35年抱えてきた姑への記憶。夫の素朴なひとことが、私とお嫁さんの距離を変えた
嫁いだ娘さんに、なぜか踏み込めなかった3年
息子のお嫁さんが家に来てくれるようになって、3年が経っていました。控えめで気が利いて、私が何を言っても優しく頷いてくれる。本当にいい子だということは、最初の食事会から分かっていたのです。
それなのに、私は彼女との距離を、どうしても縮められずにいました。料理を褒められたら「ありがとう」とだけ答えて、それ以上の話に踏み込まない。目が合いそうになると、つい手元に視線を落としてしまう。
息子には「お嫁さんと仲良くしてあげてね」と何度も言われていました。「そうね」と笑って返しながら、心の奥では、自分が35年前に嫁いだ頃のことを引きずっていたのです。
仏壇の前で、夫がしみじみと言った言葉
その日の食事も、いつもと変わらない調子で進んでいました。お嫁さんが夫にお酒を注ぎ、息子が私の煮物をおかわりする。穏やかで、けれど私とお嫁さんのあいだだけは、いつも見えない壁がありました。
ふと、夫が仏壇の方を見て、しみじみと言いました。
「お前さん、母さんの若い頃に似てるなあ」
私の姑の話でした。35年前、毎日のように私を叱り、何をしても認めてくれなかったあの人です。お嫁さんは「ありがとうございます」と頭を下げ、夫は「写真があるんだよ、母さんの若い頃の。今度見せてやろう」と嬉しそうに続けました。
私は、お椀を両手で包んだまま、しばらく俯いていました。夫はお嫁さんが私の姑に似ていると言ったのです。本当は私が一番、その似ている部分を見つけていました。けれど似ていると気づくたびに、私はあの子から距離を取ってきたのです。
台所で、長く隠してきたことを口にした
食後、お嫁さんと並んで台所に立ったとき、私はすすぎを終えた手のまま、止まっていました。お嫁さんはいつも通り、皿洗いを続けてくれていました。背中越しに、エプロンの紐がきれいに結ばれているのが見えます。
「ごめんなさいね、ずっと冷たくして」
声に出してから、自分でも驚きました。蛇口の音が止まり、お嫁さんがこちらを向きます。私は窓の外を見つめたまま、続けました。
「私、自分が嫁いできた頃を思い出してしまって。あの頃のお義母さん、本当に怖い人だったの。何をしても認めてくれなくて」
35年抱えてきたことが、こんなにあっさり言葉になるとは思いませんでした。「あなたに辛い思いをさせたくなくて、距離を置いてしまったの。私みたいに、あなたを苦しめたら嫌だと思って」
お嫁さんが「お義母さん」と呼んで、私の手の上に、自分の手を重ねてくれました。温度を感じたとき、ようやくこの子の手をちゃんと見たのは、3年で初めてだと気づきました。
そして...
「私こそ、ずっとお話ししたかったんです」
お嫁さんの声が涙で揺れていました。私の中で35年閉じてきた何かが、その声でほどけていきました。
「母さんの若い頃に似てるなあ」というあのひとことは、お嫁さんへの褒め言葉であると同時に、私への「もう昔のことはいいんだよ」という合図だったのかもしれません。リビングでテレビを眺めている夫の背中が、いつもより少しだけ優しく見えました。
(60代女性・専業主婦)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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