異様なほど昭和な「東京大衆歌謡楽団」の演奏が日本人の魂を震わせるワケ “昭和歌謡”が持つ力、人の底から呼び起こす力
ファッションや芸能ニュースをはじめ、世の流行は目まぐるしく変化していく。だが本当に優れたものは、はやり廃りでは消え去らないものだ。人の心に残る音楽という分野では特に顕著で、レコードやオールドミュージックを愛する人はあとを絶たない。たとえば日本では、昭和歌謡を突き詰めて磨く4人組バンド「東京大衆歌謡楽団」が勢いを増している。同グループの織りなす昭和メロディーは中高年を中心に高い支持を集め、現在は年間で日本全国30カ所以上の公演をおこなうほどの人気ぶり。ある意味“異質”な雰囲気を持つ兄弟楽団の魅力と、その価値に迫る。
オールドスタイルを貫く「東京大衆歌謡楽団」
「東京大衆歌謡楽団」は、実の4人兄弟で構成されたバンドだ。富山県出身の高島兄弟はきっちり決めた昭和スタイルのファッションに身を包み、息の合った演奏で戦前から愛されてきた日本の歌謡曲を歌い上げる。
兄弟の長男・孝太郎がボーカル、次男・雄次郎がアコーディオン、 三男・龍三郎がウッドベース、四男・圭四郎がバンジョーを担当。アコーディオンとバンジョーの見た目からも懐かしさがにじみ出るというものだが、各人のファンションにも注目すべきだろう。
孝太郎は六分四分でしっかり固めたヘアスタイルに、丸いフレームの眼鏡を着用。スリーピースのスーツをかっちり着こなす姿は、まさに昭和の正装というに相応しい。また他の兄弟も清潔感あふれる横分けヘアで、ベストとネクタイを着用したフォーマルスタイル。ラフ&カジュアルなロックミュージックが流行する以前の、古き良き時代のミュージシャンの姿だ。
ちなみに実の兄弟である4人は、もともと音楽の道を歩んでいたわけではないそう。幼少期に音楽を習っていた経験はあれど、三男・龍三郎、四男・圭四郎はほぼ音楽初心者というところからスタートだったという。それでも加入を決めてからは1年、2年と練習を積んだことで、いまやなくてはならない縁の下の力持ちとしてグループを支えている。
過去のインタビューで、長男・孝太郎は昭和歌謡と出会うまでのエピソードを語っていた。当時組んでいた別のバンドをきっかけにジャズや民族音楽を聞くようになり、1940年以前の音楽へ興味を持ったのだとか。そんなとき、次男・雄次郎から贈られた昭和歌謡を聞いて一気に家族で過ごした思い出がフラッシュバック。これだけのエネルギーを持つ音楽を演奏したいと、すぐさま雄次郎へ「一緒にやってくれないか」と連絡したと明かしていた。
そうした昭和歌謡に対する強いリスペクトが根底にある同グループ。その熱量はたしかに観客にも伝わっている。たとえばグループがYouTubeにアップしている各地での公演のようすを見ると、聴衆の静かなエネルギーに目がいく。いずれ年齢の高い観客たちは声を上げずに音楽に聞き入り、誰に言われるでもなく手拍子が生まれる。場所によっては音楽に合わせて盆踊りを始める人もいるなど、静かだが豊かな感情の表現が見られた。
リバイバルブームだから…といった安い気持ちで流行に乗るのではなく、音楽が持つ力やそこに寄せられた想い、当時の世相を映す練り込まれた歌詞をしっかり見つめて演奏する同グループ。ただ再現するだけなら録音された音源でいい。現代に生きる彼らの尊敬と新しい息吹を感じられる演奏が、彼らがここまでの人気を得ている理由だろう。
昭和歌謡の世界を映像でも
孝太郎の張りと力強さが光るボーカルを兄弟の強く主張せず、かつたしかに存在感のある伴奏が包む…というのが同グループの基本的な演奏スタイル。そこに素人目にもわかるような「特別目を惹く要素」がないのが、また音楽の奥深さを感じさせてくれる。
演奏の音数はそれほど多くなく、個人のスキルを見せつけるような演奏シーンがあるわけでもない。大きな身ぶりやダンスで目を惹くわけでもなければ、歌詞の合間に場を沸かせる煽りが入るわけでもない。それでもどこか惹きつけられて目が離せなくなるのは、やはり一音一音が懐かしさを喚起する昭和メロディーの強さにある。
昭和歌謡のメロディーといえば、ゆったりしたテンポと情感豊かなメロディーが特徴的だ。また感情移入させられる歌詞の言葉選びは、多くの人に共通の…あるいはそれぞれの心にある情景を思い起こさせる。覚えて歌いたくなるような“繰り返し”の音楽性もまた、頭に残っていつまでも楽しめる要因だろう。
そうした音楽を現代に紡ぎ続ける「東京大衆歌謡楽団」は、2024年で結成15周年。さまざまなジャンルの映像を扱うCS放送「衛星劇場」では同グループのコンサートをテレビ初放送する。
1月25日(土)夜8時からは、2022年1月の鹿児島市・宝山ホールでおこなわれたコンサート、および2024年10月に浅草公会堂での結成15周年記念コンサート、そして同年11月に先斗町歌舞練場で行われたコンサートの模様を放送。さらに1月25日(土)夜6時45分からは、「東京大衆歌謡楽団 令和に昭和を歌い継ぐ」がオンエアとなる。同番組は2020年3月に鹿児島テレビなどで放送された特別番組に未放送映像を加えた長尺版で、浅草神社でのライブや台湾ツアーの模様、インタビューなどを収録しているという。
また衛星劇場では「東京大衆歌謡楽団」の特集にあわせて、昭和歌謡映画特集も実施。美空ひばりと鶴田浩二が出演する「あの丘越えて」(1月25日[土]深夜1:15ほか)、藤山一郎と椿澄枝の「東京ラプソデイ」(1月25日[土]夜10:30ほか)、同じく藤山一郎と徳川夢声「春よいづこ」(1月25日[土]夜11:45ほか)、同局で初放送となる春日八郎、白木マリによる「赤いランプの終列車」(1月25日[土]深夜2:45ほか)など豪華なラインナップが並ぶ。
古き良き…というと懐古主義的と思われるかもしれない。だがかつて隆盛した音楽文化には、そこにしかない魅力が確かにある。はやりが過ぎれば忘れられる一過性の火花ではなく、国民が広く愛し続けた文化。日本人の魂が愛した歌謡曲という文化に、いま一度触れてみるのもいいだろう。
※バンドメンバーの名字「高島」の「高」は、正しくは「はしごだか」。
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