「殺人巨大トマト」や「人喰いジーンズ」…“アイデア勝負”の傑作ホラー、その魅力にせまる
日本最大級のCS映画専門チャンネル「ムービープラス」では、いま最も勢いのある映画制作/配給会社「A24」による新作映画「ボーはおそれている」の公開を記念し、2月13日(火)から18日(日)にかけて衝撃的な展開が魅力のスリラー作品を連夜特集放送。“恐怖のスリラーナイト”と題し、同じく「A24」が手掛けた「X エックス」から、サンダンス映画祭で話題を呼んだ「ハッチング -孵化-」など計6作品がラインアップされている。いずれも怖くて面白い作品だが、ホラー映画の何がそんなに面白いのか、理解できないという方もいるだろう。ホラー映画の雑学を交えながら、その魅力を伝えていきたい。
玉石混交なホラー映画の土壌。多様なジャンルと作品観
まず、ひと口にホラー映画と言ってもそのジャンルは様々だ。日本では“ホラー”が定着する以前は怪奇映画と呼ばれており、怪物や幽霊など非人間的な存在、非現実的な事態・事象などで煽る恐怖が原点にある。古典ホラーでは1931年にアメリカで公開された「魔人ドラキュラ」と「フランケンシュタイン」が有名で、この2作が本格的な長編ホラー映画の先駆けだと言われている。
ホラーに隣接するように、スリラー、スプラッター、サスペンスなどのジャンルがあり、それらが混じり合って現在ではサスペンスホラー、パニックホラー、ホラーコメディー、オカルトホラー、ミステリーホラー、サイコホラー、SFホラーなどジャンルはとんでもない多様化に至っている。例えば「アダムス・ファミリー」は怖いが笑えるホラーコメディー。謎のウィルスの蔓延で人々が凶暴なゾンビと化す韓国発の「新感染 ファイナル・エクスプレス」はパニックホラー。貞子の呪いのビデオで有名な「リング」はホラーサスペンスといった具合だ。
本来は怖がらせることが前提にあるのがホラー映画の定義であると思うが、今は恐い映画であればホラーと打たれる風潮がある。前述した3作はどれも傑作と呼ばれているヒット作だが、こうしたカオスな土壌があることで玉石混交な作品が生まれることになり、古くは「死霊の盆踊り」(1965)のようなオカルトエロチックホラーという超B級ホラー映画が誕生したこともある。
“アイデア勝負”が傑作ホラー誕生の良き温床に
映画を作るには当然予算が必要になるが、大手の映画会社でもなければ潤沢な資金提供は難しいものだ。駆け出しや名もない監督となればなおさらだろう。そこで、ホラー映画は低予算でも何とかなるジャンルとして好まれているようだ。極論、ホラー映画に豪華なセットは必要ない。廃墟や墓地で撮影して雰囲気を演出したり、凝った特殊メイクなどしなくても血のりと泥で試行錯誤する余地がある。つまるところ、あとはアイデア勝負だ。
そうした都合から作られることも多いホラー映画だけに、時には駆け出し監督の低予算作品が公開後に大傑作だと喝采されることがある。その中でもとりわけ有名なのが、1974年、アメリカ・テキサス州のドライブインシアターで公開された「悪魔のいけにえ」になる。ロケ地はテキサスの荒野と一軒家、撮影スタッフは新人やアマチュア学生、起用したのは地元の無名俳優たち。荒くザラザラした画面がドキュメンタリー映画のような臨場感だと評価されたが、それも予算がなく、16mmフィルムでの撮影を映画館の35mmフィルムサイズに拡大したためだという。
祖父の墓参りに帰ってきた5人の若者が殺人鬼一家に襲われ次々に殺されていくという、ストーリーとしては特筆して独創的なことはない。しかし、その映像は、マスクを付けた殺人鬼、正体不明のモノに襲われる恐怖、繰り広げられる惨劇という当時のホラー映画を覆す衝撃的な構造になっていた。今観れば既視感満載の映像と言えるが、それは逆に、本作が現在のホラー映画に多大な影響を与えた原点になっているからに他ならない。
