発熱時、お風呂に入る? 入ると危険? 風邪やインフルエンザは「汗をかけば早く治る」という怖い誤解
【脳科学者が解説】風邪やインフルエンザで熱が上がるのは、体がウイルスと戦うための自然な反応です。治ってきた結果として汗が出ますが、汗をかくこと自体が役立つわけではありません。入浴の可否を分かりやすく解説します。(※画像:shutterstock.com)
風邪やインフルエンザで熱が出てしまったとき、「お風呂でよく温まって、しっかり汗をかけば早く治る」と思っていませんか? 実践している人もいるようですが、実は医学的には危険な行為で、おすすめできません。分かりやすく解説します。
風邪やインフルエンザ感染で発熱するのはなぜ? 体温が上がるしくみ
まずは風邪やインフルエンザで高熱が出る理由を理解しましょう。
私たち人間は恒温動物です。健康なときの体温は36~37℃程度で、一定に保たれています。脳の視床下部にある体温調節中枢がこの温度を正常値として設定し、外気の寒暖で体温が変動しそうになっても、元に戻すよう調節するためです。
しかしウイルスに感染すると、体の中でサイトカインと総称される炎症関連物質が産生されます。その信号によって体温調節中枢が「体温を上げよう」と判断し、体温が上昇します。
種類によっても多少異なりますが、一般的にウイルスが最も活発に増殖するのは37℃程度です。39℃付近になると、ほとんど増殖できないといわれています。より正確にいえば、ウイルス自体は生き物ではないので、自分で増殖するわけではありません。核酸やタンパク質が寄せ集まった、ただの構造体(いわば物質)に過ぎません。
増殖するのはウイルスではなく、私たちの細胞が誤ってウイルスをコピーして増やしてしまうためです。体温が上昇するとコピーするスピードが落ちます。そのため私たちの体は、治すために意図的に熱を上げているのです。
悪寒と発汗の正体は? 「治る順序」を誤解しないことが大切!
体温が急上昇すると、外気との温度差が大きくなるため「寒い」と感じ、ゾクゾクと悪寒が出ます。悪寒によって厚着をしたり布団にもぐったりする行動は、体に熱をこもらせ、体温を上げることに役立っているのです。
一方、しっかり休んで免疫力によってウイルスが減ってくると、体は「もう体温を上げておく必要はない」「勝てる見込みがついた」と判断し、体温調節中枢は設定温度を元に戻し始めます。そうすると、外気と体温の差が小さくなりますから、今度は「暑い」と感じて汗をかき始めます。
つまり、「治ってきたから、汗が出る」のであって、「汗をかいたから、治る」のではありません。多くの人が、どっと汗をかいた後で回復した経験を持っているため、順序を逆に捉えて、「汗をかけば早く治る」と誤解してしまうのでしょう。
風邪・インフルエンザ時にお風呂は入るべきなのか? 条件と注意点
では、発熱時のお風呂はどうでしょうか? 汗をかくという誤った目的とは無関係に、私は入浴を勧めます。何日もお風呂に入らず不潔にしていると、風邪以外の感染症(いわゆる二次感染)を起こす可能性もあるため、体の清潔を保つことは大切だからです。
ただし、注意してほしい点があります。
・38.5℃以上の高熱時
・食事・水分がとれていないとき
・ふらつきがあるとき
これらの場合は入浴を避けてください。免疫がウイルスと戦っている最中に体力を無駄に消耗すると逆効果だからです。免疫の中心は白血球で、ウイルスを片付けるためにエネルギーを必要としています。発熱のピークはまさにその戦いの正念場ですから、体力を消耗する行動はとにかく控えなければなりません。その意味で、上記に当てはまるタイミングでのお風呂は禁物です。
一方、熱が37~38℃程度で、食欲があり、それほどつらくない状況であれば、白血球に使うエネルギーは足りていると考えられます。少しくらい動いても問題ありません。
無理に汗をかこうとせず、38~40℃のぬるめのお湯に短時間つかり、体が温まったと感じたら出ましょう。寒くない浴室であれば、シャワーだけでもかまいません。なお脱水を防ぐために、入浴前後にはコップ1杯程度の水を飲みましょう。入浴後はタオルで体や髪を素早く拭き、体を冷やさないようにすることが大切です。
いずれにしても、「早く治すためにお風呂に入る」「湯船でしっかり温まる」という考えは誤りです。
風邪やインフルエンザにかかったときは、「無駄に体力を消耗しない」ことが回復への近道といえます。「体力があり、お風呂に入りたいなと感じたら入浴してもよい」と覚えておきましょう。
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
執筆者:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)
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