お得なモーニング、小倉トーストもあるけど…支出額全国1位、名古屋人が「喫茶店」を愛する意外な理由
名古屋市は喫茶店支出額で全国1位! モーニングサービスや小倉トーストを目当てに近年は観光客も増えていますが、名古屋の喫茶店文化を支えているのは地元の常連たち。名古屋人が喫茶店を愛する背景には意外な歴史・文化があった……? ※画像:筆者撮影
名古屋市は喫茶店代の支出額が全国1位。喫茶店の件数も国内トップクラスで、その背景には不動産相場の低さや倹約志向があるといわれています。
しかし、名古屋の歴史や文化を深掘りしていくと、名古屋人の喫茶店好きの根底には、“意外な理由”があるとも推察できるのです。
名古屋は全国一、喫茶店でお金を使う町
名古屋といえば喫茶店。こんなイメージは全国に広く知られているのではないでしょうか?
コーヒー代だけでトーストやゆで卵が無料でついてくるモーニングサービス。これまた無料でついてくるピーナッツなどのおつまみ。小倉トーストや鉄板スパゲティなどの喫茶店発祥のご当地グルメ。
これら地域特有のサービスやメニューがある上に店の数も多く、町中を歩いているとそこかしこに喫茶店が見つかります。
2026年2月に発表された総務省「家計調査」2025年分では、名古屋市が喫茶店支出額で堂々全国1位に。年間2万円以上で、1杯500円として月に3杯以上喫茶店でコーヒーを飲んでいる計算になります。
ただし、このランキングでは名古屋市は不動のトップではなく、隣県の岐阜市や、最近では東京23区も強力なライバルで、1位返り咲きは久しぶり。それでも名古屋市がトップ3から落ちることはほぼなく、安定的に“喫茶店をよく利用する”町であり続けています。
【総務省『家計調査』 喫茶代(2人以上の世帯・都道府県庁所在地市別・2025年分)】
1位:名古屋市(2万276円)
2位:東京都区部(1万8823円)
3位:岐阜市(1万5355円)
全国平均1万1823円
名古屋の喫茶店業界の反応は?
今回の結果を当事者はどう受け止めているのでしょうか?
「そんなに景気がいいとも思えんで意外な気もするけど、まぁ悪い気はせんね」とは、愛知県喫茶飲食生活衛生同業組合理事長の舟橋左門さん。
自身の店「カフェさんぱうろ」(名古屋市中区)では、朝昼ともに決まった席で決まったメニューを注文する常連に支えられているといいます。
「去年の10月にコーヒーを30円値上げして480円にしたんだけど、皆さん変わらず来てくれて、ありがたいことに影響はないですね」(舟橋さん)
一方で近年は県外や海外からの旅行者も少なくないそう。
「名古屋城が近いし周りにホテルも多いもんで、モーニングを食べに来てくれる観光客が多い。観光の方はほとんどがあんトースト(小倉トースト)を注文するね。うちみたいな喫茶店に観光客が来るなんて昔はほとんどなかったこと。“名古屋=喫茶店”が観光の目的になるということだからありがたいね」と舟橋さん。

観光客の増加は今回のテーマである名古屋市民の喫茶店支出額を左右するものではありませんが、近年の観光のトレンドはその土地のリアルな日常の体験ですから、市民の普段の利用の多さが観光客の期待値の高まりにもつながっていると考えられます。
あの全国チェーンも名古屋では“いつもの喫茶店”利用が中心
「名古屋を中心とした中京地区では注文数におけるドリンクの構成比が高いです。そのため、スナック、デザートの注文が多い東日本、西日本と比べて、中京地区では“いつもの喫茶店”としてご利用する方が多いと感じます」とはコメダの広報担当者。
ご存じコメダ珈琲店は名古屋発祥の喫茶店チェーン。今や全国に約1200店舗(2026年4月末現在)と、セルフ式ではないフルサービス式の喫茶店としてはダントツで日本一の店舗数を誇ります。
創業地・名古屋とその周辺は店の数も多く、愛知県内に200店舗以上を出店。なじみのチェーン店が身近にあることも、名古屋市民が喫茶店でお金を使う機会を増やしているといえるでしょう。

