お台場・ヴィーナスフォートの常設イマーシブシアター「Venus of TOKYO」

コロナ禍における舞台オンライン配信の劇的進化、メタバース(仮想空間)を見据えた新たな観劇体験とは

2022.01.21 20:30
お台場・ヴィーナスフォートの常設イマーシブシアター「Venus of TOKYO」

コロナ禍で2年近くが過ぎ、様々な困難を乗り越え、舞台作品の映像配信は以前と比べるとごく一般的に行われるようになった。劇場の臨場感を配信で伝えきることには難しさもあるが、極力臨場感を高める、もしくは配信だからこその+αの体験を目指して、エンタメの現場では様々な努力が行われている。舞台作品の配信が浸透していった経緯や最新の配信事情について、配信サービス担当者に話を聞いた。また後半ではオンラインの双方向性を生かした新たな観劇体験「オンラインイマーシブシアター」を紹介する。

コロナ禍で急速進化、舞台オンライン配信の定着

コロナ禍初期、2020年2月末に政府から発された「大規模イベントの中止、延期又は規模縮小等の対応要請」を受け、多数の公演が中止を余儀なくされた。これに伴い、一部の劇団などは配信に特化した公演を行ったが、ツイキャスやYouTubeを利用したものが多く、マネタイズは投げ銭に頼る形が主だった。公演のために集まることも難しい状況が続いたため、各々離れた場所からZOOMに参加する形の「リモート演劇」が生まれた。また過去作品の期間限定YouTube公開が多く行われた。

次の一手として劇場での無観客生配信公演が始まると、急増する配信ニーズにこたえるためプラットフォームの整備が進む。既存の動画配信サービス各社だけでなく、2020年4月には2.5次元舞台のプロデュースを多数手掛けるネルケプランニングが配信プラットフォーム「シアターコンプレックス」を立ち上げ、5月頃にはプレイガイド大手3社もそれぞれ配信プラットフォームを持つようになる。イープラスの「Streaming+」ぴあの「PIA LIVE STREAM」ローソンチケットの「ローチケ LIVE STREAMING」だ。コロナ禍以前から舞台の配信を行っていた「ニコニコ生放送」(以下ニコ生)担当者・ドワンゴの高橋氏によると、「コロナ禍で、オンライン配信される作品の総本数は大きく増加したと感じますが、同時に競合も増えたため、ニコ生での実施本数は生配信に限定すると、さほど増えていない状況です。しかしニコ生の強みであるコメント機能を生かした、過去作品の一挙上映会企画などが増加しています」

やがて感染拡大が収まるにつれ、有観客での公演も再開され始めるが、状況は予断を許さず、夏には第2波の到来によって再び多くの公演が中止になる。また会場では一席空けなどの収容制限が続き、収益性を高めるためにも引き続き配信ニーズは高かった。動画配信サービス「U-NEXT」では新たな取り組みとして、2020年8月より宝塚歌劇、10月より劇団四季作品の生配信を始めた。生配信の実施に対して、ファンからは喜びの手紙やメールが多数届いた。「特に緊急事態宣言中は様々な事情で観劇に行けなかったり、宣言が明けてからも収容制限でチケットが取れないというお客様は多かったようです」(U-NEXT広報・佐野氏)

一方で配信の実施には様々な課題もある。たとえば舞台を収録した映像をそのまま配信できるわけではなく、配信用にさまざまな権利処理が必要になるケースもある。また生配信の場合リアルタイムでの視聴が魅力なので、公演中にサービスがダウンすることは絶対に避けねばならない。U-NEXTではそれまで収録済み公演の事後配信がメインだったため、生配信開始時にはインフラを増強して挑んだという。

「配信ならではの観劇体験」で劇場と両立、各社プラットフォームの独自進化

現状またオミクロン株が猛威を振るい始めているが、2022年1月上旬までは、感染状況の落ち着きを踏まえ大半の公演が収容率を通常に戻して開催されていた。しかしオンライン配信も多数継続されており、ニコ生・U-NEXTとも、緊急事態宣言解除に伴う配信チケット売上の減少は特段生じなかったという。配信での観劇は劇場での観劇と両立されているといえよう。

