「女優:ボーン・トゥ・シャイン」クセ者だらけ? 台湾の芸能界の光と影、豪華キャストで活写
今年もNetflixでは、「セックスを語るなら」や「次の被害者2」、映画『僕と幽霊が家族になった件』のスピンオフドラマ「正港署」と充実の台湾ドラマが配信された。その締めくくりとなった「女優:ボーン・トゥ・シャイン」は、11月7日に配信開始されるや、台湾の人気チャートで5日連続No.1に輝いた話題作。台湾を代表する豪華キャストが競演し、ショービジネスの世界で“戦う”女優たちを描いた一大群像劇を、ぜひ年末年始にじっくりとご覧いただきたい。
クセ者だらけ、7人の女優たち
物語は、新人女優シー・アイマが所属事務所の社長とオーディション会場へ向かうシーンから始まる。人気女優チョウ・ファンに憧れて業界に入ったアイマは、同棲中の彼氏のサポートを受けながら、アルバイトのかたわら大きな役を手に入れるべく奮闘中。目標は大スターになって“女神”のファンと共演することだ。
しかし、そのチョウ・ファンはいまや業界を干されており、3年間も新作に出演していない。高級ホテルの一室で身を隠すように暮らしているファンは、若いホテルマンのリウマンと出会ったことをきっかけに復帰を考えはじめるが、かつての親友と絶縁状態であることが気にかかっていた。
ファンの元親友シュエ・ヤーチーは、一時はファンと肩を並べる人気女優だったが、映画監督・脚本家のリーと結婚したことをきっかけに引退。今は不妊治療のかたわら、事務所の経営者兼プロデューサーとして懸命に働いていた。名作・話題作を送り出すため、夫の代表作を作るため、所属俳優を売り込むために。
ヤーチーの事務所に所属する“長寿ドラマの女王”クー・リーフェンは、女手ひとつで育ててきた娘TBとの関係がうまくいっていない。監督を目指して海外留学していたTBの脚本を気に入ったヤーチーから、娘の映画に出るよう説得されるが、リーフェンには複雑な思いがあった。
同じく所属女優のニーニーことリン・シンニーは、元ポルノ女優のイメージを払拭し、映画・ドラマ・広告などで活躍中。ところがプライベートでは大の恋愛体質で、ヤーチーの忠告をよそに許されない関係を続けていた。
ニーニーをライバル視する“美魔女”のパン・インインは、美貌を保つため整形を重ね、自分が必要とされなくなる未来に怯える。その恐怖を隠すように高飛車な振る舞いを続けるが、渡米した夫ともひそかに離婚し、精神的には追い詰められつつあった。
インインと同じ事務所の先輩ヨウ・イェンファンは、数々の賞に輝くベテラン女優で、アメリカに住む息子家族とのビデオ通話が日々の楽しみ。ところが目の病ゆえ、今では台本を読むことさえできず、マネージャーのヤモリがいなければ生活もままならない。
物語は7人の女性を中心に、彼女たちが置かれた境遇や、周囲の人々との関係を描いていく。監督・脚本は、女優として長いキャリアを誇り、「台湾版エミー賞」こと金鐘奨にも輝いたイェン・イーウェン。コメディドラマ「おんなの幸せマニュアル~俗女養成記~」シリーズを手がけたのち、本作では女優仲間にも取材して業界のリアルに迫った。
華やかなスター街道の光と影
そもそも芸能界とは、ごく一握りの人間しか成功できない過酷な世界だ。血のにじむような努力をし、理不尽に耐えて、ようやく売れたとしても課題は山のようにある。美しさをキープしろ、つねに演技力を高めろ、スキャンダルを起こすな。そこまでしても、自分の需要がいつまで続くのかは誰にもわからない。月日とともに自分は年齢を重ね、一方では若い新人たちが続々と現れるのである。
