<海のはじまり>最終話を前に村瀬Pが名シーンや脚本・演出のこだわりを語る「素晴らしいシーンに辿り着けた」
Snow Man・目黒蓮が主演を務める月9ドラマ「海のはじまり」(毎週月曜夜9:00-9:54、フジテレビ系/FOD・TVerにて配信)が放送中。本作は、ドラマ「silent」(2022年、フジテレビ系) 、「いちばんすきな花」(2023年、フジテレビ系)の脚本を手掛けた生方美久氏と、村瀬健プロデューサーがタッグを組む3作目で、“親子の愛”をテーマにした完全オリジナル作品。この度、村瀬Pが囲み取材に応じ、放送の反響や、脚本・演出のこだわり、9月23日(月)に放送される最終話の見どころについて語った。
「暗くて重い」という反響に驚き
本作は、人はいつどのように“父”になり、いつどのように“母”となるのか。自分の子どもが7年間生きていることも、これまでをどう生きてきたかも知らなかった夏(目黒)と、突然自分の人生に現れた海(泉谷星奈)という2人の関係や、亡くなった水季(古川琴音)と海との間の母と子の関係など、登場する人物たちの中にある“親と子”の間に生まれる感情をリアルに、そして丁寧に描き紡いでいく作品。
村瀬Pは、夏ドラマは視聴者が夏のイベントなどで家にいる時間が少ないことが予想されると言い、「じっくりゆっくり見てほしいドラマなので、夏の放送では他の季節よりも難しいのかなと思っていたのですが、皆さんじっくりゆっくり見てくださっていてすごくいい手応えを感じています。僕はこのドラマは『暗くて重くないです』と言ったのですが、視聴者の方は暗くて重いと捉える方が多かったようで驚きました。でも、時間をかけてこの世界観をちゃんと皆さんに見ていただければ、温かい涙があふれるようなところにたどり着けると思います」と語る。
第1話では、夏が大学時代に水季と交際していた様子や、 “人工妊娠中絶に対する同意書”にサインをしている姿、その後の別れが描かれた。それ以来、夏は水季とは会うことがなかったが、水季の訃報を受け、葬儀会場で水季の母・朱音(大竹しのぶ)から海が自分と水季の間の子どもであると教えられた。「中絶したと思っていた子供が生きていたっていうのは、“希望”だと思います。子供が死んでいなかったっていうところから始まるので、視聴者の方々はもう少し“希望”を捉えてくれるのかなと思っていましたが、その裏側にあるものをちゃんと想像してくださるから、重いと捉えているんだなと思いました」と振り返る。
さらに、「第2話で弥生(有村架純)に中絶をした過去があったっていうところで、おそらく皆さん『重っ』って感じたと思うんですよね。それから第4話で、弥生が中絶をした日と水季が生む決意をする姿を描き、第6話でそれが海の誕生につながっていったっていうところまで描いて、やっと皆さん心穏やかに見れるようになったんじゃないかなと思います」と推察。
ナイーブなテーマ描く上で心掛けていること
妊娠、出産、死別といったテーマを扱っている本作。これらを描くことについて「ナイーブな題材を描いているという意識を常に持ち、いろんな人の意見に耳を傾けながら、常に胸に手を当てて考えながら作っています」と語り、「特に社会問題はどんなことでもそうですが、一面からだけでは描けないし、皆さん当然それぞれ違う考えや意見を持っているものなので、厳しい意見をいただくこともあります。だけど、子宮頸がんという病気に設定した意味もありますし、弥生が二度『検診に行きなよ』って彩子(杏花)に言っているのですが、そういうことをみんなで考えていこうという制作陣の思いもあります。もう一つ、中絶については、本当に人それぞれいろいろな考え方があって、抱えているものもあると思うので、正解はないし、どちらが良い悪いってことを言うつもりは全くないです。『中絶が悪いって言われているようでつらいです』というご意見をいただくこともありますが、全編を通して見ていただいたら、そうではないメッセージの伝え方をしています」と心掛けていることを明かした。
脚本家・生方美久氏への信頼
また、せりふ選びで意識している点について聞かれると「生方さんは類まれな才能を持っていると思うので、よほど気になるものや、わからないものが出てきたとき以外、せりふを直すことはないです。ただ、生方さんといつも話しているのが、いろんな考え方を持っている人がドラマを見るので、伝えたいことが伝わらない分にはいいけど、間違ったり誤解されるように捉えられるんだったらそれはやめようと言っています。それは、僕たちの作り方にとってものすごく大事なことで。これだけ人の心を丁寧に描いていると、ある時点で違うふうに捉えられてしまうとその後のその登場人物の感情をすべて違って捉えられかねないので、そこはものすごく意識しています。でも、彼女がそれを前提として考えてくれてるせりふですし、この世に無限にある言葉の中から彼女が選んでいる言葉ですから。何でもない会話の中でも常に珠玉のせりふが散りばめられているので、僕や監督がせりふに関してこう変えようと言うことは滅多にないです」と生方氏への信頼をのぞかせる。
さらに、「これは僕の話になるのですが、『silent』で紬(川口春奈)が言っていた『少ないっているってことだもんね』というせりふ。僕はこれを生方さんとドラマを作るときに大事にしています。『いちばんすきな花』でも描いていましたが、多くの人は何かを決めつけたがるんですよね。だけど、そうじゃない人もいる。いろんなパターンがあって、いろんな人がいる。『少ないっているってことだよね』ということを僕は常に意識して、生方さんの本を受け止めて世に送り出しています」と脚本を作る上でのスタンスを明かした。
