ドラマ「透明なわたしたち」の松本優作監督に今の20代が抱える問題を聞いた

福原遥主演「透明なわたしたち」松本優作監督が描く“グレーゾーンが許されない”現代の怖さ「どう生きるかは人によって違っていい」

2024.10.14 12:00
ドラマ「透明なわたしたち」の松本優作監督に今の20代が抱える問題を聞いた

居場所がないと感じてしまう20代の若者の“今”を描くサスペンスドラマ「透明なわたしたち」(毎週月夜11:00-11:52、ABEMAで配信中)。週刊誌のゴシップライター・中川碧(福原遥)が、渋谷で起こった凶悪事件の犯人が高校の同級生だと気づき、疎遠になっていたかつての仲間たちと再会し、高校時代を回想しながら真相を追いかけていく群像劇。いよいよ佳境に入り、渋谷の凶悪事件や高校時代のある事件のついての真相が次々と明らかになっていく。

今回は、松本優作監督にドラマ誕生秘話や20代後半という年代の生きづらさ、この作品に込められた思いなどを語ってもらった。

グレーゾーンで悩む人々の姿を描きたい

――20代半ばの“今”を描いていますが、なぜこのような作品を作ろうと思われたのですか?

「富山と東京を舞台にした“今の時代”に届ける青春群像劇を作りたい」とお話をいただいたのがスタートです。まずは“今の時代”を知ろうと思い、色んな方に話を聞いたり、富山に向かったりして描くテーマを探しました。

――調べていくにつれてどのようなことが見えてきたのですか?

1つのキーワードが“二項対立”でした。例えば、富山と東京、田舎と都会、裕福と貧困、成功と失敗…みたいな対立しているものが、今の世の中、どちらかに偏っていることが多いんですよ。はっきりとしているというか…。でも大事なのは実はグレーゾーン。そこが許されないのが“今”のように感じ、グレーゾーンで悩む人々の姿をきちんと描きたいと思いました。

――本作も、身元不明の青年が凶悪事件を引き起こすところからスタートします。犯人に対しての報道や扱い方も二項対立していましたね。

これはフィクションですが、事件が起きた際、犯人を「悪人だったね」と終わらしてしまっては何の解決にもならないんですよ。なぜそのような事件に至ったのか、理由や経緯が大事で。それを想像できないときっとこの先、また同じことを繰り返されてしまうのではないかと思っており、本質なんて一方の視点だけでは分からないということをドラマという力を使って描こうと思いました。

――主人公の碧をはじめ、悩み多き登場人物ばかりが登場します。

彼らは26、27歳なのですが、ある意味、本当の意味で子供から大人になる年齢にいて。20代前半は子供でいることも許されていますが、25歳を超えていくと大人でいなければならない場面も増えてきて、そのことに心が追いついていかない人も多いです。そのうえ、ある種諦めを持ったり、世の中を少し分かった気になったりと、逆に大人になってしまったと感じることも多い年代で。自分もそのようなどっちつかずな思いをしたことがあったので、ぜひこの世代の群像劇を描こうと思いました。

――監督もそのように感じるときがあったのですね。

もちろんありますよ。30代になってやっと自分のことをわかるようになってきたという段階で。ちなみに本作は、前半は自分の居場所探しをしていますが、後半につれ、今の自分を受け入れた上でどのように生きていくのかを考えて行動していきます。碧たちが子供から大人になっていく成長過程を見られる作りになっています。

キャスト陣と時間をかけて話し合った

――碧を演じている福原遥さんは、明るい、真面目といったこれまでのパブリックイメージとはまた違った顔を見せていますね。

個人的に今までにない新しい一面を撮ってみたいという思いがあったので、そう言っていただけるとうれしいです。ただ最初に福原さんは、碧と自分とはちょっと離れているので共感しにくい部分が結構あるとおっしゃっていて…。なので、かなり対話をして、碧という人物はどういう人物なのか、なぜこのような行動をとってしまったのかなど、お互いに認識を高めてから撮影に入りました。

――齋藤風花を演じた小野花梨さんや喜多野雄太を演じた伊藤健太郎さんら、みなさんどこか物足りない焦燥感がある表情が印象的でしたが。

キャストの皆さんは本当にさすがでした。先ほどの福原さんもですが、今回はできるだけ話し合いながら撮影を進めさせていただいて。「ここはちょっとわかりにくい」「共感しづらい」といった色んな意見をもらい、できるだけそれぞれの声と役をリンクさせて補完し合いながら作っていきました。このように時間を掛けて作れたのは本当にありがたかったです。

――本作にも描かれていますが、この世代は仕事に対するアツさが伝わりにくい部分もあって…。キャストの皆さんも本作の登場人物と同世代の方ばかりですが、皆さんの仕事に対するアツさは感じましたか?

そもそもこの世代のアツさは見えにくいだけできちんとあると思っています。それぞれやりたいこともあるだろうけど、それをあまり表に見せないというか。また先ほどの大人になっている過程という面では、まだ本当にやりたいことを見つけられていない人もいる世代なんだと思います。ただ今回、キャストの皆さんを始めこの世代の方と接して、仕事に対して情熱も感じることができました。頼もしかったです。

――どうしても世代でくくりがちですが、一概にはいえないですね。

あと、やりたいことがなくても僕はいいなと思っていて。やりたいことを見つけないといけないのはある種押しつけなので、どれだけ自分らしく生きるのか、どうやったら楽しく生きられるのか、それは人によって違っていいんですよ。そして肯定感は人によって違いますから。ただその“どっちでもいい”が人生において大事なのですが、世の中では許されていなくて…。今回はそのモヤモヤした不透明な部分を描いた作品になっています。

今、苦しんでいる人に届いてほしい

――監督の好きなシーンを教えてください。

最初の渋谷での事件も迫力があって印象に残っていますが、やはりなんといっても富山での曳山祭のシーンです。実際に地元の方が祭りを再現してくれているのですが、本当に祭りがその場で行われているような臨場感を持って撮れたので感動しました。今回は本当に富山にはたくさん助けられました。人はもちろんのこと、どんよりと曇った空や晴天の日の立山連峰が見える景色など、富山だから生まれたシーンもたくさんあって、作品に活かすことができました。

――現在ABEMAで配信中ですが、ABEMAは若い世代の視聴者も多いです。

いつも恋愛リアリティーショーに夢中になっている方が感情移入してくれたらうれしいです。ドラマは旬や時代が描かれてどちらかという消耗されるものというイメージがあるのですが、本作は、何年後かに見返したときにまた違った感情で見られたり、あのときはあぁ感じたけど変わったなと変化を楽しめたりできる作品になっています。長い目で楽しんでいただきたいです。

――最終話にかけて色々なことが明らかになっていますが、見どころを教えてください。

最終話には、自分たちが何を描こうとしたのかが全て詰まっています。同世代の方は自分事として見ることができ、その世代でない人たちは、今の自分と照らし合わせて見ていただけるとうれしいです。そして何より、今、苦しんでいる人たちに届くといいなと。一歩でも前に踏み出せる、少しでも背中を押せる作品になっていればうれしいです。そしてラスト、この物語が終わっても、碧たちは生きていくはずなので、そこでまた喜んだり、悩んだり、楽しんだりすると思います。そんな彼女たちのこの先にも思いを馳せていただけるとありがたいです。

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