傭兵の報酬は“1作戦8000円”元傭兵・高部正樹が明かす「命と金」の現実
「傭兵は高給取り」──そのイメージは現実とは大きく異なる。アフガニスタンでは1作戦8000円、無給の戦場すらあったという元傭兵・高部正樹氏。なぜ命を懸けながらも金を求めなかったのか。そして2000年代、PMC(民間軍事会社)の登場によって一変した“傭兵ビジネス”の実態とは。金で命が計られる戦場の裏側を証言する。
90年代、傭兵の報酬は決して高額ではありませんでした。アフガニスタンに行った時は、1回の作戦で日本円に換算すると8000円程度でした。現地通貨では大変な枚数になりますが、それだけ現地の貨幣価値が低かったということです。
私が傭兵を始めた頃、戦争が行われていたのは発展途上国ばかりで、資金が不足していました。ミャンマーでカレン軍についた時は無給でした。ボスニアでは階級をもらって、階級に応じた報酬も出たんですが、それでも月に3万円弱でした。ただ、それに満足していました。
行く前に報酬が決まっていたのはボスニアだけでしたが、そもそも私はお金が欲しくて戦地に行ったわけではないので、お金の話も一切しませんでした。ボスニアで金額を提示された時も、「お金の話をするのか」と驚いたくらいです。それは私に限らず、他の国から来た兵士も同じでした。お金に執着していませんでした。
報酬が少ない分、定期的に帰国して、日本でお金を稼がなければいけませんでした。だから現地で金銭面での目処が立つようになってからは、日本に帰る頻度が減りました。それまで2、3か月に1回くらい帰っていたのが、年1回程度になりました。
傭兵業界がお金にシビアになったのは2000年代に入ってからです。イラク戦争にアメリカが介入して、PMC(民間軍事会社)が活発に動き出したことで、月に数十万~数百万円という報酬が出るようになり、一気に状況が変わりました。PMC経由で戦地に行くと、日給が5万円、10万円と急激に上昇しました。傭兵の実力とは何の関係もなく、スポンサーが変わっただけでした。
ただし法外な報酬が提示される場合には二つのパターンがあります。ものすごく危険なことをやらされるか、そもそも全員に支払う気がないか。たとえばカダフィ政権崩壊前のリビアでは、法外な報酬で募集をかけ、各国から素人も含めて人員をかき集めました。玉石混交の状況となり、前線に投入すれば当然多数の兵士が戦死します。ごくわずかしか生存者がいないため、法外な報酬でも支払うことができるのです。
傭兵が戦地を選ぶ自由はあります。選ぶ基準は人それぞれ。私の場合、最初はアフガニスタンを選びましたが、当時、ソ連は共産主義の中心的存在でした。私は共産主義に反対していたため、ソ連との戦いができる場所だと思って選びました。また、この業界で生きていこうと考えていたため、アフガニスタンでの経験は将来的に経歴として価値があるという計算もありました。傭兵それぞれが信念を持っており、たとえば「イスラエルを相手に戦わない」といった線引きをしている者もいました。
宗教や思想も影響します。アメリカ人はしばしば「フリーダム」と言いますが、自由のために戦います。ヨーロッパ人はアメリカ人より冷静で、「冒険を楽しむのだ」と斜に構える傾向があります。日本人はジャスティス――正義のために戦います。そのような民族性による傾向も見られます。
同じ戦地でも、その時によって報酬は変わります。分かりやすい例を挙げると、1990年の湾岸危機と、2003年のイラク戦争では、大きく報酬が違いました。私は湾岸戦争の際、イラク側につこうとバンコクのイラク大使館で交渉し、実際に雇われることになりました。この時は120万円を支払うと言われていました。ところが現地に行く前に開戦して、あっという間に終わってしまいました。
2003年のイラク戦争ではオファーは来たのですが、お断りしました。理由は情勢が大きく変わったからです。イラクの敗北は確実に避けられない状況でした。また、当時のイラクにつくとテロリストと見なされ、その後はアメリカなど西側諸国に入国できなくなる可能性等デメリットが多く、また日本人でありながら日本での行動も困難になる恐れがあったためです。この時の報酬は、そもそも行く気がなかったのであまり聞いてなかったのですが、40万円くらいだったと思います。
私が傭兵を始めた1980年代後半から1990年代は、傭兵を募集する情報は人づてで届きました。インターネットもそれほど発達していなかったため、電話やFAXでやり取りをしていました。2000年代に入ってからはメールになりましたが、それでも基本は紹介で、公に情報は出ていませんでした。
日本で「戦地に行きたい」と言ったところで、「それは映画や小説の世界の話だ」と一笑に付されるだけでした。ところがウクライナ侵攻が始まった頃、「ウクライナが外国人の兵士を募集しています」と大々的に情報が出回りました。ただ、情報が溢れている分、フェイクニュースもありますし、公開されている情報に安易に従うと危険な目に遭うこともあるので、軽々しく信じるべきではありません。
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