「推し活熱心さん」の姿がSNSで共感を集めた

NHK「プロフェッショナル」が一般人にフォーカスして反響、番組P「仕事=人生という価値観はもう古い」

2022.02.01 08:30
「推し活熱心さん」の姿がSNSで共感を集めた

各界で活躍する超一流プロフェッショナルに密着するドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」(毎週火曜夜10:30-11:15、NHK総合)。放送17年目を迎える長寿番組は、今年から「となりのプロフェッショナル」と題し、ごく一般の人々にスポットを当てるスピンオフ企画を始動した。1月18日に第1回「推し活の流儀」が放送されると、SNSを中心に大きな反響がみられた。この新たな取り組みはなぜ始まったのか。番組プロデューサー・末次徹氏、横山友彦氏に話を聞いたところ、「わかりみ」「誰もが何かに酔っていないと生きていけない時代」「仕事=人生という価値観はもう古い」「解釈は自分でしたい」…といった今ならではの価値観が見えてきた。本企画は、通常回に対する「見ていて少しつらい」という視聴者意見を受け、時代を映し視聴者に寄り添いたい番組側の想いが形になったものだという。

視聴者から「見ていて少しつらい」という感想も

——今回新たに「となりのプロフェッショナル」という企画を始められたのは、何がきっかけだったのでしょうか。

末次:放送開始時から一貫して各界のトップランナーに取材してきましたが、放送後のSNS反響をチェックしていると、ここ数年で視聴者から「見ていて少しつらい」という反応も見られるようになり、それがずっと気になっていました。もちろん感動の声もありますが、同時に「自分には関係のない話」「遠い存在すぎて真似できない」という感想があり、やはり格差社会による分断やコロナ禍などによって、仕事でトップを極めている方々の話だけでは届かない視聴者層が存在するのだと感じるようになりました。コロナ禍においてゴミ収集員の方など、エッセンシャルワーカーへの密着を始めたのも同じ理由ですが、「あなたの周りの身近な人にも輝くものがある」ということを伝えたくて、新たにスピンオフのような形で「となりのプロフェッショナル」として立ち上げました。

——初回の「となりのプロフェッショナル 推し活の流儀」は、SNSを中心に大きな反響を集めました。職業ではなく趣味である「推し活」にフォーカスしようと考えたのはなぜですか。

末次:新たな層に届けたいという意識があったので、20代の番組スタッフに「何が番組で取り上げられていたら見たいか」を聞いてみたところ、「推し活」というアイデアが出てきたんです。私自身は小説の「推し、燃ゆ」などで「推し」というワードこそ知っていましたが、詳しくはありません。ただ、今までの「プロフェッショナル」は著名人など、いわば推される・応援される側の人を取り上げていて、それでは届かない層があるという課題感を持っていました。なので、逆に応援する側の人を取り上げるのは面白いと思いました。それに「仕事=人生」という価値観はもう古いのではないか、働いている姿だけでその人を描いたことにはならない、と感じていたのもあります。

——実際に「推し活」をされているスタッフさんがいたのですね。ちなみにどなたを推されているのでしょうか。

末次:彼女は元AKB48の横山結衣さんを長い間推しているそうで、「推し活」について色々レクチャーしてもらいながら企画を進めました。撮影など実際の制作については、彼女ともう一人の若手ディレクターのセンスに任せた部分が大きいです。

「わかりみが深い」という感想に手ごたえ

——「推し活の流儀」の番組中では、アイドルグループ「FES☆TIVE」青葉ひなり推しのぴんちゃんさん、お笑い芸人を推してライブに通うゆるつさん、マンガ「ふらいんぐうぃっち」推しで、作品の舞台である弘前に移住したというたやなおきさん、3名の「推し活熱心さん」を取り上げました。この3名を選んだ経緯や理由は何だったのでしょうか。

末次:出演者の方はSNSで探して、取材の打診もSNSを通じて行ったそうで、普段の「プロフェッショナル」とはだいぶ違うやり方でしたね。「推し活」をしている方はたくさんいらっしゃると思いますが、その中でも「推し活」の動機や背景に多くの方が共感しやすいものがあると感じた方に出ていただきました。

——放送後の反響はいかがでしたか。

末次:非常に手ごたえがありました。NHKの番組は若年層離れが課題ですが、今回は若い層をターゲットに絞って制作した結果、20代男女の視聴率が今年度ではトップクラスに良かったです。放送時はTwitterのトレンドにもランクインし、感想を見ていても「わかりみが深い」と言われていたので、共感してもらえたのだと思いました。

——確かに、SNSを見ていると、番組で取り上げられた3名とは異なるジャンルの「推し」を持つ方からも「気持ちがわかる」という声が多かったです。「推し」は違っても、「推す」という気持ちは共通しているということなのだと感じました。「あさイチ」とのコラボも話題になっていましたね。

