本木雅弘、小泉今日子と32年ぶりの共演で元恋人役を演じる「包容力に助けられ、なんとか出来ました」<海の沈黙>
「前略おふくろ様」「北の国から」など数々の名作を手掛けてきた倉本聰氏が原作・脚本を務めた映画「海の沈黙」が11月22日(金)に全国公開される。その公開に先駆け、10月31日に舞台挨拶付き先行上映が行われ、本木雅弘、小泉今日子、中井貴一らが登壇した。
倉本作品に初参加の本木「光栄なお誘いでした」
本作で32年ぶりの共演を果たした本木と小泉が演じるのは、30数年ぶりに再会するかつての恋人同士の役。手を取り合って客席通路からステージに登壇。続いて俳優陣、若松節朗監督、倉本氏も続々と壇上に登壇した。
ある事件を機に人々の前から姿を消した天才画家・津山竜次を演じた本木は「こうして公開に先駆けてお披露目できることをうれしく思います。僕にとって初めての倉本聰作品という光栄なお誘いでしたが、役者として、もがくばかりの日々でした。それでも若松監督、スタッフ、小泉さんや中井さんに救われ包容力に助けられ、なんとか出来ました」と胸を張って挨拶した。
原作・脚本の倉本氏は「やっと完成しました。演技者が素晴らしい。これだけすごい人たちが集まってくれて感激しています。ゆっくりご覧になってください」と観客に語り掛けて「よく完成したなと思った」と感慨もひとしおだった。
世界的な画家であり、小泉演じる田村安奈の夫・田村修三役の石坂浩二とは映画「ラストソング」(1994年)以来約30年ぶりの共演という本木。「約30年前なので僕は20代。そんな距離感だったものが本作では画壇で同期のような役。自分のキャリアでそんな瞬間が来るとは思わなかった。(メークや芝居で)必死に老けました」と振り返ると、石坂は「私も必死に若返ろうとしたのに本木さんはどんどん老けて」と笑わせた。
津山竜次のかつての恋人・田村安奈を演じた小泉は、倉本氏の脚本に触れて「説明的な無駄なセリフがない中で、少ないセリフでどのように情感を乗せればいいのかを考えたり演じたりするのが楽しかった」とにっこり。
「40年来の同志」と語るほど信頼関係が抜群の本木&小泉
小泉を「40年来の同志」と表す本木は「倉本作品というエベレストの頂きを目指すには小泉さんの胸を借りたいという気持ちがあった。そして小泉さんとの共演はこれまで仕事を続けてきた事へのご褒美のようなありがたさがあった」と喜んでいた。
一方の小泉も「変わっていないと言えば変わっていない。16歳からいまだに自己肯定感が低い。いつも悩んで反省ばかり。だからこそこういう役が出来る。私みたいにざっくりしているとできません」と本木の変わらぬストイックさに目を細めていた。
竜次に仕える謎のフィクサー・スイケン役の中井は、倉本氏とはドラマ「波の盆」(1983年日本テレビ系)からの付き合いで「倉本先生から美に対する違和感に対するお話を聞いていたので、ついにそれを映画化する時が来たのかと思った」としみじみ。
一方、美術鑑定の権威・清家役の仲村トオルは「小泉さんとは20年前に夫婦役で共演していて、その時も小泉さんには忘れられない人がいるという設定だった。さらに、現在放送中のドラマ『団地のふたり』では僕が小泉さんの初恋相手なのに、小泉さんはそれを忘れているという設定。なかなか僕らは上手くいかないなあ」とぼやいていた。
文部大臣・桐谷役の佐野史郎は「なぜ私が!と驚いたのが正直なところ。自分は場違いではないかと思ったけれど、脚本を読んで納得しました」とニヤリ。また、倉本伝説の1つとして「一字一句脚本通りに言わせる」というものがまことしやかにささやかれていたが、これを撮影前に直接倉本氏に確認したという本木。
「倉本先生は、それはうわさの独り歩きだとおっしゃって。解釈がずれていなければご自分の感じたようにおやりになればよろしいと言われた」と証言すると、佐野は「しまった~!台本通りに、“てにをは”を間違えずに言ってしまった~」と冗談を飛ばしていた。
倉本氏の実体験エピソードに小泉がうっとり「素敵…」
北海道・小樽のバーに勤め、竜次とスイケンと交流する女性・あざみ役の菅野恵は映画初出演。「倉本先生の映画に出られるチャンスはそうないぞと。『やるか?』と言われて『やります!』と出演させていただきました」と元気はつらつ。
倉本作品2回目の若松監督は「倉本さんには怖い印象があって、シナリオには間だとか音楽の入るタイミングまで書いてある。しかし今回はとても優しい倉本さんでした」と舞台裏を紹介すると、倉本氏は「誤解されていますねえ!僕みたいにこんなに優しい人間はいません」と柔和な表情だった。
さらに、本木と小泉が演じる、30数年ぶりに再会する元恋人同士の物語にちなんで「30数年ぶりに再会した元恋人に会ったら何と声をかけるか?」を聞くと、小泉は「普通に『元気だった?』と聞く」、本木は「あ~...誰?」と意外とドライ。
佐野は「変わらないね」、菅野は「ヤッホー!」、仲村は「声をかけないと思う。会釈くらいかな」、中井は「ゆっくり目をそらすか、ハグするか…」、石坂は「健康について聞いたりするかな」と笑わせた。
そして倉本氏は「越前の方で昔芸者だった人が旅館のおかみになっていて…。僕は忘れていたのだけれど、向こうが両手をついて『おはるかぶりでございました』と言われたときはしびれた。それは時間を距離に変えての言葉で、このような日本語は良いなとゾクッときた」と実体験エピソードを話し、小泉を「素敵...」とうっとりさせ、会場からも拍手が巻き起こっていた。
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