転入生の歪んだ愛情で追い詰められる気高い不良の話に「こういうのが見たかったんだ」の声【漫画】

2025.04.16 08:30

コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョンマンガ部」。今回は、連載準備中の『笑面夜叉』を紹介する。作者のニスイさんが、『妄執ヤクザ×気高い不良まとめ』と添えて3月2日にX(旧Twitter)に本作を投稿したところ、4.8万件を超える「いいね」やコメントが多数寄せられた。本記事では、ニスイさんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについて語ってもらった。

不良が取り囲んだ転入生はヤクザの息子、それだけではなく

不良の馬場保明は、モブ顔の転入生・野島圭を集団で囲んで正座させているなかで突然彼に告白されてしまう。鼻血を出しながら「好きです保明くん」と想いを伝えてきた圭に、「お前今どういう状況か分かってんの？」と問う保明。「保明くんと喋れてます」と答える彼を突き飛ばし、頭を踏み付け、気分を悪くしたため裸になって詫びるように命令する。

すると圭は従順にその場で着ていた服を脱いで裸になり、「ごめんなさい、好きです」と土下座。保明は土下座によって見えた圭の背中の大きな和彫りで、彼がヤクザの関係者だと気づく。そんな彼をよそに、圭は自分の親がクズなヤクザであること、しかし保明の写真を見ればがんばることができたと伝えた。

さらに「この強い人が僕の手の中に堕ちてきたらどうなるんだろう」という歪んだ思慕を寄せていたことを告げ、「好きです」と再び保明に迫る。明らかに異常な圭の愛情を、真正面からぶつけられた保明は…。

この歪んだ愛情を描いた漫画を読んだ人たちからは、「顔があまりにも良過ぎる」「これが本当のヤンデレだ」「今までで1番刺さった」「こういうのが見たかったんだ」など、多くのコメントが寄せられている。

夢で見たものを形にされた歪んだ愛情

――『妄執ヤクザ×気高い不良』を創作したきっかけや理由があればお教えください。

変な話ですが、夢で見たのがきっかけでした。「野島圭(のじまけい)」「保明(やすあき)」という名前は夢で見たままを使っていて、見た目も、学ランに黒髪の男が小綺麗な金髪の不良に告白するところから始まり、だんだん気持ち悪さが露呈していく…みたいな感じだったので、「面白そう」と起きた瞬間に4Pのネームにしました。きっかけはそんな感じだったのですが、完成させてXに載せたら思いのほか多くの人に読んでいただいて、驚きました。

自分としては最初は描き続ける気持ちは全く無くて、むしろ「気持ち悪い子を生み出してしまったなあ」という反省が強かったので。でもコメントなどで「続きを読みたい」と言ってくれる人が多く、それがなんだかすごく嬉しくて、人がこんなに読みたいと思ってくれる機会を逃したら後悔するだろうな、と続きを描くことにしました。

――本作では、保明に好きな気持ちを伝える時の圭の表情が非常に印象的でした。本作を描いたうえで「こだわった点」あるいは「ここに注目してほしい！」というポイントがあればお教えください。

ありがとうございます。圭の表情は恍惚としていて、鼻血や汗がよく出ていますね。興奮すると全てが出てしまう子なんだと思います。保明くんはドン引きしてます。

こだわっているのは、「保明くんが簡単に圭を好きにならないように」というところでしょうか。普通に考えて、圭がしていることは犯罪だと思うので...ただ、圭の後ろにはヤクザという権力があり、保明くんの弱みも握っているので、逆らえない。圭のストーカー行為やその他の加害を受けている保明くんが、圭を憎みこそすれ、好きになるにはミラクルが必要かなと思います。そこらへんは冷静な視点で描きたいです。

そして圭も、好きになってもらうより憎しみという強い感情で保明くんを支配していたいというサディスティックな面があります。そういう、加害と被害、執着と逸脱というところが見どころだと思っています。

――特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。

まだ描き始めて3カ月くらいなもので、あまり枚数を描いていないのですが、圭の「毒にも薬にもならない善人よりもあなたにとっての禍いでありたい」というセリフは本人の価値観が現れていると思います。

家庭がヤクザで、意思が弱くて何でもやってしまう「かつて善人だった人」をたくさん見てきたからかなと思います。そういう人は、圭にとっては「強い魂」ではありません。逆境に立ったときでも強く自分を保とうとする美しさを保明くんに見出していて、その精神力が見れるのなら自分は禍いで構わない、ということを叫んでいます。圭は何かコンプレックスを保明くんで埋めている気がします。

――普段作品のストーリーはどのようなところから着想を得ているのでしょうか？

ストーリーは小説からが多いです。「車輪の下(ヘッセ)」や「塩狩峠(三浦綾子)」などは信念と人の葛藤を描いている作品で感銘を受けました。漫画だと一般向けの方をよく読むのですが、男×男作品では「櫻狩り」や「残神」などちょっとトラウマを扱ったものが好きです...。

名作を読むと、時代背景や世界観が匂いすらともなって押し寄せてくる感じがあってたまらないです。セリフをよく思いつくのは歌を聞いてるときで、石川智晶の「ミスリード」とか中村中の「友達の詩」とか、重くてどっしりしたものをずっと抱えています。詩も短歌も大好きです。相田みつをさんの「真実だけがたましいをうつ」とか最高です。映画やアニメはあまり観ません。画家や写真家の作品集とかもいいですよね。

――普段暴言ばかりの保明が指ハートしている姿にはギャップを感じました。彼がこのポーズをしたのは何か理由があるのでしょうか？

あれは圭の「こんな保明くんは好きじゃない」を具現化したもので、本物の保明くんではないといいますか、イメージ図です。とはいえ保明くんは圭に被害を被ってるから強く拒絶するだけで、友達には指ハートくらいならしてくれると思います。

保明くんは中学時代までは笑顔がまぶしいバスケ部のキャプテンだったんです。今は腐ってますが、もともと人付き合いが良く慕われるタイプの人なので、家庭環境が変わってしまったのと、圭が保明くんの良さをぶっ壊してるだけですね。

――今後の展望や目標をお教えください。

「海が走るエンドロール」という漫画で、主人公のうみ子さんが「映画で何を人に伝えたいのか。人の一生の傷になりたいのか、束の間の休憩になりたいのか」と考えるシーンがあるのですが、私は圭と保明くんの作品においては人の心に何か爪痕を残したいという思いがあるんです。それはそのまま圭の願いでもあり、爪痕を残すことで忘れられない人間になりたいというある意味攻撃に近いニュアンスでもあります。

この「爪痕」というのは難しくて、ただ傷つけるだけというのは私は嫌で、ちゃんと希望が描かれていないともう二度と読まれないと思うのですよね。あくまで真剣に丁寧に、叩きつける。人の心に残りたいです。もちろんまずは一連の流れを形にするのが目標です。その時に、色々な思いを人に感じてもらえるような作品作りがしたいです。

――作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします！

いつもありがとうございます。この漫画は自己表現したいという思いから始まったものの、圭と保明くんが好きだと励ましてくれる人たちや影で反応してくださる人たちのおかげで描き続けることができています。もう少し先になるとは思いますが、1つの漫画作品として世に送り出したいと思っていますので、その時までお付き合いいただけますと幸いです！