「うわ、引くわ……」夜遊びもほどほどに。彼を萎えさせる彼女の言動
こんにちは。昼はしがない会社員、夜は東大卒の夜遊びコラムニスト、ジェラシーくるみです。自分の浅ましさを痛感する、とあるクリスマスのイタい恋を紹介します。
■怪しげなパーティー。景品のネックレスをゲットした夜
なんでも共有し合うのが良い関係、と勘違いをしていたうら若き時代があった。
あれは学生時代のクリスマス。付き合って半年が経つ年上の彼とは順調で、クリスマスイブには一軒家のフレンチに行く予定だった。
イブの一週間前、私は金色の電灯に覆われたにぎやかな表参道を歩きながら、2時間かけて彼へのクリスマスプレゼントを調達した。
ちょっと奮発してマフラーとかわいらしいクリスマスカードを買い、そのまま向かったのは友人の家。その日は、顔も知らない他人の誕生日パーティーの予定があった。
夜の街で知り合ったお兄さんやオジに誘われ、素性も分からない人が主催するパーティーに行くのは日常茶飯事。よく暇つぶしも兼ねて友達と冷やかしに行ったものだ。
特にその夜の会の主催者は、大学生に人気の中価格帯アパレルブランドの社長さんで、一体どんな人なのか見てみたい気もした。
友人の家でメイク直しをして、二人で腕を組み出かけるのは夜の星条旗通り。ひっそりと佇む灰色のビルの地下一階で生誕祭は開かれていた。
会場はかなり盛り上がっていて、奥のソファ席には俳優やタレント、よくMステに出ている有名バンドのメンバーも居た。誘ってくれた自称スタイリストのお兄さんに挨拶をし、冷めたオードブルをつまみながら適当にやり過ごしていると、BGMが切り替わった。
白いスーツに身を包んだ髭オジがステージに上り、マイクでしゃべっている。話の内容は何一つ覚えていないが、JDに人気なブランドの社長が派手なジャケットを羽織った中肉中背の普通のオジだったことに少しがっかりした。
一人の芸人がステージ脇からセンターに出てきて、昔流行っていた一発芸を始める。パシャパシャとスマホカメラの音が鳴る。芸人は自分の一発芸を結局5発もくり返した。
その余興が終わると、“豪華景品”を賭けたじゃんけん大会が始まった。「参加者は女性だけですよ〜」とMCの人が声を張り上げる。どうする? と友達と顔を見合わせながらも、景品がもらえるなら、と腕まくりをして参加する強欲な私。
3回ほど髭オジとのじゃんけんに勝つと、残った6人の女の子で直接対決に。広い会場の中に点在する6本の腕が勢いよく空を切る。
なんとそこでも私が勝ち残ってしまい、同じ女子大生と思われる20歳そこそこの子とガチンコ勝負になってしまった。
「あいこでしょ!」が2回続いた後、私は勝利した。
掃除委員決めのじゃんけんでは常に負けていた私が、人生で初めて勝ち取った“じゃんけん一位”だった。
ステージに上げられ、“豪華景品”の白い箱を髭オジから手渡される。景品は、オジの会社のブランドのネックレスだった。ピンクゴールドのかわいらしいデザインで、たしか4〜5万はするはずだ。
最後の一人に勝ち残った興奮と、棚ぼたでアクセサリーをゲットした喜びで私は浮かれ、一緒に来ていた友人にネックレスを着けてもらい、会場をあとにした。
と、ここまではただのミーハーJDの週末エピソードで、私の愚行が炸裂するのはこの後だ。
■浮かれたあまり、とった行動は……
パーティーの浮かれた空気を引きずりながら帰宅した私は、どうしても誰かにネックレスを見せたくなった。他の友人たちに自慢するのもなんとなく気が引けて、何を思ったか、自撮りをして彼氏に送り付けたのだ。
「○○(ブランド名)の社長の誕パに行ったら、じゃんけん大会で勝ってネックレスもらった!」と。
オジのパーティーだったという世界一不要な状況説明を添えて、芸人による余興の様子と自らの着用画を送った。
どうしてそんな愚行に至ったのか、我ながら理解に苦しむが、おそらく次のデートで「そのネックレスどうしたの?」と言及されたときにうまい嘘をつく自信が無かったのと、「私はこんな楽しい生活してるよ」と年上の彼にマウントしたかったのだろう。開けっ広げに何でも共有し合うのが理想の人間関係だと勘違いしている節もあった。
私の送った自意識満載の恥ずかしいメッセージにはすぐ既読がついたが、彼からの返事は来なかった。
20時間ほど経った翌日の夕方、「へー! よかったじゃん笑」と簡素な文面だけが送られてきた。そしてその数日後、イブ前日に「ごめん、明日会えなさそう」とドタキャンLINEが差し込まれた。
■ドタキャンの真相
焦った私はすぐさま彼に電話をかけ、事情を聞いた。
実は彼はクリスマスプレゼントにネックレスを用意していたらしい。そして私がすでにネックレスをGETしたと知り、がっかりしてプレゼントを返品したという。そして勢い余ってレストランもキャンセルした、と。
勢いで店のキャンセルまでするなんて助走つけすぎだよ……と思いながら私は冷静に諭したが、彼の決意はかたかった。ネックレスなんてなんぼあってもいいのに。
結局仲直りをして、違うお店で数日遅れのクリスマス会を開いたものの、もう街のイルミネーションは一掃されており、「Last Christmas」の代わりに流れるのは「もうい〜くつ寝ると〜」。
晦日気分のクリスマスディナーはあまり楽しいものではなく、彼とは結局数カ月後に別れてしまった。
■イタい恋から得た教訓「情報開示の前に、一呼吸おくべし」
無論、このいざこざは、オジのパーティーやネックレスのことを洗いざらい報告してしまった私のせい。因果応報、身から出た大錆なのだが、ネックレスの色がかぶっただけで現物返品・お店キャンセルしてしまう彼も相当な繊細君だろう。いや、きっと本音は、オジの生誕祭にのこのこ行った私が許せなかったのかもしれない。
この出来事をきっかけに、「どんなに浮かれた状態でも、相手の気持ちやその後の展開を考えて口を開きましょう」という当たり前の教訓と、人はガン萎えするとすべてを無に帰したい衝動に駆られるという習性を知った。言わなくていいことは、言わなくていいのだ。
結局ネックレスは、じゃんけん大会の日以来つけることなく、今はジュエリーボックスの一番奥にしまってある。目に入るたびに、苦々しいクリスマスの思い出がよみがえり、よく災いを呼んでしまう自分の口にキュッと力が入るのだ。
(文・ジェラシーくるみ、イラスト・菜々子)
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