弁慶「みそらーめん」 撮影/かずあっきぃ

年間700杯を食べ歩く男、ラーメン官僚が語る90年代「環七ラーメンブーム」熱狂の正体と原風景

2024.09.21 12:03
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日本全国のラーメン店の発掘と紹介をライフワークとし、年間700杯以上のラーメンを食べ続け、生涯実食杯数は20,000杯超という日本屈指のラーメンフリーク、通称「ラーメン官僚」こと、かずあっきぃ氏。今回、日本におけるラーメンの歴史や文化、その進化を語り尽くす短期連載がスタートした。最初の3回では、首都圏のラーメンブームの走りである、「環七ラーメンブームとは、いったい何だったのか」をテーマに、当時の原風景を振り返る。(第1回)

わたしが初めて環七に足を運んだのは、1993年。それまで住んでいた京都から東京に出てきて、先に上京していた友人に「今ハマっているラーメンがあるので、食べてみないか」と言われ連れていかれたのが、環七沿いにあった板橋区常盤台の「土佐っ子」でした。

初めて食べたときは、大変な衝撃を受けましたね。「土佐っ子」はいわゆる背脂チャッチャ系のラーメンですが、一番の特徴は醤油ダレ、いわゆるカエシが、麺が茶色く染まるほど濃厚なのです。カエシにスープを注ぎ、仕上げに大量の背脂をふりかける。背脂多めで注文すると、スープの半分近くがカエシと背脂といった様相となり、最初は「え?」となりました。美味しいかどうかさえわからない。食べていて背徳感を覚えるし、食べた後に若干の気持ち悪さすら残る。ですが、とにかく癖になる。類まれな中毒性の高さにすぐに夢中になりました。それがわたしの環七のラーメンとの出会いです。公務員になるための勉強をしていたら、夜中に友達が「一緒に行こうぜ」って車で迎えにきてくれる。これがわたしの「環七ラーメンブーム」の原風景ですね。

後に「環七ラーメンブーム」は1987年から1995年までと整理されたので、わたしが環七に通い詰めていたのは、ブームの後期ということになります。その当時は、駅前や駅近の街中に人気ラーメン店があるという傾向は今ほど顕著ではなく、多くの人気店が幹線道路沿いに集中していたんです。

深夜まで営業していて、道路から見ても明らかにラーメン店だとわかる店構えで、ちょっと女性1人では入りにくい雰囲気。当時、夜中にラーメンを食べにいくのは、食べ盛りの若い男性が多く、夜中に一杯食べてあとは寝るだけ。ラーメンは、典型的なB級グルメとして人気を得ていました。

もちろんお客さんの中には女性もいたけれど、大抵が男性同伴。グループで来ている女性のお客さんも、知る限り記憶にありません。そもそも最もお客さんが集まる時間帯が深夜ですしね。ラーメンを食べる前に行列待ちの洗礼を受けることも当たり前でしたが、スマホもない時代だったので、待っている間に立ち話をしたりをして。一種の不思議な連帯感がありました。これは完全なわたしの心象風景ですが、通常であれば眠りに就いている時間帯にラーメンを食べることへの背徳感みたいなものを、その場にいる誰もが共有していたような気がします。

「環七ラーメンブーム」当時に人気があった代表的なラーメン店を5つあげるとしたら、「土佐っ子」「千石自慢ラーメン」「弁慶」「なんでんかんでん」「らーめん香月」でしょうか。川原ひろしさんが1987年に世田谷区羽根木に開業した九州ラーメンの「なんでんかんでん」を除けば、見事に、すべて背脂チャッチャ系を出す店舗です。

よく見ていけば、その中でもそれぞれ細かな違いはありました。「らーめん香月」は比較的あっさり系に寄せた味わいで、「弁慶」は麺が太くモヤシも多めで、ガッツリ感が強め。「千石自慢ラーメン」は真っ白な背脂が丼一面を覆い、ひたすらギトギト。この中では、カエシの旨味が強い「土佐っ子」が、中毒性が最も強かったですね。「なんでんかんでん」を含むすべての店舗の共通点は、魚介を使わず、動物系素材だけでスープを採っていること。当時は、そんなラーメンがメインストリームとして人気があったんです。

ちなみに、「環七ラーメンブーム」は「なんでんかんでん」が開業した1987年を起点としていますが、「土佐っ子」「弁慶」「らーめん香月」は、それよりずっと前から営業していました。吉祥寺には「ホープ軒本舗」もありましたし、何なら、「ホープ軒本舗」の創業は1938年です。ちなみに「ホープ軒本舗」は、103の屋台を貸し出して自由に使わせていて、その中のひとつが今の「千駄ヶ谷ホープ軒」なのですが、「弁慶」や「らーめん香月」の創業者は、この「千駄ヶ谷ホープ軒」から独立したんです。

ちなみに、「千駄ヶ谷ホープ軒」の創業者は、1960年に赤羽で屋台を始め、1975年に千駄ヶ谷に店を構えています。創業半世紀を超える、立派な老舗ですね。

話を戻すと、だから、必ずしもすべての背脂チャッチャ系のお店が、環七沿いにあったわけではありません。当時、「らーめん香月」は恵比寿駅前に本店を構えていましたし、「弁慶」の本店は、堀切菖蒲園駅の近くにありました。ただ、環七沿いに店を出していた「なんでんかんでん」と「土佐っ子」の人気がずば抜けて高く、店舗前の違法駐車による交通渋滞を引き起こすなどの社会現象を引き起こしたので、「環七ラーメンブーム」と言われるようになったんです。

あの当時、背脂をたっぷり利かせた背脂チャッチャ系ラーメンを出す店が多かったのは、素材を巧みに使いこなし、スープ自体に濃度やコクを持たせる技術が、今ほど進んでいなかったことが、ひとつあると思います。

ですが、背脂を大量に振りかけたラーメンの人気は、ラーメンのバリエーションが増えた今でもなお、根強いものがあります。例えば、「杭州飯店」「大むら食堂」「まつや食堂」を代表格とする、背脂を大量に振りかける新潟のご当地麺「燕系背脂煮干ラーメン」は、このタイプのラーメンを出す店が、東京で人気店の一翼を担うほどですからね。手っ取り早くスープにコクを出すために背脂を用いるのは、ラーメンづくりの常道のひとつなんです。

当時のラーメン好きは、そんな背徳感が得られる味を深夜に食べられるということで、夜な夜な環七に通っていたのではないでしょうか。

構成/大泉りか

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