

魚売場の鮭から現れたアニサキス、人体への影響に「怖すぎる」の声 東京海洋大学に正体を聞いた
スーパーの鮮魚コーナーの秋魚から発見された「奇妙な糸」が話題。その正体・アニサキスの厄介すぎる恐ろしさに、驚きの声が上がっている。
「寿司」に代表されるように、国土を海に囲まれた我われ日本人は生魚が大好きな民族。
しかし現在X上では、とある鮮魚店が投稿したポストの内容を受け、生魚に潜んだ「恐ろしさ」に再注目が集まっているのだ。
売り場の魚に「ウネウネした物」を発見したら...
ことの発端は、Xユーザー「魚屋さん@がんばらない」さんが投稿したポストである。
https://twitter.com/Love_marinelife/status/1965324258592309350
【場末の魚屋からのお願い】と題した投稿の内容は、「もし魚売場の秋鮭やサンマに、こういうウネウネ動く紐みたいなのが居たら、こっそり近くの店員に教えてください...切ってるとき、売場に出すとき、商品並べてるときにチェックしてても出てきちゃうので、教えてくれると助かります」というもの。
そしてポストに添えられた写真には、鮭の切り身の中から、春雨のように糸状で透明な物体が飛び出している様子が収められていたのだ。

こちらの物体の正体は、海産魚やスルメイカなど海洋生物に寄生する寄生虫(線虫)のアニサキス。寄生された魚を媒介として人体に侵入すると、食中毒などの作用をもたらす存在である。
こちらの光景は瞬く間に話題となり、投稿からわずか数日で1万件以上ものリポストを記録し、Xユーザーからは「焼けば大丈夫...ですよね?」「これ、店員さんに伝えて良かったんだ」「生き物だから仕方ないとはいえ、見つけると驚く」「こればかりは、本当に仕方ない」「アニサキスは心配だし、怖いですよね...」といった具合に、驚きと同情、そして共感の声が多数寄せられていた。
投稿主は「勤務先の店舗で発見した」
今回のポストの経緯について、ポスト投稿主・魚屋さんは「勤務している店舗で商品整理をしている際、生の秋鮭から這い出してきたアニサキスを撮影したものになります」と、説明する。
アカウント名の通り、スーパーの鮮魚部門で働いているという魚屋さんは「私達が扱ってる商品には、じつはこういう生物がいて、裏で必死になって取っているので、お客さんの目に付きません。しかし『もし、万が一見かけたら教えてくださいね』くらいの気持ちで投稿しました」とも語っていた。

通常、大きいスーパーや専門店では魚、および切り身にアニサキスが潜んでいないか念入りにチェックを行うが、店頭に並ぶほど時間が経つと、見逃してしまったアニサキスが魚の体内から姿を現すケースもあるという。
購入後に発見した場合については、「大手のスーパーや専門店でしたら基本的に返金、もしくは交換対応になります」とも補足していた。
当該のポストに寄せられた声を見ても、「焼けば安全」という、食中毒対策の基本を理解している人が多く確認できたが...じつはアニサキスには、こうした対策を上回る厄介な性質が存在するのをご存知だろうか。
その謎に迫るべく、今回は東京海洋大学 食品生産科学部門・准教授にしてアニサキスアレルギー協会の理事を務める嶋倉邦嘉氏に、詳しい話を聞いてみることに。
食中毒の「統計」をそのまま受け取るのは危険
病気の原因や感染経路といった傾向を理解するのに重要となるデータが「統計」だが、それがアニサキスの食中毒となると、事情が少し変わってくる。

たとえば、アニサキスが寄生している魚の具体例について、嶋倉氏は「色々な海産魚が原因となりますが、厚生労働省の食中毒統計上では、近年はサバ、イワシ、アジなどによる食中毒事例が多いようです」と説明。
これを聞いて「サバやイワシ、アジが危険なのか!」と早合点をした人もいるかもしれないが、ここには「統計の落とし穴」が存在する。まず前提として、なんと日本近海で獲れる海産魚のうち、アニサキスの寄生報告がある魚は150種類以上に及ぶという。
こちらの事実を踏まえ、嶋倉氏は「たとえば、にぎり寿司1人前や、刺身の盛り合わせを食べた場合、どの魚に寄生していたのかが分からないので、食中毒統計では『複数の魚種名』、あるいは魚種が『不明』として載ってしまいます」と、説明している。
直近5年間の食中毒統計によると、原因魚種として「サバ」が毎年トップに君臨している。実際、サバにおける寄生率は高く、筋肉内寄生が認められるケースもあり、内臓を取り除いた加工品から発見される場合すらあるという(冷凍で流通した場合、虫は死亡している)。

