

「ミッドサマー」「LAMB/ラム」…近年のヒット作の裏には“A24” ハマる人が続出する理由とは

「ムーンライト」「ミッドサマー」「LAMB/ラム」など、近年ヒットする映画を続々と生み出している“A24”。アメリカを拠点に映画やテレビ番組の製作、出資、配給を専門としている製作・配給会社だ。2012年の設立からたった5年で、ほぼ無名だった監督・俳優陣で製作された「ムーンライト」でアカデミー賞を受賞。日本でも映画ファンはもちろん、アートやカルチャーなど、さまざまな分野で急速にファンを増やしてきた。そんな“A24”とは一体誰が設立したのか、多くの人がハマる理由は何か、映画ライターで自身もA24の大ファンというSYOさんにその秘密や魅力を聞いた。
設立からわずか5年でアカデミー賞を受賞
ーーA24は、どんな人たちが設立したのでしょうか。
もともとアメリカの映画業界で働いていた3人、ダニエル・カッツ、デヴィッド・フェンケル、ジョン・ホッジスが、設立しました(ジョン・ホッジスは2018年に退社)。2012年に配給会社を専門にする企業として始まり、その後映画製作やテレビ番組の製作も手掛け、今年で10周年を迎えます。
当初はインディペンデント系の作品が多くて、日本でもミニシアターでヒットする作品が多かったです。A24はインタビューを全然受けないことでも有名で、謎多き企業でもありますね。
ーーたった10年で、これだけファンが増えていったことに驚きます。A24の知名度が上がるきっかけになったのは何でしょうか。
2017年にアカデミー賞を受賞した「ムーンライト」(2016年)だと思います。その前から「ルーム」(2015年)という作品や、「エイミー」(2015年)というドキュメンタリーで、アカデミー賞主演女優賞や長編ドキュメンタリー賞を一気に獲得。じわじわ知名度が高まっていて、「ムーンライト」で多くの人が注目するようになりました。
日本でも「ムーンライト」、「ヘレディタリー/継承」(2018年)と、徐々に認知度が上がっていって、大きな話題になったのは「ミッドサマー」(2019年)だと思います。
扱う作品がおもしろくて、固定ファンがついてくるという流れは、“サーチライト・ピクチャーズ”が話題になった時と似ているかもしれません。サーチライト・ピクチャーズは20世紀フォックス(現在の20世紀スタジオ)のアートやインディーズ系ラインで、「シェイプ・オブ・ウォーター」や「スリー・ビルボード」などを手掛けています。
当時も「サーチライトがやるんだったら外さない」という感覚が映画ファンの中にありましたが、それと同じく「A24だったら外さない」という感覚があるように思います。
A24は例えるなら“セレクトショップ”
ーー映画といえばハリウッドのイメージですが、A24はニューヨークで設立していますね。
そういう意味では少し異端ではありますよね。そもそも最初は配給から始まっていることも大きいのかもしれません。あとはテレビCMをほとんど打たないのも特徴。宣伝はWebに特化していて、若い世代のファンをつかんだという部分もあると思います。
また自社ブランドのグッズもたくさん作っていて、ファッションブランドみたいな感覚で楽しめるのも人気の要因ではないでしょうか。仕事柄、さまざまな業種の人に話を聞きますが、映画好きはもちろん、デザイナーやミュージシャンなど、アートやデザインが好きな人たちにもA24の認知度が広がっている印象を受けます。普段そんなに映画を見ない人でも、A24は見るという人はかなり多いですね。
A24のラインナップは非常に多岐にわたっています。ホラーが強いとか、エッジの効いた作品が多いという特徴はありますが、どんな方にも、おもしろい作品は見つかると思います。
ーー映画界の中で、A24の特徴はどんなところにあると思いますか?