末次:「あさイチ」では以前から「#教えて推しライフ!」という企画で推し活を取り上げていたので、今回の企画にあたりアドバイスをもらったことから、せっかくならコラボしようという話になり、「となりのプロフェッショナル」放送の翌朝に「あさイチ」の舞台俳優推し回が放送されるような形にしてくれました。「あさイチ」の企画で人気の「推し名書き」(視聴者から募集した「推し」の名前が大量に書かれたボード)も借りて、ナレーションを担当された天海祐希さんのバックに置きましたね。あのボードも毎回とても反響が大きいそうです。

「誰もが何かに酔っていないと生きていけない時代」

——末次さんや横山さんはご自身では特に「推し」はいないとのことですが、「推し活」に励む方々に触れてみて特に印象深かった点などはありますか。

横山:皆さんそれぞれの魅力がありましたが、たやなおきさんが特に印象深かったです。穏やかな印象の方ながら、やりたいことが見つからないと悩んでいたところから、「ふらいんぐうぃっち」に出会って移住までしてしまう情熱に驚きました。自分は地方出身で、東京での暮らしに閉塞感を感じるときもあるので、これからはそういう時代になっていくのかもしれないと思いました。

末次:私はゆるつさんが印象に残りましたね。3人の中だといちばん陰影を感じるというか、苦労もあるから推し活に生きがいを見出しているという部分が見えて。そう考えてみると、ストレスフルな日々の仕事の中で、何かに救いを求めたい気持ちは自分の中にもあるなと気づきました。「推し活の流儀」放送後に、SNSで「誰もが何かに酔っていないと生きていけない時代だ」という感想を見かけて、人気マンガ「進撃の巨人」にも似たセリフがあるのですが、本当にそういう社会だなと。確かに光り輝く人たちだけを見せられてもつらい部分があると気づけたし、それはこれから通常回の「プロフェッショナル」を作っていく上でも気にしていくべき視点だと思うので、やってよかったですね。

——ここ最近「推し活」が隆盛ですが、昔を振り返ってみると、芸能人や漫画の熱心なファンは「追っかけ」や「オタク」と言われて、あまり良い印象は持たれていなかったような気がします。ですが今や多くの人が「推し」がいると言える時代になりましたよね。

末次:番組を作る中で、「〇〇のファン」と「〇〇推し」は何が違うのか?ということを考えました。かつての高度成長期は、憧れとしてのスターを遠くから見るファンという形が主だったけれど、今はそれでは自分ごとと思えない時代になっている。等身大の相手に共感して応援し、一緒になって売れることを目指す。推しが売れることが自分の喜び、という感じですよね。ちなみに番組を作るために調べていたら、最近は学生の間でクラスメイトのことも「推し」と呼ぶことがあるそうなんです。「好き」と表現してしまうと、告白するとか、何かしら行動しないといけない感じになってしまう、それではダイレクトすぎるという感覚があるのかもしれません。

全ての人が人生の流儀を持って、輝いて生きている

——2月1日(火)には「となりのプロフェッショナル あなたの流儀は?」が放送されます。こちらは渋谷のスクランブル交差点周辺で出会った人に、「あなたにとってのプロフェッショナルは誰ですか?」と質問し、そこから数珠つなぎに紹介をたどっていくという企画です。どんな狙いがあるのでしょうか。

横山:通常回の「プロフェッショナル」を作っている中で、番組としての恣意性とメッセージ性のバランスについて考えていました。昔よりも視聴者の「解釈は自分たちでしたい」という気持ちが強まっていると感じ、どうすれば作り手の恣意性をなくせるかを考えた結果、番組が「この人はプロフェッショナル」と決めて取材するのではなく、偶然紹介された方を取材するという形にたどりつきました。本当にどんな方を紹介されるかわからなかったので、正直番組としてどうなるか不安な気持ちもあったのですが、結果的に番組からオファーする取材では出会えないような方にも出会うことができたと思います。

——見どころなどあれば教えてください。

横山:東京オリンピック開会式でMISIAさんの衣装を制作されたデザイナーの小泉智貴さんなど、びっくりするような出会いもあり、番組の仕組みとして可能性を感じました。今回、近しい方の紹介で取材させてもらっているので、制作現場など通常の取材では見られないところを見せていただけたりと、面白い内容になっていると思います。また今回は全部で5名の方に密着したのですが、「プロフェッショナル」制作班はすぐ近くに「ドキュメント72時間」や「ファミリーヒストリー」の制作班があることを生かして、取材する方の魅力が引き出せるように、ひとりひとりドキュメンタリーとしてのアプローチの方法を変えています。

——最後に「となりのプロフェッショナル」という企画全体を通じて、感じたことを教えてください。

末次:「となりのプロフェッショナル」の企画にあたり、「全ての人が人生の流儀を持って、輝いて生きている」という仮説を立てて挑み、実際そうでした。一般の方でも、取材していく中で「これでは番組として成立しない」と思ったことはありません。すべての人に懸命に生きている人生があり、それは尊いものだと思います。また、どんな方にも人生の指針としての信念がある。「となりのプロフェッショナル」では「人生の道しるべ」と表現していますが、一般の方の信念が著名な方に劣るということは決してなく、むしろ多くの視聴者の共感を呼びやすい言葉が聞けることもあるのだと感じましたね。

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