テレ東ドラマ「何かおかしい」原案を手掛ける雨穴氏

YouTube先行公開で200万再生、テレ東ホラードラマ『何かおかしい』Pが語る「テレビの型そのものを疑う」番組の作り方

2022.06.14 18:30
テレ東ドラマ「何かおかしい」原案を手掛ける雨穴氏

5月31日より、ドラマ「何かおかしい」(毎週火曜深夜0:30-1:00、テレビ東京ほか)が放送中だ。チャンネル登録者数60万人、著書「変な家」が30万部を超える大ヒットとなったことでも話題のホラー系YouTuber・雨穴氏を原案に迎え、「一番怖いのは人間だった!リアルタイム進行型ヒューマンホラードラマ」と題する本作は、とあるラジオ番組の生放送ブースを舞台とした実話風ドラマ。全6話のうち前半3話をYouTubeで先行公開し、合計再生回数が200万回を超えるなど大反響を集めている。番組プロデューサー・太田勇氏にインタビューを行い、テレビドラマとしては型破りな本作の背景に迫ると「テレビの型そのものを疑う」という発想の秘訣が飛び出した。また原案・雨穴氏からもメールでコメントが届いた。

登場人物たちも「何かおかしい」ドラマ

「何かおかしい」の舞台は架空のラジオ局・ラジオ東京。構成作家の花岡をはじめ、昼の生放送帯番組「オビナマワイド」スタッフたちが、生放送中に「何かおかしい」出来事に出会うことから、毎回恐ろしい事件が繰り広げられていく。

花岡を演じるのは「恋せぬふたり」(NHK総合)のカズくん役も話題を集めた濱正悟。1話ではごく普通の青年に見える彼だが、物語が進むにつれ、その奥の異常性が垣間見え始める。キャラクターたちにも、タイトルの「何かおかしい」が当てはまるのだと太田Pは語る。

「一見普通にコミュニケーションが取れる人に見せて、接してみたら『この人ズレてるな』というのがだんだん出てくるようにしたかった。現実の人間関係でも、普段は普通に挨拶して会話できるのに、変なところで全くかみ合わなくて、相手のおかしさに気づくことがあると思うんです。その方が怖さが表現できると思いました。劇中で雨穴さんのセリフにもある通り、ずっと笑ってる人って、よくよく考えたら一番怖いんですよ」

花岡や「オビナマワイド」ディレクターの五十嵐(今井隆文)、中継スタッフ・小野寺(樋口日奈)らは役としての登場だが、番組MC役のヒャダインや藤森慎吾、小手伸也、アシスタント役の岡田結実、山之内すず、香音らは本人としての登場だ。また作中には雨穴氏もストーリーテラーとして出演している。

「雨穴さんのYouTubeは雨穴さん自身が出ることで成立しているので、ドラマにも出てもらいたい。実在のYouTuberである雨穴さんをドラマに馴染ませるために、モキュメンタリー風にして、本人役として出演する人と、役として出演する人が両方存在するようにしました。オリラジの藤森さんなんかは、元々雨穴さんのYouTubeが好きだったそうです」

なおドラマのエンディングでは三浦透子が歌う「intersolid」に合わせ、「巨大な植物が呼吸をしている姿をイメージした」という自ら振り付けたダンスを披露している雨穴氏。これは、実はホラーが苦手な太田Pが、「怖いけれどかわいらしいパッケージ」にするために考えた工夫だという。

雨穴氏を原案に起用した理由は「カウンター精神」

太田Pは雨穴氏を原案に起用したきっかけを「カウンター精神」だと語る。

「最近の深夜ドラマは、女性をターゲットにした恋愛ドラマやBL作品が多かったので、全く違うカウンター的な作品を作りたいとはずっと思っていました。そんなとき、昨年の夏頃に後輩のプロデューサーから雨穴さんのYouTubeチャンネルを紹介されて、皆で見て『これはすごい』となって。ホラーというジャンルはあり得るなと」

さっそく雨穴氏と打合せをした太田Pだが、ドラマの形を決めるまでにはかなりの時間を要した。

「雨穴さんのYouTube動画の完成度がものすごく高いのと、閉じられた世界観だからこそ成り立っている部分があるので、どうドラマにするか決めかねていたんです。その状態で雨穴さんと打合せをしたときに『せっかくテレビでやるなら生放送にするのが面白いかも』という案をもらいました。確かに、雨穴さんのYouTubeは基本的に過去形の話なので、ドラマでやるなら主人公に危機が迫ってくるような形にした方が面白い。そこでラジオの生放送現場なら、クローズドの狭い空間かつ、基本的に音声のコンテンツなので、うまく見せたいものだけを見せられる。雨穴さんの世界観にも合致すると思いました」

