「右が一輪車のプロだったあの日の私。左は妹」

フリー芸人は「逃げ」なのか「私はたくさんのことを諦めて、フリーでいるけれど」【連載:しょぼくれおかたづけ 第3夜】

2025.05.14 17:00
「右が一輪車のプロだったあの日の私。左は妹」

にぼしいわし・伽説(ときどき)いわしによる、日々の「しょぼくれ」をしたためながら、気持ちの「おかたづけ」をするエッセイ「しょぼくれおかたづけ」。 事務所無所属、いわゆる「フリー芸人」の立場で活動をするにぼしいわし。今でこそめずらしくない活動スタイルでありながらも、フリーゆえの困難や挫折、歯がゆい気持ちはたくさんある。決して前向きなことばかりではなかった日々、自らの迷走と反芻を繰り返しながらも、いわしが「フリー芸人」という立場を諦めずに立ち上がり続ける、その本音とは。

===

第3夜「諦めなければいつか夢は叶う、なんて」

一輪車をうまく乗りこなすために、移動はすべて一輪車にしていた小学生の私。

近所の公園で友達と遊ぶときも、近くのスーパーに母と買い物に行くときも、ピアノの稽古に行くときも、ずっと一輪車を漕いでいた。

その結果、空中乗りもアイドリングもお手のものになった。

一輪車は私に「練習すればうまくなる」ことを教えてくれた。そして、「諦めなければいつか夢は叶う」ことも教えてくれた。

今じゃこんなに手垢のついた浅はかな言葉はないと思う。

たくさん経験して、努力は簡単に人を裏切ることを知ってしまった。そんなことないとたくさん抵抗したけど、悔しいかな、そうだった。

「諦めない」と言えば美しい、でも結果が出なければ、その本質はただダラダラ続けているだけ。

結果が出ないのに続けた先には何があるか、「腐り」である。腐った結果、周りの人も、自分もとたんに信じられなくなる。

私たちは今、事務所に入っていない。無所属、フリー。響きだけはかっこいい。

「フリー? え? 事務所入ってないの? すごいね!」

「え! 全然すごくないです! 協調性ないだけです!」

ほら、また否定をしすぎて変な空気にした。おとなしい、勝ち気のない芸人だと思われた。売れないって思われた。

あ〜またコミュニケーションを失敗した。あれもこれも全部「腐り」のせいだ。腐っているからポジティブに捉えられない。

芸人において、フリーは難しい。今私が、この世でいちばん思っている。

やはり事務所に入っていた方がうまくいく確率が高いと、今の私は思ってしまう。

身近に売れている先輩がいないから話が聞けない。オーディションがない。ライブを自分たちでつくる。すべてが手探りだった。

フリーでいるならば、何かそれを超えられるような、突飛な才能と底抜けの努力が必要だ。

やっとの思いで売れるための鍵を掴んでも、掴んだ途端に手のひらで砕けて、砂になってすり抜けていく。掴めない。爪の間にも入らない。すり抜けたあとの手がきれい。

そして、何もしなかったのと一緒になる。

私は、「協調性がない」をフリーでいる理由にした。確かに協調性はない。

でも小中高ずっとチームスポーツでず〜っと、チームの調和を気にする副キャプテンだった。社会人になってもチームで動く仕事だった。新人指導もしていた。今も、平場でMCが困るような勝手なことはしない。協調性、ないわけではない。

がっかりさせて、申し訳ない。

何でフリーになりたいと思ったのか。

そりゃあさすがに最初は、縛られずにやってやろうじゃないのと思っていた。

大阪で、フリーで、売れる。誰もやってないことを成し遂げたい。そう思っていた。

でも今考えれば、もしかしたら心のどこかで「私たちには持ち味がない」と思っていたのかもしれない。この群雄割拠の芸人界で戦うためには、希少でいるためには、「私たち」という素材だけでは無理、と諦めていたのかもしれない。

