車いすのアイドル・猪狩ともか、「座って楽してる」言葉の刃にもめげないポジティブ思考と発信力
アイドルグループ「仮面女子」の猪狩ともかが、車いすユーザーに向けられた心ない声に反論し、注目を集めている。車いすで生活することを「楽」と見るような言葉に対し、自身の身体感覚を交えて実情を訴えたことで、SNS上では憤りと称賛の声が広がった。この件に限らず、猪狩は「物言うアイドル」として独特の存在感を発揮している。
猪狩は5月12日、自身のXで「お前も毎日座って楽しとるやないか」という悪質コメントのスクリーンショットを投稿。それに対し、「座ってる=楽してると思う方たまにいらっしゃるんですよね。一日中座りっぱなしで生活してみてはどうですか?」と反応した。
さらに「脚は浮腫むし、腰は痛いです。脚の代わりに腕をたくさん使うので腕はパンパンです。体幹障害もあるので前屈みの姿勢をキープする為には何かにつかまったり体重を預けたりしないといけません。排泄障害という厄介な内部障害もあります」と具体的に説明し、最後に「私が楽だと思うなら、五体満足な身体と交換してください」と強い言葉で訴えた。
この投稿に対して、SNS上では「信じられないことを言う人もいるもんだ」「車いすは楽ではありませんよ!」「車いす生活になってもアイドルを続けていることがいかに立派なことか」「それでも前向きに頑張ってる、ともかさんすごい」など、猪狩への共感や心ないコメントへの怒りの声が相次いだ。
猪狩は2018年4月、歩行中に強風で倒れてきた看板の下敷きになり、脊髄損傷の重傷を負った。下半身不随となった後も懸命なリハビリを続け、同年8月に車いすでステージに復帰。事故後、一時はグループ卒業を宣言したこともあったが、その後に撤回し、現在も「仮面女子」のメンバーとして活動を続けている。
猪狩が支持される理由は、単に「困難に負けずに頑張っている」からだけではない。自身の状況を隠さず語りながらも、過度に悲劇化しない。そのバランス感覚があるからこそ、彼女の言葉は多くの人の心に響くのだろう。
Instagramでは、「車いすは可哀想?」というテーマの動画を投稿。「たまに可哀想とか大変そうとか言われるけど」としながら、「みんなのおかげで車椅子生活になっても幸せに過ごせてるよ」と前向きなメッセージを発信した。障害のある生活を必要以上に美談化するのではなく、本人の実感として「幸せ」と言える姿勢が印象的だった。一方で、車いすユーザーとして感じる不便や恐怖、周囲に理解してほしいことについても、猪狩は繰り返し伝えている。たとえば、「車いす生活で恐怖を感じる瞬間」をテーマにしたショートドラマでは、実際の場面を再現しながら「歩行者の歩きスマホ」や、背後からつきまとわれて撮影される「ストーキング」を挙げた。さらに「車いすの人に対して絶対やめてほしいこと」をテーマにした動画では、「突然車いすを押してくること」はやめてほしいと訴えるなど、身近に潜む問題を可視化してきた。
また、ヘルプマークをめぐる議論では、本来の用途とは異なるファッション的な使われ方に疑問を示し、「簡単に手に入る仕組みを変えるべき」と持論を述べ、大きな反響を呼んだこともある。こうした発信は、当事者の立場から社会の違和感を言語化したものだと言える。この他にも、彼女はアイドルでありながら社会問題に積極的に切り込んでいく。
車いすでアイドルを続けること自体、簡単なことではない。移動、体調管理、ステージでの見せ方、周囲のサポートとの関係。その一つ一つに工夫が必要になる。それでも猪狩は、アイドルとしての活動を続け、その経験を社会へのメッセージにも変換してきた。
今回の「座って楽してる」という言葉への反論もそうだが、猪狩の強さは、世の中の無理解に対して自分の言葉で返せることにある。明るさと厳しさ、親しみやすさと発信力。それらを併せ持っているからこそ、彼女は「車いすアイドル」という枠にとどまらない存在として支持を集めている。
心ない声に反論しながらも、猪狩は前を向いて活動を続ける。車いすだから輝いているのではない。自分で考えて自分で発信する「物言うアイドル」として、新たな居場所を切り開いているのだ。その力強い姿に、多くの人が励まされているのだろう。
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