原価高騰の折、コメダでも昨年一部商品の値上げを行いましたが、コメダブレンドとコーヒーチケットの価格は、一部の店舗が価格を据え置いたそう。
これも名古屋の喫茶店文化の中で育まれてきた“いつもの”安心感を守ろうという思いの表れといえるのかもしれません。
おかげで値上げにもかかわらず客離れは起こらず、昨年度の業績は過去最高益を記録しました。地元・名古屋での喫茶店支出額の多さも、この好業績を支えている要因の1つであることは間違いないでしょう。

このように個人店でも大手チェーンでも、毎日のように利用する常連客が店の経営を安定させ、店側もそれに応えるべく変わらない安心感を守ろうとする、そんな客と店との関係性が名古屋人の喫茶店好き、そして今回の支出額1位につながっているといえそうです。

名古屋に喫茶店が多い理由とは?
名古屋は喫茶店の軒数や、店舗当たりの人口でも国内トップクラス。愛知県(県庁所在地は名古屋市)の喫茶店数は6171軒で、大阪府6758軒に次いで47都道府県中2位。
1店舗当たりの人口でも1220人につき1軒と全国4位につけています(2021年、総務省経済センサス活動調査)。
名古屋に喫茶店が多いのは、不動産相場の低さや倹約志向が理由というのが定説として広く流布されてきました。
喫茶店の開業ラッシュだった1960~70年代、名古屋は他の都市と比べて不動産相場が低く個人でも町中に出店しやすかった、そして企業は社内に応接室を構えるのをもったいないと考え、近所の喫茶店を応接室替わりに利用するためたくさんの店が必要とされ、またその経営も成り立った……というのです。
モーニングサービスについては、名古屋人の実利主義が根底にあるとも。客がお得な無料サービスを求めるため店は利益を削ってでもおまけをつけざるを得ない……そんな説もまことしやかにささやかれてきました。
名古屋人の喫茶店好きの背景に茶の湯の文化?
しかし、名古屋の歴史や文化を深掘りしていくと、名古屋人の喫茶店好きの根底には、江戸時代から育まれてきた「茶の湯の文化」があるのではないか、とも推察されます。
名古屋=尾張では歴代藩主が茶の湯に熱心で、それが下級武士、さらには町人にまで広く伝わりました。加えて自然環境に恵まれて農業の生産性も高く、庶民の暮らしにも比較的ゆとりがありました。
そのため、お茶を飲みながらひと休みしたり会話を楽しんだりする“いっぷく”の習慣が古くから根づいていたと伝えられます。
茶道の流派も数多くあり、現在にいたるまで茶道熱の高い土地柄です。このような伝統や文化を裏づけるように、昭和初期の文献には「名古屋ほど茶道が浸透している土地は他にない」という趣旨の文章が残されています。

こうした歴史、文化に鑑みると、名古屋人の喫茶店好きの根底には江戸時代から連綿と育まれてきた茶の湯の心がある、そんなふうにも考えられるのではないでしょうか。
もちろん1つの仮説ではありますが、地域の歴史文化が背景にあると思うと、名古屋の喫茶店ですごすひとときがとても文化的で豊かな時間のような気がしてきます。
いっぷくの精神を大切にしながら味わうコーヒーの一杯一杯が、全国一の喫茶店支出額にもつながっていると考えられるのです。
名古屋の人が大切にしてきた“いっぷく”に思いをはせながら、喫茶店のコーヒーを味わい、空間と時間をゆったりと楽しんでみてはいかがでしょうか。
愛知県常滑市出身。大学卒業後、名古屋の出版社に勤務し、その後フリーライターとして独立。雑誌や新聞、Webメディアなどに名古屋の情報を発信する。著書は『間違いだらけの名古屋めし』(ベストセラーズ)『名古屋の喫茶店 完全版』(リベラル社)など多数。
執筆者:大竹 敏之(名古屋ガイド)
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