生見愛瑠『くるり』と広瀬アリス『366日』が描く記憶喪失の理想と現実…過去より今を愛せるか?
2024年春ドラマでは、記憶喪失をテーマにしたドラマが5本と乱立している。今回はその中で、広瀬アリス主演の『366日』(フジテレビ系、月曜21時)と生見愛瑠主演の『くるり~誰が私と恋をした?~』(TBS系、火曜22時)における記憶喪失の理想と現実、男女の関係性を比較したい。
広瀬アリス主演の『366日』(フジテレビ系、月曜21時)の第8話では、記憶喪失となった眞栄田郷敦演じる水野遥斗に対し、広瀬演じる雪平明日香がついに新たな気づきを得ることになった。
第1話終盤、事故で頭を打ち意識不明の重体になった遥斗は、第4話で目を覚ますも記憶喪失の状態が続いてきた。思い通りに日常の動作や仕事が出来ないだけでなく、恋人の明日香を含めた高校時代の同級生についても全く思い出せずにいた遥斗。
そんな彼に対し、遥斗と仲良し5人組だった明日香、小川智也(坂東龍汰)、下田莉子(長濱ねる)、吉幡和樹(綱啓永)の4人は、遥斗が自分達を思い出せるよう、楽しかった高校時代について話したり、かつてのようにキャッチボールをしたり、遥斗にとって思い入れのある高校の桜の写真を見せたりと奮闘してきた。
しかし遥斗はキャッチボールという“動作”は思い出せても、4人がどんな人物だったかや、高校時代の風景は思い出せず、いつしかそんな自分に引け目を感じていた。親身になって世話をする明日香に、過去の記憶は無くともあらためて恋をした遥斗。だが、明日香の誕生日を忘れてしまったり、思い出せていないのに記憶が戻ったふりをして、かえって明日香を落胆させてしまったと感じていた。
他の同級生3人も、かつて遥斗がプロデュースしたレストランで定期的に集まったり、花火大会を見に行ったり、コテージで忘年会を開くなど、一緒に過ごすことで遥斗の力になりたいと思っていたが、遥斗にとっては“周囲に気を遣わせている”状態にあった。
その忘年会では、遥斗と同じ野球部だった智也が当時の動画を4人に見せた際、明日香は盛り上がる周囲に対し、寂しそうにしている遥斗に気が付き、「もういいじゃん、食べよう」と動画を停止するよう頼んだ。これは、明日香が忘年会前に、遥斗の担当看護師で、過去に遥斗と関わりがあった宮辺紗衣(夏子)に「今の水野さんをちゃんと見てあげて下さい」と指摘されたからだった。
“今を大切にする”という視点は、同じ記憶喪失を扱う春ドラマの『くるり~誰が私と恋をした?~』(TBS系、火曜22時)では、かなり初期からテーマになっていることだ。同作では、主人公で生見愛瑠演じる緒方まことが、第1話から記憶喪失の状態でスタート。まことの周囲に自称・元カレの西公太郎(瀬戸康史)や自称・唯一の男友だちの朝日結生(神尾楓珠)などが登場し、物語が展開していくが、まことに記憶が思い出せるよう追い込むような描写は、早い段階で無くなっている。
まことは自分がどんな人物か知ろうとする過程で、周囲の目を気にし過ぎて無難に過ごしてきた過去の自分に幻滅し、新しい自分を築こうとしていく。公太郎は第1話から「記憶がないってことは自分らしさから自由になれるのかも」と悟り、「今の自分で好きにやってみたらいいんじゃない」とまことにアドバイスしていた。
朝日は、第1話こそ生まれ変わろうとするまことに「過去のまことがかわいそう」と伝えていたが、その後も常にまことを想い、どんなまことも全力で守ろうと振る舞ってきた。まことが通うメンタルクリニックの院長からは、「まずは今の自分と友達になれるといいですね」と、プレッシャーを軽くするような言葉が与えられている。そうした周囲の支えもあって、まことは必要以上に過去を詮索するのではなく、今周りにいる人々から見えている自分を信じると決心出来たのだ。
ただ、『366日』で遥斗の周囲が必死に記憶を取り戻させようとしてきたことも、責めることは出来ない。大切な人が自分を忘れてしまったら、その人のためにも、自分のためにも、思い出して欲しいと願うのは自然なことだろう。その人が大切であればあるほど、その願いは強くなるはずだ。
記憶喪失となった人の周囲の理想的な形が描かれてきた『くるり~誰が私と恋をした?~』と、現実的な形が描かれてきた『366日』。その『366日』第8話は、看護師・宮辺によって、周囲の人が取るべき理想的な対応への気づきを与えられる回となった。“過去に彼女だった私”を押し付けるのではなく、今の遥斗の気持ちを優先し、恋人関係を解消した明日香。だが、これから2人が築いていく関係こそ、今の2人にあるべき姿なのだろう。
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