実績がそこまでなくても、おもしろい作品を作る若手クリエイターを映画祭などで見つけてくるところ。そして、その監督と複数作品で組みながら、監督を育てていくところです。例えば、「ミッドサマー」「ヘレディタリー/継承」の監督アリ・アスターもそうですし、「ウィッチ」(2015年)、「ライトハウス」(2019年)の監督ロバート・エガースや、9月に公開した「LAMB/ラム」の監督ヴァルディミール・ヨハンソンもそう。だからA24の作品は、個性の強い、他では見られないものが見られます。
また、扱うのは若手の監督だけではありません。有名になった方や大御所とも組んで、他のレーベルではできないような尖った作品を作っています。例えば、「ブラック・スワン」(2010年)の監督ダーレン・アロノフスキーの新作「The Whale(原題)」(2022年)も、A24がタッグを組んでやりますし、「タクシードライバー」(1976年)の脚本を書いたポール・シュレイダーは、A24が全米配給権を獲得した「魂のゆくえ」(2017年)で監督と脚本を務めました。若手も大御所も扱っていて、かつクリエイターの個性が立ってるところは、A24の大きな特徴だと思います。
A24の新作なら、監督も俳優も、ストーリーもよくわからなくても見たくなるんですよね。作品選びのセンスが評価されているんだと思います。A24は例えるなら、ヴィンテージも最新のものも取り揃えたセンスのいいセレクトショップ。そこで働いている店員に「これ、おもしろいから見てみろよ」って言われたら、審美眼を信頼しているからきっと見ると思うんです。自分が全く知らなかったクリエイターとの出会いを作ってくれる存在です。
得体の知れないものを見て、未知の感情に支配される豊かさ
ーーA24が北米配給権を獲得して話題になった「LAMB/ラム」ですが、セリフや音楽が控えめで、改めて総合芸術としての映画のおもしろさを感じました。SYOさんは、ご覧になってどうでしたか?
絵画的な、一枚の絵として成立すればいいというおもしろさや美しさを感じました。監督に取材した時もおっしゃっていたのですが、最近、情報がたくさん盛り込まれた作品って、すごく増えていると思うんですね。音楽や台詞、演出などをとにかく入れていって、お客さんが想像する余白を残さない。それはエンタメとして、もちろん間違いでも悪いことでもありません。ただ、そういうのに疲れてしまった人や、自分自身が想像する楽しみを求める人にとっては「LAMB/ラム」はすごく気持ちがいい作品でした。
僕自身ライターではありますが、映画って言語化できないものを表現するためのものだとも思うので、それを言葉で表してしまうところにもったいなさを感じていて、最近はとくに何も考えずに見てるんです。「LAMB/ラム」はそれを許してくれるような作品だったというか、「こっちにおいでよ」と言ってくれるような作品でした。
ーー「LAMB/ラム」の見どころは。
得体の知れないものを見に行って、自分が感じたことのない感情に支配されるところだと思います。A24のすごさでもありますが、話の筋はすごくシンプル。人里離れた山奥に暮らしてる夫婦が、得体の知れない子どもを授かって育てていく。ただそれだけの話なんですけど、予想を超えた感情が自分の内からせり上がってくる。
「LAMB/ラム」自体は、いろんな考察があるそうなんです。羊の耳についているプレートの番号の意味や、神話的な意味合いなど、いろんな楽しみ方ができるポイントがちりばめられています。でも、そういうことは気になったら調べればよくて、ラストシーンはどういうことだったんだろうとか、夫婦が授かった“アダ”ちゃんはどこから来たんだろうとか、妄想すること自体が楽しいですから。特に何も考えずに作品を見て、うまく言語化できないけどすごいものを見てしまったという感覚を味わってほしいです。そういう感覚って、映画以外ではなかなか難しいと思うので。
今これだけコンテンツが溢れていて、自分が見たいものをピックアップできる環境の中で、自分が想像もしないところに飛び込まされることってほとんどないと思うんです。嫌悪感を抱くかもしれない、理解できないかもしれない、でもそれって豊かなことじゃないのかなと。「LAMB/ラム」には「LAMB/ラム」でしか得られないであろう、作品に対する自分の反応や反射があるので、そこが見どころかなと思います。
ーー今後楽しみにしている作品はありますか?
アリ・アスターの次の作品「Disappointment Blvd.(原題)」は、ホアキン・フェニックスが主役なので、それはすごく楽しみにしているものの一つです。ダーレン・アロノフスキー監督の、「The Whale」も前々から見たかったですし、A24史上最もヒットしたといわれている作品「EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE(原題)」が、日本で2023年に公開を控えています。A24の新作は全部楽しみです(笑)。
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