibleでは千葉雄大さんによる朗読も配信されている。本を手に取る時間がない人は、こちらも試してみてほしい。中性的で優しい声色に、きっと癒やされると思う。

(ミクニシオリ)

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