「silent」村瀬Pが語る“社会現象ドラマ”の裏話 大ヒット生んだ数々のチャレンジとは?
民放公式テレビ配信サービス「TVer」による初の完全オリジナル番組「最強の時間割〜若者に本気で伝えたい授業〜」が無料配信中だ。今回は、先日最終回を迎えたドラマ「silent」(毎週木曜夜10:00-10:54、フジテレビ系)の村瀬健プロデューサーが登場したLesson3、4の内容をレビューする。
村瀬Pが語る新人脚本家・生方美久の才能
12月9日よりスタートした「最強の時間割 ~若者に本気で伝えたい授業~」。本番組は、さまざまなジャンルのトップランナーが特別授業を実施し、ラランドのサーヤとニシダ、櫻坂46のメンバー、そして学生ゲストが参加。トップランナーたちの授業がアーカイブされることで、TVerに「最強の時間割」が完成するというコンセプトの番組だ。
12月16日、23日に配信されたLesson3、4では、フジテレビ系「木曜劇場」枠にて放送された連続ドラマ「silent」プロデューサーの村瀬健が登場。Tverでの再生回数が民放全番組の中で歴代最高記録となった“社会現象ドラマ”の裏話を語った。
「silent」は、主人公の青羽紬(川口春奈)が、かつての恋人・佐倉想(目黒蓮)と音のない世界で“出会い直す”という、切なくも温かい恋物語。本作をプロデュースした村瀬はフジテレビのドラマ・映画制作部に所属しており、これまでもドラマ「BOSS」(2009年)や「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(2016年)、映画「帝一の國」(2017年)や「約束のネバーランド」(2020年)など、数々のヒット作を世に送り出してきた。そんな彼が「すごい才能を見つけた」と目をつけたのが、「silent」で脚本を担当した生方美久だ。
生方は昨年、坂元裕二、野島伸司、野木亜紀子らを輩出してきた若手脚本家の登竜門「第33回 フジテレビヤングシナリオ大賞」を受賞。コンクール出品作以外の脚本をまだ一度も書いたことのない新人だった。通常であれば、新人の脚本家はプロットライターからスタートし、その後は他の脚本家との共同執筆や原作モノの脚色へと少しずつキャリアを積んでいく。しかし、村瀬にその類稀な才能を見出された生方は、いきなり連ドラの脚本を手がけることになった。
主演の川口春奈や、共演する目黒蓮、篠原涼子など、そうそうたる俳優陣に「プロデューサーである僕がこれだけ才能があるって言ってるんだから信じてみてよ」と声をかけ、口説き落としたという村瀬。そこまで惚れ込んだ生方の描く脚本の魅力はどこにあるのか。
村瀬はその理由として、“台詞感のない台詞”を挙げる。一文一文が短く、これまでのドラマでは省かれてきたような、日常生活における一見無駄なお喋りも台詞にすることで、自然な会話になっているという。自身が向けた期待に見事応えてくれた生方について、村瀬は「(生方さんは)素晴らしい脚本を書いてくれている」「僕としてはすごい才能を見つけたと思っています」と絶賛した。
多くの人が「silent」に引き込まれた理由とは
初回の放送からSNSで「ドラマの世界に引き込まれる」と話題になり、毎話視聴者を釘付けにした本作。そこには、これまでのドラマ制作を大きく覆す数々のチャレンジがあった。
例として村瀬が挙げたのは、第5話の冒頭で紬と湊斗(鈴鹿央士)がビブスを干しながら別れ話をするシーン。二人が会話をしている6分間、音楽は一切かかっていなかった。他にも紬と想が手話で会話をするシーンなど、本作では無音の時間が非常に長い。「放送事故ギリギリ」とも言える長時間の無音シーンに挑戦したことで、視聴者を作品世界へ引き込むことに成功した。
無音のシーンが多いからこそ、「主題歌がかかった時の爆発感がやばい」とラランドのサーヤは言う。本作の主題歌は、若者から絶大な支持を受けるOfficial髭男dismの「Subtitle」。「言葉はまるで雪の結晶」「でも僕が選ぶ言葉が/そこに託された想いが君の胸を震わすのを諦められない」など、ドラマの内容とも重なる美しい歌詞が際立つウィンターバラードだ。村瀬はいつも企画の段階からイメージ主題歌を決めており、今回も初めからOfficial髭男dismにオファーしようと考えていたそう。第1話の台本をもとにボーカルの藤原聡に、主題歌がかかるタイミングも含め、必死でプレゼンしたことも明かした。