配信では、劇場での観劇とは違った楽しみ方も生じる。例えば当然ながら劇場では座席によってステージの見え方が左右されるが、配信なら現地では見えないような細かい表情も見ることができる。配信だけで視聴できる特典映像や、配信チケットと限定グッズのセットなど、配信視聴促進のために様々な工夫が行われている。

舞台作品の配信では未導入だが、U-NEXTではプレーヤー上でユーザーが自由にカメラアングルを切り替えられる「マルチチャンネル配信」を行うことができる。将来的には舞台上のキャストそれぞれを追い続ける「推しカメラ」の導入も考えられるという。またDolby Atmos(R)や4Kカメラによる高音質・高画質配信も技術的には可能だ。

ニコ生はサービスの特徴であるコメント機能により、リアルタイムで他のユーザーの反応を感じられる。皆で一緒にワイワイ作品を観ているようなニコ生配信は、劇場での観劇とはまた異なる楽しみ方としてユーザーの間に根付いているという。生配信に限らず、過去作品の上映会という形でも同様にリアルタイム性のある楽しみ方ができることは強みだ。また2.5次元舞台においては原作ファンへの訴求のため、ニコ生プレミアム会員向けの配信チケットディスカウントや、公演を紹介するトークバラエティ番組の放送などで、新たな配信視聴層の取り込みを図っている。「配信での観劇から興味を持ってもらうことで、劇場での生の観劇も盛り上げていけたらと思います」(ドワンゴ・高橋氏)

コロナ禍以前の舞台業界では「舞台は生で観るもの」という価値観が強く、映像を撮影するとしても記録用、もしくはファン向けのDVDとして販売するのが主流で、配信のハードルは高かったという。しかしコロナ禍を経て、興行側がマネタイズに関心を示したこともあり、過去作品も含め配信が以前より活発に実施されるようになった。「舞台作品の映像のニーズが明らかになったことで、海外作品など以前は敷居が高かったものも徐々に配信できるようになってきています。配信なら試しに見てみる機会にもなりやすいし、引っ越しや子育てといった事情で観劇に行けなくなってしまったユーザーの受け皿にもなります」(U-NEXT・佐野氏)

体験型公演「イマーシブシアター」にトレンドの兆し、「オンラインでしか成立しない」観劇体験とは

更にオンラインの強みである双方向性を生かし、「配信でしか味わえない観劇体験」を生み出していく公演もみられる。そのひとつが「オンラインイマーシブシアター」だ。「イマーシブシアター」とは「体験型公演」とも呼ばれ、観客は着席して観劇するのではなく、会場内を自由に歩き回り、自ら選んでパフォーマンスを見て回る。このように物語の中に没入して観劇するスタイルの公演を、オンラインに場を移して開催する試みが生まれている。

国内イマーシブシアターのパイオニアであり、ミュージカル「刀剣乱舞」の振付などでも知られるダンスカンパニー「DAZZLE」は、2020年5月に初のオンラインイマーシブシアター「Labyrinth東京C」を上演した。これはYouTubeで動画を公開し、視聴者がリアルタイムにコメント欄で2択の選択肢を選び、「good」が多かった側の選択肢に続くストーリーの動画が公開されていくという仕組みだった。メンバーの飯塚浩一郎氏によると、本作は「オンラインでなければ成立しない」ことを前提に制作されたという。「デジタルのメリットのひとつは拡散性の高さなので、『Labyrinth東京C』の場合は、同時に多くの方が参加できるよう、無料で登録不要のYouTubeを利用しました。そして重要なのは、視聴者の投票により物語が変わるという部分です」視聴者の選択によっては見られないシーンが生まれたり、登場人物が死んだりといったことも起こる。リアルのイマーシブシアター同様、「選択する」ことの重みが意識される仕組みだ。また新たな視聴体験を作るため、全編主観映像で配信。動くカメラに対してダンサーがアクションする形はダンスの見え方としても新鮮な表現となり、視聴者は各回延べ数千人を超えた。

