"ケンダルは、勝つけど負ける"『メディア王~華麗なる一族~』、ジェレミー・ストロング直撃インタビュー
巨大メディアを経営する一族による骨肉の後継者争いを辛辣に、かつシニカルに描き、大ヒットしているHBO『メディア王~華麗なる一族~』(原題『Succession』)。そのシーズン3がU-NEXTにて独占配信中だが、ケンダル・ロイを演じるジェレミー・ストロングに直撃インタビュー! 本当は父に認められたいともがき苦しむキャラクターを演じることをどう思っているのか? シーズン2の衝撃的なラストシーンについても話を伺った。
――エミー賞受賞おめでとうございます。本シリーズにご出演する意義、ジェレミーさんにとって本作の意味とは何でしょうか?
役者の役割は何かを考えると、それは楽器になって音を奏でることなんじゃないかなと思うんだ。こういうレベルのコンテンツに出られるっていうのは、音楽に例えるなら、名匠たちの曲を奏でることができるのに相当するもの。例えばベートーベンだとか、マーラーだとかの曲を奏でられるような、媒介になれるっていう感触。そして文化の核というか、中心になるような、何かコンテンツに身を委ねてそれに貢献できる自分自身を思いっきりこのキャンバスで表現できるっていうのは役者にとって、これほど幸いなことはない。だから、ひたすらにありがたいと感じていると言えるね。
僕にとってどういう意義があるのかというと、ヒラリー・マンテルというイギリスの作家さんがいるんだけど、"書くことは円形競技場へ出陣して戦うようなものだ"って言っていたんだ。僕自身、役者業をそのように捉えている。また、僕の演じているケンダルも、そうやって出陣して戦いに挑まなければならないような、とても苦しいキャラクターなんだ。僕にとっては役を演じることはすべてだよ。
――作品の一つのテーマとして、コントロールであったり権力であったり、人がそれをどう掌握しようとするのかがありますが、俳優としてある一定のパワー、権力あるいはその力をつけたと思えた時点はいつ頃でしたか?
僕のキャリアと、『メディア王~華麗なる一族~』というシリーズは別のことだと思うんだ。役者がどのようにして力をつけるのかというと、キャリアを成功させることによってではない。むしろ、それへのこだわりを捨てることからくるんだと思う。外部からの賞賛を頼ってしまってはそんなものは手に入らないし、身を滅ぼすことになると思う。だから、僕がキャリアを歩む中で気づいたことなんだけど、例えばこうやってインタビューできるという夢のような話、こういうのをいちいち幻想として描いてはいけないというか、その夢を一旦手放さないといけないと思った。そうすることによって、本当に自由にひたすらに演技することに集中できるはずだということに、ある時点で気づいた。それこそが力だと思う。つまり内なる力、自由からくる力なんだ。ステータスからくる力ではなく。でもこの『メディア王~華麗なる一族~』で描いているのは違う類の権力、パワーだよね。
それで『サクセッション』の悲劇はどこにあるのかというと、彼らはこういった権力を追い求めるようにしつけられたわけだ。そうでいながら、自分の内なる力を育むチャンスを剥奪された。だから、彼らはいわゆる物質的な権力や富は持っている。僕の後ろにあるトランプタワーのようにね。でも、そうでいながら無力なんだ。それが彼らの苦悩の根幹にあるんだと思う。このインタビューに応じる前にユングを読んでいたんだけど、こう言っていた。愛が不在である空虚を埋めるのは権力であると。これは、まさにこのシリーズに通底するテーマというか、流れだと思う。この章の主要なテーマだと思う。つまり、愛の空虚を権力で埋めようとする人たちの物語なんだ。
――ケンダルがやることなすことすべては父親に認められたいという、承認欲求からくるのではないかと思います。ラップを披露してしまうほど、認められたいわけですよね。そのような苦悩するキャラクターを演じるのはいかがでしょうか?
ケンダルとして生きていくのは、さぞかし大変なことだろうと演じていて思うよ。僕が思うに、彼の苦悩の一部はこういうところから来ているのだと思う。本当は父に認められたいという承認欲求、そういったものから解放されたいんだ。だからシーズン3がすごく面白い。シーズン2の終盤もそうなんだけど、そこの面白さはどこにあるのかというと、彼にとっての決定的な局面なんだ。シーズン2の最後の記者会見でああいうことをやるっていうのは。彼はある種、父親からの解放を求めて、ああいう行動に出るわけで。父親からの抑圧にがんじがらめになっていたけど、自らを解き放とうとする。だけど、あくまでも今までの原動力だったんだ。今となっては、ケンダルは全然違うところにいると思っていて。
父親から解き放たれてしまった今、彼の原動力はどこにあるのか? フィッツジェラルドの「崩壊」というエッセイ作品があって、このシーズンの撮影に入る前に脚本家のジェシーと話したんだ。「崩壊」の中にはこういうくだりがある。夜明けに人気のいない牧場につっ立っている自分がいる。そして銃口が煙るライフルを片手に構えているんだけれども、狙撃相手はもう打ち倒してしまった状態であると。そこには問題はもはやない。唯一聞こえてくるのは自分自身の吐息だけ。こういうことをエッセイで書いているんだ。そういうふうに感じる瞬間があるっていうことだと思う。それそのものが、また新たな問題なんだよね。要は自分が狙っていた相手を打ち倒してしまったけど、次はどうするべきなのかっていう問題が立ちはだかる。例えばケンダルの場合、この会社を指揮するのならば、これが僕の番ならば、それはじゃあどのように経営していこうか?っていうことを考えなければならない。その展開を演じていて、本当に楽しかったし、ケンダルの思うようにならないっていうところも演じていて楽しかった。
――シーズン3では、完全に家族の中でははぐれ者になっているけれども、それでも幾分かの権力を掌握した状態にあります。そうなりながらも彼は自分自身をサボタージュするところがあるのではないかと思うのですが、どういったことが根本にあるのでしょうか?