また、演出にゴールデン・プライム帯の連ドラを撮るのが初となる新進気鋭の監督・風間太樹を起用するなど、様々な賭けに出た村瀬。「好きな人を集めて、好きなことをやったら当たった。作り手としてこんなに幸せなことはない」と、今だからこそ湧き上がってくる思いをしみじみと語った。
ろう者との恋を最初から描こうとしたわけではなかった
12月22日に惜しまれつつも、ついに最終回を迎えた本作。多くの視聴者が“silentロス”に陥る中、最終回の翌日にLesson4が配信となった。
なんと、その撮影日当日の朝に最終話の脱稿を終えたという村瀬。最終回となる第11話では、一度はすれ違った紬と想がお互いの気持ちを確かめ合い、「一緒にいる」道を選び出した。つまりはハッピーエンドだったわけだが、この結末については最初から脚本家の生方と決めていたという。
しかし、視聴者からの反響を受け、ドラマの内容に一部変更を加えることも。そのため、「いつも納品のギリギリまで作っていた」と村瀬は語る。だが、そのタイムリー感こそが連ドラの良さであり、映画にはないものであると持論を述べた。
ちなみに、ろう者との恋を描いたラブストーリーは過去にいくつか名作と呼ばれるヒットドラマがある。例えば、豊川悦司と常盤貴子の主演で最高視聴率28.1%を記録した1995年のドラマ「愛していると言ってくれ」や、主演に妻夫木聡、ヒロインに柴咲コウを迎えた2004年の青春群像劇「オレンジデイズ」(ともにTBS系)など。村瀬はこれらの作品とどう向き合ったのか。
同じことをやっても「二番煎じにしかならない」と思ったら身を引くようにしているという村瀬。しかし、今回は自分なりの切り口を見出した。それは、あくまでも“人間ドラマ”として描くということ。
初めから“ろう者との恋”を描こうとしたわけではなく、人の心を丁寧に描こうと考えた結果、8年後に再会した恋人の耳が聞こえなくなっていたという設定になった。そして、その設定のもと、「聞こえてた時と、聞こえなくなった今を描く」という点に、村瀬率いる制作陣は本作のテーマ性を見出したそうだ。
「勇気を持って、好きなことを楽しくやってほしい」
「一番お金がかかったシーンはどこか?」というリアルな話も飛び出した今回のエピソード。過去に村瀬がプロデュースした2016年のドラマ「信長協奏曲」のような時代劇は大掛かりなセットが必要なため、制作費も必然的に高くなる。その点、今回のドラマは現代劇であり、大きな事件も起こらないが、「その分、ディテールにお金をかけた」と村瀬は語る。
例えば、第1話冒頭で高校生の紬が団地の階段を駆け下りるときに雪が降っているシーン。ここでは、雪を降らす用と照明を当てる用、そしてカメラ用の3台のクレーンを団地に導入し、撮影を行った。このファーストカットにお金も時間も費やしたのは、「この雪とこの(紬の)笑顔でsilentの世界観はできている」と感じたから。
体育館で想が作文を読むシーンも同じ。紬が、想の紡ぐ言葉と声に惹かれる重要な場面であるため、かなり時間をかけて撮影した。作中では昼間の設定だが、実際に撮影を行ったのは夜。擬似DAYと呼ばれる巨大な照明器具で昼間の明るい日差しを作り出している。
逆に、社会人になった湊斗と紬が会話をする夜のファミレスのシーンは昼間に撮影。なんと、「いつか恋を思い出してきっと泣いてしまう」でも使用した八王子のファミレスに、丸ごと暗幕をかけて光が入ってこないようにしたという。窓から見える映像は全てCG。このドラマでは、私たち視聴者の気づかないところに制作費と技術がかけられているのだ。
2週にわたり、silentファンが喜ぶ裏話をたっぷりと語った村瀬。最後に「村瀬さんにとってかっこいい大人とは」という質問に答えた。村瀬にとって、かっこいい大人とは今でも「いつかなりたい」と憧れる存在。現在48歳の村瀬だが、毎日楽しくて仕方がない、“学園祭”のような日々を送っているそうだ。最後にこの番組を見ている若者に、村瀬は「勇気を持って、好きなことを楽しくやってほしいなって思います」とエールを送った。
■文/苫とり子
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