この取り組みに手応えを得て、続く2021年春にはVRイマーシブシアター「夜想百物語」を配信。360°視界の映像を配信できるマルチアングル配信サービス「REALIVE360」を利用し、現実のイマーシブシアターの「体験」価値に近いものを提供しようとした挑戦だった。「通常の映像作品は正面の視界のみですが、視界が360°になることによって、自分の背後・死角で何かが起きているという新たな視聴体験が生まれました。また、百物語というテーマにしたことで語りや環境音を耳元で感じられ、より没入できるという感想もいただきました」(DAZZLE・飯塚浩一郎氏)。最先端技術ゆえの不安定さやコストの高さ、システム導入のハードルもあったが、逆に先行作品が少なかったため、自身で海外VR作品のYouTube動画などを見て研究し、緻密で自由度の高い作品を作ることができたという。

メタバース(仮想空間)も見据えた進化が進む、配信演劇の未来は明るい

現在DAZZLEはお台場・ヴィーナスフォートにて、常設イマーシブシアター「Venus of TOKYO」を上演中だ。「秘密のオークションが行われる高級クラブ」を舞台とし、観客が自由に会場内を歩き回って観劇できる本公演は、有観客で開催しながら毎日オンライン配信も実施している。「監視者」と呼ばれるカメラマンに対し、オンライン視聴者がTwitterのアンケート機能を利用して行動の指示を出すことで、自分が現地にいるかのようなリアリティを感じられる仕組みだ。

「『自分の意思によって物語を変える』という興奮と緊張感は、他のエンターテイメントにはないイマーシブシアターの大きな武器です。オンラインでつながっている方々にこちらからの選択肢を伝える、投票結果をすぐに集計し行動に反映する、というスピード感を実現するためには、広く一般的なツールである必要もあり、Twiitterを使うことにしました。世界中どこからでも参加できるだけでなく、オンラインコンテンツ自体を広めるという面でも、TwitterというSNSを使う意味があると思います」視聴者の没入感を高めるため、カメラはワンカットの主観映像としているが、1台のカメラが会場内を広く移動することは有線では不可能。しかしリアルタイムの映像配信は高速回線でないと行えない。そこでモバイル回線を複数束ねて一つの高速回線にするという技術を導入し、安定的な配信を実現したという。

舞台の作り手から見たオンライン配信の難しさについて尋ねると、「配信にはオンラインであることの意味を持った企画性が必要になってくる、そのために作品自体が配信を前提として設計されていくようになるのかなと思います。メタバース(現実世界とは異なる3次元の仮想空間)などの利用が当たり前になれば、リアルとオンラインの境目はどんどん曖昧になっていくので」と飯塚氏は語った。

他にも、2.5次元舞台などで活躍する俳優・北川尚弥主演で昨年末上演されたオンライン演劇「アウフヘーベンの牢獄」も、観客がLINEのオープンチャットを使い、キャストと対話したり謎を解くことでストーリーが進んでいくという「イマーシブミステリー」だった。リアルタイムで演者の反応の変化やストーリー分岐が生じるため、生の演劇であり、単なる映像の視聴とは異なる体験になっている。また「リアル脱出ゲーム」企画運営のSCRAPが手掛けるオンライン演劇「インサイドシアター」シリーズなど、こういった視聴者参加型の「オンラインイマーシブシアター」は各所で開催され、人気を集めている。オンラインの双方向性を生かして観客が作品の中に入り込む。これは配信の浸透によって生じた新たな観劇体験の在り方と言えるだろう。

再度感染者数が増加しつつあり、世界がすぐにコロナ以前と同様の状況に戻ることは難しい状況といえる。しかしそんな中でも、様々な工夫や改善によってエンタメを届け続ける人々に賛辞を送りつつ、今後の更なる進化を楽しみにしていきたい。

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