観ると物欲が消える!?「もう洋服買わない」「セール行く気失せた」の声
2024.07.11 17:05
「ゴミ山からドレスはつくれるかー。」環境に大きな負荷がかかっていると言われるファッション業界。一人の日本人デザイナーが、ケニアに渡ってその現実を目の当たりにし、パリのオートクチュールコレクションに挑むまでの過程に密着したドキュメンタリー映画『燃えるドレスを紡いで』が公開されています。今回はファッションモデルとして活躍する有里さんが、映画を観て抱いた気持ちを綴ってくださいました。
衣服はどこから来て、どこへ向かうのか。ファッション業界の抱える課題
私たちは毎日、当たり前のように衣服を着ています。しかし、それらがどこからやってきて最終的にどこへ向かうのか、考えたことはありますか?『燃えるドレスを紡いで』は、ある日本人デザイナーがファッション業界の課題に向き合い、悩みもがきながらもコレクションを発表するまでの軌跡をたどったドキュメンタリー映画。大量に生み出されては消費され、環境に大きな負荷をかける、ファッション業界の“見えない部分”を映し出します。 パリ・オートクチュールコレクションの舞台で、森英恵さん以来2人目となる日本人ゲストデザイナーに選ばれた中里唯馬さん。彼が「衣服の最終到達点が見たい」とアフリカ・ケニアに渡るところから、映画は始まります。
ケニアに渡った中里さんが目にした、衣服の行き着く先
世界には、着なくなった衣類が世界中から集まる廃棄スポットがいくつかあり、ケニアの規模はその中でも最大級といわれているそう。私は冒頭から美しい音楽の心地よさに包まれながら「何かできることがあるかもしれない」という希望を持つ中里さんの視点に立ち、映像を見ていました。 しかしそこで中里さんが目にしたのは、積み上げられた衣服が大量に積み上げられてゴミ山と化し、強烈な異臭を放っているショッキングな光景。華やかなファッション業界の裏側にある過酷な現実に、中里さんは言葉を失います。このゴミ山は、大量生産・大量消費の体質が作り出したものにほかなりません。私が生まれ育った時代も例外ではなく、たくさん消費して経済を回すべきだ、安く買い物するのが正義だ、という風潮があったように思います。私も少なからずファッションの世界に身を置く者として、この光景から目を背けてはいけないと感じました。 中里さんは、気候変動の影響で雨が降らなくなった砂漠地帯にも足を運びました。水がない極限状態の環境の中、そこで暮らす部族の人々が纏うのは、色とりどりのビーズで作られた装飾品や皮の衣服。機能性や合理性を重視せず、自己表現をするためのおしゃれとして衣服を纏っていたのです。ゴミ山を見て絶望していた気持ちが少しやわらいだ中里さんは、新たなコレクションへのインスピレーションをかきたてていきます。
ゴミをドレスに生まれ変わらせる。前代未聞の挑戦
帰国後、ゴミとなった衣服をドレスに生まれ変わらせることに挑んだ中里さん。日本の企業とタッグを組み、環境への負荷を最小限に抑える方法で服を作っていきます。ゴミとなった衣服をオートクチュールという高級品に生まれ変わらせ、世界最高峰の舞台・パリコレで発表する。これが中里さんの「いま、自分に何ができるのか?」という問いに対する答えでした。ファッションの“見えない部分”に思いを馳せる
私たちが服を選ぶ際、その商品を手にした時に感じるトキメキはもちろん大事です。それだけでなく、愛の目を通し、最後まで全うさせてあげられるかな?と先の先を考えてから購入する。するとさまざまな可能性が見えてきます。中里さんの抱くデザイナーとしての葛藤や、ケニアに住む人々の姿。そしてファッション業界の課題を解決するべく奔走する中里さんの挑戦や日本企業の努力など、本作を見なければ知りえなかったことがたくさんありました。ファッションの“見えない部分”に思いを馳せることで、いま持っている衣服をもっと愛せるようになるかもしれません。 消費者としての責任、地球に住むものとしての責任。私に何ができるのか、何をやめるのか、行動の足し引きを考えるスタート地点に立てたような気がします。
そういえば、最近何年も花を咲かせていなかった我が家の胡蝶蘭に蕾がつき、4つも花が咲きました。あきらめないでよかった、とホッと温かい気持ちになりました。出来ることは小さいけれど、愛をかけて向き合ったとき、それが糸のように紡がれて、見たこともない花が咲くのです。
映画のラストシーンでは、中里さんが生み出した数々のクチュールたちが、まさに美しく色とりどりに輝いていました。いま、この原稿を書きながら、葛藤の中で生まれた美しい映像をふと思い出します。
writer / Sheage編集部 photo / 『燃えるドレスを紡いで』
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