各話の原案を考えた雨穴氏は「当初から『ラジオのブース内で起こる物語』という設定が決まっていたので、パーソナリティ同士の会話のみで成立するお話を意識しました」とコメントした。

撮影はわずか3日間、15台のカメラで一発撮り

本作は現場に15台のカメラを仕掛け、スマホなども利用して一発撮りに近い撮影をしている。これもドラマのセオリーからはかなり逸脱した制作方法だ。

「ラジオの生放送現場だから、手元に台本があってもおかしくないですよね。だから実際セリフが書かれた台本を手元に置いて、段取りもカメリハもなし。相当な言い間違えがない限りは、多少噛んでも味だと思ってそのまま使う形でした。その方がリアルっぽいから。本物のラジオのMCでも噛むことはあるし。登場人物がスマホで撮影している映像も、普通のドラマだったら『スマホで撮っている風』にカメラマンが撮り直すと思うんですが、本人が撮ったものをそのまま使っています」

このようにイレギュラーな撮影により、全6話の撮影期間はわずか3日という短さ。ドラマとしては異例のスピード感だという。

さらにテレビ東京のYouTube活用トライアルとして、第1話から第3話をテレビ放送前にYouTubeで先行公開。これが大成功し、3話合計で200万回に迫る再生回数となっている。「撮影期間も短いし、中継部分はiPhone撮影。正直不安な部分もあって、どう出るか全くわからなかったので、すごく嬉しいです」と太田Pは語る。

完成した作品を見た雨穴氏も「私が頭に描いていた怖いイメージ(子供の絵を顔にかぶる人など ※1話)より、さらに不気味な映像に仕上がっていて、プロはすごいなと思いました」と絶賛した。

生活の中の「何かおかしい」を見過ごすと、とんでもないことになる

本作は交通事故をテーマとした2話や、メディアの炎上をテーマとした6話など、現実の事件を想起させるエピソードが印象的だ。ここには太田Pが作品にこめたメッセージがある。

「それもタイトルに帰結する部分で。2話でモチーフにしている事件は皆さん想像がつくと思いますし、6話のようなことも日常でいっぱい起こっている。僕ら自身、生活の中で『何かおかしい』と思いながらも、自分に直接関係ないから見過ごしている。それを放置しておくと、とんでもないことになりますよ、というのを描きたかった」

劇中ではSNSの書き込みが物語を動かす場面も多く、視聴者の存在感が非常に大きい。これはテレビというマスメディアが昨今向き合っている現実にも通ずる点があるだろう。このような時代にコンテンツを作る上で注意している点を太田Pに尋ねると「リスクをケアしながら作品を作ること」との答えが返ってきた。

「たとえば具体的な例で言うと、今準備している別のドラマではトランスジェンダーの方が出てくるんですが、これは実際にトランスジェンダーの俳優に演じてもらいますし、その周りのトランスジェンダーの方の意見も含めて、台本の監修にも入ってもらっています。アカデミー賞受賞作の『コーダ あいのうた』でも、聾者の俳優が聾者を演じていましたが、もし健常者が演じていたら意味が変わってくる。10年前だったらまた違ったと思いますが、今はSNSが発達して拡散力が強まり、炎上リスクも高まった。誤った表現をすることがないよう、マイノリティ属性を持った方の描き方には特に気をつけています」

テレビのそもそもの『型』を疑っていきたい

太田Pは「ダメな男じゃダメですか?」「おしゃ家ソムリエおしゃ子!」などのドラマも手掛けているが、元々「YOUは何しに日本へ?」などを担当してきたバラエティ畑の出身。当日行き当たりばったりで、空港で出会った外国人観光客にいきなり密着取材する「YOUは何しに日本へ?」のコンセプトは、太田Pに大きな影響を与えたという。

「あの番組は今までのテレビの常識を変えた部分があります。密着取材したのに取材先がNGでまるまる使えなくなったり、ずっと動画にスタッフの脚が見切れてるのをそのまま使ったり…『YOUは何しに~』をやったことで、バラエティの常識なんてものはないんだ、ということを学びました。そして今回『何かおかしい』も一般的なドラマのセオリーとはかけ離れた作り方をしてみて、ドラマの常識もないということがわかった。今後も、テレビのそもそもの『型』を疑っていきたいです」

本作は、YouTubeとテレビのひとつの理想的なシナジーを実現したといえるだろう。今後も『型』にとらわれない挑戦が新たな話題を生むのを楽しみにしていきたい。

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