その読みには同意するよ。僕もそう思う。どこかで、脚本家のジェシーがメモを書いていたんだけど、"ケンダルは、勝つけど負ける"ってあったんだ。どこかそういう不器用なところがあって、的を狙い過ぎちゃったりとか、あるいはわずかに外しちゃったりっていうところがある。でも何でそうなるのか、僕もいまいちわからない。もしかしたら、根源的な幼少期に体験したことを、繰り返したくなるような欲求がどっかで働いているのかもしれないね。
シーズン1からローガンは常にケンダルを裏切ったり抑圧したり、妨害したりしてきた。ずっとそういう状態でやってきて、虐待を受けてきた。虐待を受けた子っていうのは、そういうものを内在化するんだと思うんだ。つまりは根っこで、どこか自分は成功するに値しない、幸せになるに値しない人間だと思っている。そういった虐待を内在化しているんだと思う。前に進みたいのに、リミッターがかかっていて、妙な押し引きが自分の中で葛藤として表れていると。父親がそういうダメージを息子に食らわしたんだ。もちろん、他の兄弟たちもそうだけど。こういう一家なんだ。何かを追い求めるようにしつけられた割には、それをちゃんと手に入れる、あるいは手に入れるための力を剥奪されちゃっている状態にある。子どもたちは自分自身を信ずる力を剥奪されているわけだよね。
――ケンダルのストーリーラインは男性性のクライシスを描いているのではないかと思うのですが、男性にのしかかってくる社会的、あるいは伝統による重圧についてどう思いますか?
今、有害な"男性性"についての話題はしょっちゅう上っているけれど、男であるっていうのはどういうことなのか? それを考えていくと、例えばこの一族の掟は男イコール力であり、イコール支配であり、いわゆる伝統的な男性性を追従しているわけなんだ。ローガンの場合はそれに加えて、暴力性も付随してくる。ケンダルの場合はどっちかというと、少年のようだと思うんだけど。さらに深く考えていくと、このシリーズはある一つのテーマについて語っている。それは何かというと、個体化だと思う。つまり、息子そして娘たちは、子として生きるべく家族から自分を解き放とうと本当はしているんだけど、そうはできないでいるっていう状態だと思う。どこまで意識していたか、自分でもよくわからないんだけど、実際ケンダルを演じているときにこういうことを体でもって感じたんだ。ケンダルはいろんな男の仮面をかぶって、いわゆる勝ち組を演じようとするところであったり、誇大化して表現するところがある。だけど、それはどこまでもパフォーマンス的な男性性な感じがして、無理やりそうしているところがあるように感じるんだ。ケンダルの吐く台詞は、自分の内なる力から湧いて出てくる言葉ではなくて、そこには、ある種の弱さがある。脚本家たちは本当に優秀で、遠慮なくこういう部分も語ってくれるんだ。男性の脆弱性についてもちゃんと触れてくれる。これも語り口としては非常に力強いことだと思うよ。効果的だよね。
だからそういう面で言うと、ケンダルも非常に壊れてしまったところを我々に見せてくれるわけだ。光がスーッと体から吸い取られたような、そういう姿を見せてくれる。一方で、例えば不死鳥のように這い上がってくるみたいな姿も見せるわけだけど。僕が思うに、多分脚本家のジェシーは人に対してこう解釈しているんだと思うんだ。人が変わったり成長したりすることはないんだってね。そういう人の人生っていうのはそうやって一直線上に進んでいくわけではなくて。だから、欠点だらけの人たちが、ずっと押していろんな手を変え、品を変え頑張ろうとする。心の中にある穴を埋めようとする。あるいは男であろうとする。ケンダルの場合は、男であるっていうのは何なのか探っている感じはあるけれどね。そうやって思いあがいている登場人物たちに対して、答えを出してあげるわけではない。それが、むしろ脚本の素晴らしいところだと僕は思っているよ。
『メディア王~華麗なる一族~』シーズン1~3はU-NEXTにて見放題で独占配信中。
(文・取材/編集部AKN)
Photo:
『メディア王~華麗なる一族~』シーズン3© 2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.
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