しかし、これは「150種以上いる魚の中でサバの感染率がぶっち切りで高い」という証明にはならない。
嶋倉氏は「たとえば、昨夜食べたのは『しめさば』だけ、『あじのたたき』だけというように、医師の問診で1種類の魚として挙げられるのは大抵が多獲性の大衆魚ですから、イワシやアジなどは原因魚種として表面化しやすいのではないでしょうか」と、分析している。
つまり、アニサキス自体は様々な種類の魚に寄生しているが、それが「統計」という形で顕在化し、目に触れやすいのは、多くの一般市民にとって身近な「大衆魚」というカラクリである。
また、食中毒による腹痛を発症したとしても「病院に行くかどうか」は個人の自由である。読者諸君の中にも「風邪は自力で治すから、病院には行かない!」という思想の人物がいるのではないだろうか。
そして、食中毒の統計というのは症状の起こった人物が病院へ行き、医師によって「アニサキス症」と診断されない限り、統計上のデータには載らない。
つまり、胃薬を飲んで自宅で耐えた、大した痛みではなかったから放置したら治まった、などの事例の中には、じつはアニサキスが犯人だったという潜在的な危害もあり得るワケだ。
こうした事情を踏まえ、嶋倉氏は「実状では、統計の数以上に食中毒の発生件数は多いと思われます。そのため、私たちは常日頃からアニサキスに気を付ける必要があると言えます」と、注意を喚起している。
悪夢のアニサキスアレルギー
食中毒を防ぐのに有効なのは、やはり調理加熱。冷凍処理も有効で、一般的に「死んだ寄生虫は無害」と言われているように、死んだアニサキスやその欠片を食べてしまったとしても、アニサキス症に苦しむことはない。
それならひと安心...と言いたいところだが、この世には「アニサキスアレルギー」というものが存在するのだ。

専門家の嶋倉氏が「かなり厄介です」と眉をひそめる当該のアレルギーは、鶏卵や牛乳などで引き起こされる食物アレルギーやスギ花粉症と同様に、アニサキスに特異的な抗体(即時型アレルギーに関わるイムノグロブリン E、IgE)ができると、アレルギーによる諸症状が起きてしまうという疾患。
厄介な点としては、食中毒と違ってアニサキスアレルギーの場合、発症に「虫の生死は関係ない」という事実が挙げられる。
さらに、アレルギーを引き起こす原因物質(アレルゲン)として約15種類のタンパク質が知られており、そのうちの半分以上は虫体の構成成分ではなく、虫が体外へ分泌する成分であるという。
アレルゲンが15種類あるということは、当然人によって原因となるアレルゲンは異なる。そして、これらのアレルゲンは通常の調理加熱や冷凍処理では「アレルゲン性が失われにくい」という、悪夢のような特性を秘めているのだ。
嶋倉氏は「すなわち、加熱された魚肉、あるいは魚肉の加工品でも、アニサキスの分泌成分に汚染されてアレルゲンが含まれていたら、アレルギーによる諸症状が起きるリスクがあります。実際に、アニサキスアレルギーと診断された方が、魚類の出汁を使った料理で症状が出たという話を聞いたことがあります」と、補足している。

現時点では、アニサキスによる食中毒が原因で死亡したケースは報告されていない。しかし、アレルギーによる重篤な症例ではアナフィラキシーショックを引き起こし、生命の危険に晒される場合も起こり得る。
アニサキスアレルギーは、日本食のように海産魚類を高頻度で食べる食文化のある国々でも、問題視されつつあるアレルギー疾患の原因のひとつなのだ。
注意して安全に魚を食べよう
...と、ここまでの取材内容を読んで「もう絶対に魚は食べない」と決意した読者もいるかと思うので、ここから先は良いニュースをお伝えしたい。
まず、人体に寄生したアニサキスの幼虫は成長することなく、腹痛等を伴うものの、1週間程度で死亡する。当然、人体で卵は生まないため、それ以上の被害は発生しない。
また、養殖によって人工の餌で育てられた魚は、アレルギーのリスクは回避しきれないが、アニサキス症になるリスクは低い
そして現代には、紫外線(370nm付近)を当てると虫体が青白く発光することを利用した「アニサキスチェッカー」という文明の利器が存在するのだ。
その用途について、嶋倉氏は「魚の切り身などに使うと、ピンポイントで虫を見つけて取り除けます。しかし、筋肉内部の虫まで見つけ出すのは難しいでしょう。手慣れた人でも虫体の見落としがあるかもしれませんが、アニサキスチェッカーは、事故を未然に防ぐことへの有効性が高いというのは事実です」と説明している。
一般的にもネット等で入手しやすく、鮮魚店でも導入が普及しつつあるほか、釣りを愛好する人々にも広まっているという。
【今回話題となったポスト】
執筆者プロフィール
秋山はじめ:1989年生まれ。『Sirabee』編集部取材担当サブデスク。
新卒入社した三菱電機グループのIT企業で営業職を経験の後、ブラックすぎる編集プロダクションに入社。生と死の狭間で唯一無二のライティングスキルを会得し、退職後は未払い残業代に利息を乗せて回収に成功。以降はSirabee編集部にて、その企画力・機動力を活かして邁進中。
X(旧・ツイッター)を中心にSNSでバズった投稿に関する深掘り取材記事を、年間400件以上担当。生活の中で遭遇した「変わった生き物」に関する専門家取材を多数手がける。
(取材・文/Sirabee 編集部・秋山 はじめ)
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