洋画ホラーはモンスター映画を源流としているからか、こうした怪物や殺人鬼などが引き起こす暴力的な直接描写で恐怖感を与えてくるものが数多いが、最近では「リング」のヒットもあり、和風ホラーのように精神的にゾクゾクさせるものも支持を得だしている。 そうした作品ではホラーサスペンスの「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」が有名だが、サンダンス映画祭で上映され世界を驚愕させたフィンランド発イノセント・ホラー「ハッチング -孵化-」も戦慄モノだ。
12才の少女が巨大な卵から孵化させた“それ”は不気味な鳥の姿を経て、やがてある食餌の習性が影響したからなのか、その姿は“親鳥=少女”のように変貌を遂げていき、幸福に見えた家族の仮面を剥ぎ取っていく…。直接的な暴力、スプラッターシーンはないが、日本人的にはこれぞホラーと言った具合で、とにかく精神にくる。完璧主義の母親と娘の関係はどうなっていくのか。この先を観客に委ねる終わり方も、余韻を残す。
ホラーコメディーは怖いの苦手な方向けホラーの入門映画
よく言われることだが、ホラー映画の魅力は“エンターテインメントとしての恐怖”だ。映画館や自宅でくつろぎながら、実際には身に降りかからない非現実的な恐怖を楽しむというものだ。映像の世界に入り込んでいるので観ているときは恐怖心でいっぱいだが、エンディングを迎えればスリルを体験したあとの爽快感、解放感が気持ちをデトックスしてくれる。心臓に悪いと例えられるホラー映画だが、実は精神的にはとてもいい一面もあるものなのだ。しかし、どうしても恐いのは苦手…という人もいるだろう。そんな人にはホラー映画の中でもコメディー系がお勧めだ。
あくまで笑いを取り入れるための意図的な計算だが、ホラーであるものの怖さよりもくだらなさやおかしさが勝ってしまうのがコメディー系の特徴だ。例えば“恐怖のスリラーナイト”にラインナップされている「ザ・スイッチ」は、あることが原因で連続殺人鬼と体が入れ替わってしまった女子高生が、友人たちと元の体を取り戻すために奮闘するというコメディーもの。中身は女子高生ということで、中年殺人鬼が見せる仕草や動きが絶妙に可愛らしく、スリルとコメディーのブレンドが抜群と言っていい。ある種スラップスティックのようでもあり、これは俳優の演技力の勝利だろう。
また、自我を持った人喰いジーンズがアパレルショップの店員を次々と襲っていく「キラー・ジーンズ」は単純明快で分かりやすいB級ホラー。残酷シーンはあるものの、ジーンズが繰り出す見事な殺人技が見どころだ。突拍子もない設定だが、実は殺人ジーンズには悲しい誕生秘話がある社会派作品でもあったりする。
ちなみにこれが超B級となると、計算も何もない作品が放たれることもある。前述した「死霊の盆踊り」はその代表格で、“映画史に残るサイテーホラー”と謳われるほどネタ化した有名作。もはや解説すらバカバカしいので「あなたは何人まで耐えられますか?」とだけ書いておきたい。この「死霊の盆踊り」は類を見ない破壊的ホラーだが、全米に出現した人を襲う巨大なトマトと米軍が戦いを繰り広げる「アタック・オブ・ザ・キラー・トマト」も推しておきたい超B級ホラー作品だ。街中を巨大トマトがころころ転がり移動して、銃も効かないトマトに人々はなすすべなく殺されていく。いや、その光景自体は確かにホラーなのだが…。
おそらくハリウッドの期待の大作がとんだ駄作だったら「チケット代の無駄」と酷評されるはずだ。しかし、ホラー映画の場合、チープ感さえ期待して観てしまうのがファンの器量というものだ。ツッコミながら観るのが楽しくて、どんな作品でも「掘り出し物を観た」と納得してしまうのがホラー映画の文化というものなのだ。
なお、「ムービープラス」 “恐怖のスリラーナイト”では、新鋭「A24」が手がけた「X エックス」もラインナップされている。史上最高齢の殺人鬼と謳われる老婆が話題になり、カルト的な人気を博したスリルホラーだ。不気味すぎる映像には、目を背けたくても釘付けにされてしまう魔力を感じられるだろう。
◆文/鈴木康道
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