「英語なんて無駄」と娘に言い切った私→20年後、娘の英語に頼ることになった日
職人の信念
この町工場を継いだ私。国内の取引先だけで、仕事は十分回っていました。海外と取引するような会社でもありません。英語なんて、自分には縁のないものだと思っていました。
だから、娘が小学生のころ「英会話教室に通いたい」と言ってきたときも、深く考えずに答えました。「そんなもの使わない。無駄だ」。娘はそれ以上何も言わず、引き下がりました。
そのとき、どんな顔をしていたのか。正直、私はよく覚えていません。仕事のことで頭がいっぱいで、ちゃんと見ていなかったのだと思います。
海外からの引き合い
それから長い年月が過ぎました。 数年前から景気の影響もあって、工場の業績は少しずつ落ち込んできました。新しい取引先を探さなければならない状況でした。
そんなとき、海外の製造会社から問い合わせが入りました。うちの製品の図面を見て、興味を持ったらしいのです。しかし問題がありました。社内に英語を扱える社員が、誰もいなかったのです。
送られてきたメールの内容を理解するのにも時間がかかり、返信の書き方もわからない。せっかくの話なのに、商談はそこで止まってしまいました。
娘に電話をかけた日
そのとき、ふと外資系の会社に勤めている娘のことを思い出しました。
電話をかける前、しばらく迷いました。20年前に「無駄だ」と言い切った英語を、今さら頼るのか。そう思うと、簡単にはボタンを押せませんでした。
それでも、工場で働く社員たちの顔が浮かびました。会社を続けるためには、やるしかありませんでした。意を決して電話をかけ、こう言いました。「海外の会社から引き合いが来てな、でも英語のできる社員がおらんで......英語、教えてくれんか」
少し間があってから、娘は明るい声で答えました。「いいよ」
そして…
その一言を聞いたとき、胸の奥が少し痛みました。怒ってもおかしくないはずです。20年前、私は娘のやりたいことを「無駄だ」と言い切ったのですから。それでも娘は、何事もなかったように引き受けてくれました。恨み言ひとつ言わず、笑いながらです。
「無駄だ」と言った自分が、その「無駄」と否定したものに救われようとしている。その事実を、今ははっきりと理解しています。
子どもの可能性を「無駄」と切り捨てた言葉は、簡単には消えません。それでも娘は、こうして手を差し伸べてくれました。あの日、無駄な判断をしていたのは英語ではなく、きっと自分自身だったのだと思います。
(60代男性・工場経営者)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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