渡邊渚、過激DMを公開して浮き彫り 有名人を襲う誹謗中傷と‟正義中毒”の実態
元フジテレビアナウンサーで現在はフリーの渡邊渚アナが、SNSに送られてきた誹謗中傷のダイレクトメッセージ(DM)を公開し、ネット上で議論が広がっている。「お前はゴミ」といった衝撃的な内容が含まれており、改めて有名人に対する誹謗中傷問題の深刻さを浮き彫りにした。
渡邊アナは3月7日、Instagramのストーリーズで「私のDMに来てたもの」と切り出し、生きる尊厳を脅かすような、ここに記述するのもはばかられる過激な誹謗中傷DMを公開。「こういう内容を送ってくる人もいるんだけどね それ以上に温かい言葉がたくさん届いて、元気をもらっています」とつづり、ファンからの応援メッセージも紹介した。
渡邊アナは長期療養を経て2024年8月にフジテレビを退社し、療養の理由がPTSD(心的外傷後ストレス障害)だったことを公表。現在もフラッシュバックなどに苦しんでいることを明かしているだけに、彼女をさらに傷つけるような中傷行為が問題視されている。
フリー転身後、渡邊アナは性的搾取や性加害の問題について思いを発信しているが、こうした誹謗中傷を受けて「なぜ私が犠牲になって声を上げ続けなければならないのか」と葛藤しつつ、「顔も見えない人間から言われる言葉に信念を奪わせたくない」と発信を続ける理由を語っている。
昨年8月には、SNSで「『誹謗中傷されたくなければ、SNSを使わずに静かにしていればいい』『普通の被害者はコメント欄を閉じる』と言う人もいますが、それは間違っています。本来、口を閉じるべきは傷つけている側なのですから」とも訴えていた。
こうした誹謗中傷は、渡邊アナだけでなく有名人全体に広がる深刻な問題となっている。プロスポーツ選手や高校生アスリートなども被害を受けており、対策を余儀なくされている。
たとえば現在開催中のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)では、日本野球機構や日本プロ野球選手会などが共同で、選手らへの中傷を防ぐため、AIを活用した「誹謗中傷検知システム」を導入。悪質な投稿者に対しては、試合会場への入場禁止措置も検討しているという。さらに高校野球でも、春のセンバツ大会に合わせて主催者がネット上の誹謗中傷や差別的言動をモニタリングし、場合によっては法的措置を取る方針を示している。それほど状況は深刻だ。
では、なぜネット上の誹謗中傷はなくならないのだろうか。
その理由の一つとして指摘されているのが、「誹謗中傷をしているつもりがない」という心理だ。「弁護士ドットコム」が2023年に実施したアンケート調査によると、芸能人を中傷する投稿をした人の約6割がその動機として「正当な批判や論評だと思っていた」と回答している。さらに約4割が「その人物が事件、不祥事を起こしたから」、約3割が「その人物の間違いを指摘しようとする正義感から」と答えており、多くが自分の投稿を誹謗中傷だと認識していなかった。この心理を説明する言葉として近年注目されているのが「正義中毒」だ。‟絶対的正義”の立場から誰かを叩いて社会の不正を糾弾しているという感覚が快感となり、批判が誹謗中傷にエスカレートしてしまう現象である。本来は問題提起のはずが、歪んだ正義感が暴走し、いつの間にか攻撃そのものが目的化してしまうケースも少なくない。また、互いの顔が見えないネットでは自分の言葉が相手にどれほどのダメージを与えるか想像しづらく、対面では言えないようなことを簡単に書き込んでしまう側面もある。
しかし、軽い気持ちで書いた一言でも、法的には重大な責任を問われる可能性がある。
ネット上の誹謗中傷は、内容によっては名誉毀損罪や侮辱罪、脅迫罪などに該当する。名誉毀損罪は最大で3年以下の懲役または禁錮、あるいは50万円以下の罰金が科される可能性があり、侮辱罪も法改正により刑罰が強化されている。さらに刑事責任だけでなく、民事で損害賠償を請求されることもある。
かつては匿名投稿者の特定が難しいと言われていたが、状況は変わりつつある。近年は発信者情報開示請求の手続きが簡略化され、投稿者の身元を突き止めることが以前よりも容易になった。実際、開示請求の件数は急増しており、匿名であっても「安全圏から誰かを攻撃できる」という時代ではなくなっている。
それでも、残念ながら有名人への誹謗中傷はなくならない。渡邊アナがあえてDMを公開したのは、そうした社会の現実を可視化するためではあるまいか。ネットの誹謗中傷は、被害者が沈黙すれば被害が見えづらくなる。しかし声を上げれば、その存在が社会の問題として共有される。
SNSは誰もが自由に意見を発信できる場だ。だが、その自由は他人を傷つけるための免罪符ではない。一方で、どこまでが批判や評論でどこからが誹謗中傷なのか、その線引きが難しいという声もある。表現の自由との兼ね合いは、誹謗中傷問題を考える上で大きなポイントだ。
渡邊アナが公開したDMの言葉は、ネットの匿名空間で何が起きているのかを私たちに突きつけたとも言える。その現実をどう受け止めるのか──。これはネット社会に生きる私たち一人ひとりに問いかけられている問題なのかもしれない。
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