まさに生き馬の目を抜くような世界で戦うのだから、彼女たちは当然“クセ者”だらけだ。人々に愛されたい、きちんとした評価を受けたい、ナメられたくない、落ちぶれたくない、時には周囲を蹴落としてでも勝ち上がりたい。けれどもプライベートでは家族や仲間が必要で、決まった誰かを愛したいし、その相手から大切にされたい。ひとりの人間として果たすべき責任もある……。
全12話の前半は、7人の女優とプロデューサーがいかに業界を生き、私生活とのバランスを取っているのか、それぞれの日常をモザイク状に描き出す構成。やがて互いの人格と人間関係がゆるやかに見えてきて、物語のカギである「なぜファンとヤーチーは絶縁したのか?」という謎に迫る。後半は一転し、それぞれの物語がひとつの出来事につながってゆく展開だ。
夢みる新人、落ちぶれたスター、元女優の悩めるプロデューサー、家族の問題を抱えた中堅女優、私生活を優先したい人気者、将来の不安に苛まれる美人、引退が見えてきた大御所。彼女たちの人物像がつねにゆらぎつづけ、ひとつのイメージに固定されないところが本作のおもしろさだ。
手垢のついた言い方をすれば「プライドとエゴがぶつかりあう」物語だが、シリーズを通じてみると、「プライドとエゴ」なるものが、人間の思考と感情のごく一部にすぎないことがわかる。過酷な世界をともに生き抜く人々の間には、優しさや友情、愛情が必然的に生まれるのだ。逆に言えば、人格者だったはずの人物がぞっとするほど恐ろしい行動に出ることもある。
もうひとつ巧みなのは、主要人物7人を異なる年代と立場に設定したことで、女性たちのライフステージやキャリアの苦悩を多面的に描いたことだ。「恋愛」であれ「家族」であれ、置かれた状況が異なれば、それらはまったく違うものとして彼女たちの前に現れる。ひとつのエピソードでそれぞれの葛藤が重なり、ずれていく構造のうまさが光った。
劇中では、とある人物が「いつか女優の禁止事項についての脚本を書いてみたい」と口にする。「太ってもブスになってもだめ、老いや整形、タバコの話はNG、本音や悪態なんてもってのほか」と。いわばこのドラマこそ、そうしたルッキズムやエイジズム、清廉さの罠に向き合った作品なのだ。労働環境の劣悪さや、そこで疲弊していく人々に焦点を当てたところにも、女優・脚本家・監督であるイェン・イーウェンの問題意識が浮き彫りになっている。
豪華キャスト&劇中曲にも注目
出演者には台湾の映画賞・ドラマ賞を受賞する実力者が集結した。プロデューサーのヤーチー役は『先に愛した人』のシェ・インシュエン、落ちぶれたファン役は「華燈初上 -夜を生きる女たち-」のシェリル・ヤン、恋するニーニー役は『本日公休』のアニー・チェン。
ドラマの女王リーフェン役は「悪との距離」のシエ・チョンシュアン、大御所イェンファン役は今年の金馬奨で助演女優賞に輝いたヤン・クイメイ、美魔女インイン役は「ママ、やめて!」のツェン・クンティンが演じた。
ほかにも台湾映画・ドラマのファンならば驚きの顔ぶれが毎回のように登場するなか、衝撃的なインパクトを残すのが新人アイマ役のリン・ティンイーだ。長編映画の経験なし、ドラマ出演2本目という劇中そのままのキャリアながら、キャラクターの驚くべき変化を堂々の演技で表現している。
ちなみに、物語を彩る台湾ポップスの数々にも要注目。11月に日本公演を成功させたばかりの告五人をはじめ、小男孩樂團、壞特(?te)、ANGIE安吉など、今をときめくバンド&アーティストによる楽曲がきっと耳に残るはず。気になった曲があったら、ここから台湾の音楽に触れてみるのもオススメだ。
文/稲垣貴俊
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