自分の持ち味が見つからないがゆえの逃げなんじゃないか。猛者たちがいる場所で戦うことを避けているのではないか。

そう思ったし、おそらく多分そうだった。

フリー芸人として思うようにいかなくて、腐ってきた私は、結果までの道中をアピールしだすようになってしまった。

こんな仕事の打ち合わせをしました。オーディションをしました。収録に行ってきました。こんな変わったライブをします。

視聴者やお客さんが喜ぶかどうかは、結果なのに。そりゃあ結果までの過程を話してもいいとは思うけど、それはあくまで結果を出すことが前提なのに。

フリーという「逃げ方」をしていることを、自分はわかっていた。

だからこそ、フリーが逃げじゃないことを説得するために、「何かをやっているぞ」とアピールしないと耐えられなかった。

お客さんは、毎日ネタを書いていることには、お金は払わない。おもしろいネタにお金を払う。

ライブを主催しただけではお金は払わない、おもしろいライブにお金を払う。

アピールしているだけのやつは応援しない、実際におもしろいからファンになる。

わかりきったことだった。それを、自分の甘さから忘れそうになる。

がんばっていることを誰かに認めてもらわないと、その場に立っていられなかった。

無印良品でのライブ主催が教えてくれたこと

「大阪の無印良品でお笑いライブができないかご相談したいです」

なじみのファンの方からの依頼だった。こんな依頼が来るのも、フリーならではである。

私のことを信用してくれている人に結果を見せたい気持ちがメキメキ湧いてくる。

応援していてよかったと思ってもらいたい。そして私も自分自身を納得させたい。

絶対に結果を出す。自分がフリーである意味をもてるように、これからも自分がフリーでいてもいいと思えるように、結果を出したかった。

初めて一輪車に乗れたあの日の景色を思い出す。

あの練習とこの練習が繋がった実感。右、左と足が勝手に動いて過去の努力に感謝したあのとき。あれを味わいたい。

「諦めなければいつか夢は叶う」をもう一度味わいたい。

私が心に決めたこと。

お客さんに楽しんでもらうことは大前提として、クライアント側に満足してもらうライブにすること。事故やトラブルがないこと。そしてライブの赤字を出さないことと、芸人とスタッフさんに給料を払うこと。もちろんそれらは、自分たちのギャラを削るんじゃなくて、自分たちもしっかり給料をもらったうえで。

楽しんでもらうなら、楽しんでもらうための環境づくりが絶対に大切だから。

経費の加減で、どうしてもプロの裏方スタッフさんをお呼びできなかった。学生さんなどで、ふだんお笑いライブの経験もあるスタッフさんにお願いした。

ミスがあればすべて起用している私の責任だ。プロじゃない方にここまでお願いするのも、どうかと思うが、打ち合わせでは何度も何度も最悪の事態に備えるためのシミュレーションをした。

適当じゃだめ。曖昧じゃだめ。多分うまくいくでしょうではだめ。

起こりうるすべてのトラブルを、事前に回避できるようにした。

実際のライブは、楽しんでくださったお客さん、ほめてくださった関係者の皆さんがたくさんいた。

本当に感謝の気持ちでいっぱいである。

でも反省点もたくさんある。終わったあとに、みんなでダメだったところを出し合った。来年もやらせていただけるということだから、来年もしっかり結果を出す。

お客さんの楽しい思い出に泥を塗るつもりはない。でも、めでたしめでたしでは終われない。終わらない。

私は、たくさんのことを諦めてフリーでいるのかもしれない。ならば、その後のことは絶対に諦めない。

自分がフリー芸人でいてもいいと思えるように。そしてこれから自分たちの力で事務所をつくって、さらなる飛躍ができるように。

フリー芸人でいることを、心の底からにっこり笑って「逃げ」じゃないんだと言い切りたい。

そりゃあ時には、このエッセイのように、道中のアピールをしてしまうことも、クネクネ進んでしまうことも、バランス崩して転けてしまうこともあるかもしれないけど、そんなときはアイドリングを挟んで、最終的にはふわりと空中乗りを決めて、みんなのもとへおもしろいを届けたい。

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