松重豊と井之頭五郎が歩んできた軌跡 “腹ペコおじさん”の日常から強烈な旨みを煮出した名作「孤独のグルメ」ドラマ化の快挙
テレビ東京開局60周年特別企画として、2025年1月10日(金)に公開される「劇映画 孤独のグルメ」。松重豊が演じる井之頭五郎が世界を股にかけて冒険する…という挑戦的なストーリーが、早くもファンの耳目を集めている。2024年10月から始まっているドラマ「それぞれの孤独のグルメ」も含め、話題に事欠かない同シリーズ。じっくりゆったり楽しめる異色で“孤高”なグルメドラマの真髄を、映画公開前に深掘りしていく。
原作漫画「孤独のグルメ」が持つ無二の魅力
同ドラマは原作・原案を久住昌之が、作画を谷口ジローが担当したグルメ漫画の実写化作品。輸入雑貨の貿易商を個人で営んでいる男性・井之頭五郎を主人公に、彼が仕事の合間に立ち寄った飲食店でのエピソードを描く。
漫画はタイトルに「グルメ」と名がつく通り食事シーンがメイン。しかし普通のグルメ漫画と違うのは、登場する品がとことん“普通”という点だろう。もちろん、普通というのは工夫されていないということではない。各店の料理長が懸命に取り組んで作った味わいは、五郎の目を丸くするメニューだって多い。だが大事なのは、あくまで出されるのが“普通の店で出てくる”料理ということ。
“グルメ”を標榜する漫画であれば、目にも鮮やかな料理や奇抜な見た目にも関わらず絶品の味わい…といった変わり種メニューが飛び出しがち。材料は普通でも食べた人が至福のあまり叫び出すような、スペシャルな一皿が読者を驚かせるものだ。
一方で「孤独のグルメ」ではどうか。五郎が立ち寄るのは町中華や定食店、サラリーマンが昼休みに愛用できる美味しくてリーズナブルなメニューの並ぶ店が多い。当然出てくるのもハンバーグやブリ照焼定食など、どこかの街レストランに立ち寄ればありそうな品ばかり。もちろん出先で当地の名物をいただくこともあるが、ともかくも“世界でも数人しかできない特殊な技術で作った料理”とか“数十年に一度しか味わえない食材が必要なメニュー”といった豪華な逸品が登場しない。
だがだからといって退屈な物語なのかというと、決してそうとは言えないのが同作の面白いところ。ひとりで食事に向き合う五郎は、ひたすら心で独り言をつぶやきながら食を楽しむ。事前の下調べなどをせず、出会いを大切にする流儀を持つ五郎。空きっ腹の命じるままにあれもこれもと注文して、“ぶた肉いため”と“豚汁”で豚がかぶってしまったり、妙なリアリティーがあるのだ。(「ダブってしまった」はさまざまなコラージュ画像が作られる名シーンで、ネットミーム化している人気エピソードだ)。
それでも静かながらどこか充実した生活を送っているように見える五郎。失敗シーンやちょっと嬉しくなる出会いも、なんとなく見る人が思わず「あるある」と共感してしまうものばかりだ。大きな盛り上がりはないが、だからこそいくらでも見ていられる。それが「孤独のグルメ」という作品だ。
ちなみに同作は、現地取材で撮影された数百枚にも及ぶ写真をもとに実在する店舗をモデルとして作画されている。登場する各メニューの再現度が非常に高い理由だ。そのためモデルとなった店舗をファンが訪れる、いわゆる聖地巡礼と呼ばれるようなものもファンの間ではおこなわれている。
実は原作漫画は全2巻、原作愛の伝わる制作陣のこだわりを感じるドラマの再現度
多くのファンに愛されてきた「孤独のグルメ」。2012年からはテレ東系列でドラマ化もしており、テレビシリーズは10作、特番や配信オリジナルシリーズなども多く展開されている。主人公の井之頭五郎は松重が演じており、その渋さのなかに混じる茶目っ気にはファンも納得の人選。低予算番組としてスタートしたにも関わらず、現在では看板番組となるまでに至った。
飲食店に入って食事をする、という1話完結の構成は原作通り。「初めて見たところでハマって、そのまま続きを見るようになった」という声も多いところを見るに、設定や前話とのつながりを意識せずに見られるのが忙しい現代人にマッチしたところもあったのだろう。
また実際にある飲食店をモデルにしていた原作と同様に、ドラマは実際に店舗での撮影許可を得て制作。特別な演出や大げさなせりふ回しなどもなく、ゆったり、じっくり、豊かな気持ちで食事を楽しむ五郎の気持ちがストレートに伝わる内容になっている。
ユニークなのは、ドラマシリーズが10作以上にも渡って続いていること。というのも、原作漫画「孤独のグルメ」は実は2巻しか発売されていない。「望郷篇」と題した小説版などもあるが、同名漫画は2巻のみだ。
そのなかで原作・久住の大事にしてきた味わいを保ちつつ、話を作り続けられたのはドラマ版制作スタッフの力量と言わざるを得ない。料理に対面したとき、または味わったとき、店を選ぶときや退店するとき…原作の五郎をしっかり守り切ったからこそ、ここまでの人気を得られたのだろう。
「劇映画 孤独のグルメ」ではある依頼を受けて世界を旅することに
そんな愛されるシリーズの新作「劇映画 孤独のグルメ」は、監督を松重、脚本を田口佳宏と松重が務める。五郎を演じている松重本人が監督を務めているのだが、実は松重はもともと監督志望だったそう。現在放送中の「それぞれの孤独のグルメ」でも構想、企画発案を務めていたが、ついにこの度メガホンを取ったというわけだ。
主題歌は日本の大人気ロックバンド「ザ・クロマニヨンズ」の新曲、「空腹と俺」。映画の公式ホームページで公開されてい本予告PVでは、絶海の孤島でたたずんだり、米兵に捕まったり、謎のけいれんに襲われている五郎の姿が…。
物語は五郎がかつての恋人の娘・松尾千秋(杏)から、彼女の祖父である松尾一郎(塩見三省)の「子どもの頃、母親が作ってくれた汁を飲みたい」という願いを叶えたいと依頼を受けるところから始まる。五郎はスープを探すため、フランス・韓国・日本と世界を旅する。
松重によれば、同作はこれまでのシリーズと違ってラブストーリーが主軸になっているとか。「せっかく劇場で見てくださるなら、『とんでもないことになったぞ』という展開が面白い」と、劇場版ならではの仕掛けを施していると明かした。またこれに対して原作・久住から「『松重さん、仕掛けてきたな』って感じです。だから受けて立つ気持ちです」というアンサーが返ってくるというあたりに、ドラマ制作陣と原作チームの固く強い絆を感じられるというものだ。
原作への愛をもとに新たに繰り広げられる“孤独のグルメワールド”はどのような結末を迎えるのか。また12月31日(火)夜10時には、テレ東で「孤独のグルメ2024大晦日スペシャル 太平洋から日本海 五郎、北へ あの人たちの所まで。」と題したSPも放送される。増々注目度が高まる“孤独のグルメ”シリーズの最新作「劇映画 孤独のグルメ」は、2025年1月10日(金)から公開予定。
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