妹への遺産を「不要だ」と言い放った俺が、父の遺言書を前に言葉を失った理由
そばにいたのは俺だった
親父が足腰を悪くしてから、介護施設に入るまでの5年間、定期的に通い続けたのは俺だった。週に3回は様子を見に行き、病院の付き添いも何度もした。妹は遠方に嫁いでからろくに連絡もよこさず、盆暮れに帰ってくるかどうかも怪しい状態が続いていた。
親父が亡くなったとき、真っ先に感じたのは疲労感と、「これで俺が守ってきたものを受け継げる」という安堵だった。妹に知らせたのは翌日の夕方になってからで、正直なところ来なくていいとすら思っていた。俺が背負ってきた5年間を、あいつは知らない。そう思っていたのは事実だ。
言い過ぎたのかもしれない
妹が実家に現れた日、俺は玄関先で言った。「嫁に出た妹に遺産は不要だ。お前はもう別の家の人間だろう」。そう言いながら、声が少し荒くなっているのを自分でも感じた。妹は黙ってうなずいて、何も言い返してこなかった。
その沈黙が、少しだけ引っかかった。でも「当然のことを言ったまでだ」と言い聞かせた。世話をし続けたのは俺だ。嫁いだ女には別の家がある。その論理を、俺は一度も疑わなかった。
一週間後、遺言書があること知った俺は専門家の事務所に向かった。「どうせ形式的なものだろう」と言いながら向かったのも、結論はもう決まっているつもりでいたからだ。
親父が書いていたこと
遺言書の朗読が始まり、財産の大部分が妹の名前で記されていると聞いたとき、俺は自分の耳を疑った。続いて読まれた親父の手紙が、さらに俺を追い詰めた。
「長男には十分に甘えさせてもらった。だが娘のことは、ずっと心配してきた。嫁に出た女には何もいらないと、息子が何度もわたしに言い聞かせようとした。それを聞くたびに、娘への申し訳なさが増した」
親父はすべて知っていた。俺が妹を外そうとしていたことも、そのために親父を説得しようとしていたことも。そのうえで、あのような形で答えを残した。テーブルの上で、指先が落ち着きなく動いていた。何か言わなければと思うのに、声が出なかった。
そして...
事務所を出て、俺はしばらく車の中で動けなかった。親父のそばにいた時間の長さが、そのまま正しさにはならなかった。そのことがじわじわと染み込んでくるようで、やけに苦しかった。
妹へ言った言葉を取り消すことも、あの五年間を消すこともできない。ただ、親父が最後に残した手紙は、俺への怒りじゃなかったと思いたい。そう繰り返しながら、帰り道をずっと走っていた。
(40代男性・警備職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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