監督ごとの名シーン&電話のシーンへのこだわりを明かす
本作の演出を手掛けるのは、村瀬P、生方氏と過去作でも組んだことのある、風間太樹監督、高野舞監督、ジョン・ウンヒ監督。「3人ともとても信頼している監督です。それぞれに特徴があるので、僕はよく役者に対してあてがきすると言いますが、監督もあてがきというか、この話をこの監督に撮ってもらいたいという狙いがあります。監督に合わせて脚本を作ってるわけじゃないですけど、早い段階で第1・2話は風間監督、第3話は高野監督、第4話はジョン監督、第5話は風間監督、第6話は高野監督、第7話はジョン監督…というふうに担当回を決めて、それを生方さんに伝えています。きっと生方さんはそれぞれの監督の持ち味を意識しながら脚本を書いてくれていると感じる部分もあります」。
そして、監督ごとに名場面があると言い、「風間監督はやっぱり何と言っても第1話、葬儀場の外で朱音(大竹しのぶ)から『想像はしてください』と言われたときの夏の芝居の良さ、その直後に海が『夏くん!』と名前を呼び、そこで水季の映像が流れ、一瞬の静寂になって主題歌が音楽が流れるところ。芝居をしっかり見せる力と、映像で魅せる力、どちらもすごく出ていて風間監督の真骨頂でした。一方で高野監督は、第3話のラスト、back numberの主題歌を長めに流して、海辺で夏と海が2人で語り『いなくならないで』っていうシーンが素晴らしかった。まるで2人がただそこにいたのをただ映しただけかのような、自然な表情を2人ともしていました。高野監督の優しさがあふれ出た、素晴らしいシーンだったと思います。ジョン監督は、第4話の弥生と水季の過去が交錯していくところと、第7話の津野(池松壮亮)の描き方です」と語り、特に第7話での津野が朱音から水季の訃報を知らせる着信を受けるシーンについては「圧倒的」だと言う。
「実は台本では『はい』で終わっていたんです。僕のXにも書きましたけど、訃報の電話って何か分かってしまうじゃないですか。特に、水季に残された時間が少ないって分かっている状態で、津野はたぶん電話が鳴った時には既に何かを感じていて、朱音だって分かったときにはもう確信を持っていた。だから、台本では『はい』の言葉で終わりになっていて、撮影もそのつもりだったのですが、ジョン監督は池松さんにその先の芝居もしてもらいました。そうして生まれたのが、あの津野の“慟哭”です。その芝居があまりにも良かったので、丸々全部残すことにしました」と裏話を明かす。
ドラマ作りの上で、電話のシーンは相手を映すか映さないかを制作陣で議論していると言い、「例えば、朱音が津野に『四十九日来ない?』と言うときには朱音の声は聞こえているけど朱音の画は見せていない。いろんなパターンがある中で、津野が訃報の電話を受ける時には、向こう側の声も見せない。電話一つをとっても見せ方をものすごくこだわっています。ちなみに過去の2作品でもやったんですけど、電話の向こう側は基本的には一緒に撮っています。録音してそれを流して芝居するのではなくて、例えば第1話の夏と水季の別れの電話は、夏を撮っているときにその現場に古川さんにも来てもらって、目黒さんからは見えない場所で本当に電話をして話してもらっています。『silent』でこの撮り方をしたときに、これは特別なものが生まれるなと思ったので、電話のシーンは現場に来てもらってやることが多いです」と電話のシーンへの強いこだわりを語った。
最終回は「暗く重いラストじゃない」
夏と弥生の別れを描き、大きな反響を呼んだ第9話は、村瀬Pの「一番好きな脚本」だと言う。「第6話も本当に好きな脚本で、弥生がノートに書いたメッセージが水季に伝わり繋がっていく…あのアイデアを生方さんから聞いた時は、衝撃が走りました。第6話もそうでしたが、第9話も本当に好きな回です。駅のホームでの夏と弥生の別れのシーンは、個人的に大好きなシーンです。『3人でいたい』夏と、『2人でいたかった』弥生。その2人を丁寧に描いてきたからこそ、あの素晴らしいシーンに辿り着けたと思っています」と語る。
そして、本作は全12話の放送となる。「最近のドラマでは珍しい長さです。長い時間をかけることができたので、第6話くらいまで時間をかけて、登場人物を丁寧に描くことができたと思っていますし、最後の第12話でちゃんと物語が完結するように作っています。このドラマにはいろんなテーマがありますが、『人はいつどのように“父”になり、いつどのように“母”となるのか』というキャッチフレーズや、ポスターに書かれている『選べなかった“つながり”は、まだ途切れていない』。これも生方さんが書いているのですが、本編を見るとあのこともこのことも全部そうだったんだなって感じると思います。これがどういうゴールに繋がっていくか、見事に物語が出来ているので、ぜひ最後まで見届けてほしいなと思っています。暗く重いラストじゃないので!」と笑顔でアピールした。
※高野舞の「高」は、正確には「はしごだか」
◆取材・文=水沢あすみ
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