江戸の寿司ブームの火付け役に! 愛知県半田市生まれの発酵調味料・酢をひもとく旅

2025.06.25 20:35
提供:All About

江戸時代、江戸の消費の約3割を担ったという知多半島の日本酒。その副産物・酒粕を用いて半田で作られた粕酢は、江戸の寿司ブームの火付け役になりました。日本を代表する発酵調味料・酢の生誕地へ赴き、その歴史や製法を学んできました。※画像:筆者撮影

江戸時代初期、愛知県知多半島には半田や亀崎を中心に200軒以上の酒蔵があり、酒造りが盛んに行われていました。原料の米が豊富だったことに加え、三方を海に囲まれ、知多湾から入り込む半田運河や亀崎港を通じて海運業が発展。江戸へ弁才船で大量に運んでいたからです。

やがて酒造りの副産物・酒粕から醸す「粕酢」がこの地で生まれました。粕酢は赤酢とも呼ばれ、酒と共に江戸に運ばれると、握り寿司の調味料として定着。江戸の握り寿司ブームをけん引したと言われています。

半田運河
半田運河



江戸へ弁才船で運ばれた半田の日本酒。副産物から生まれた「粕酢」の故郷へ

名古屋からJR東海道本線大府駅でJR武豊線に乗り換えて約50分(朝夕は直通運転あり)、半田駅から5分ほど歩くと、両岸に黒板囲いの蔵造りの建物や豪商の邸宅が立ち並ぶ「半田運河」に出ます。

江戸時代、この運河を荷物を積んだ船が往来した様子を想像しながら散策するうち、粕酢の生誕地に到着します。

「MIZKAN MUSEUM」
「MIZKAN MUSEUM」


それが日本を代表する食品メーカー「ミツカングループ」の本社のある場所。文化元年(1804)創業の半田の酒造家・初代中野又左衛門が、酒粕から酢をつくることに成功。やがて江戸で出会った半熟れずし(握り寿司の前身)にこの粕酢が合うと確信し、本格的な酢づくりを始めたことがミツカンの原点となりました。

本社横には体験型企業ミュージアム「MIZKAN MUSEUM」が併設。日本酒、みそ、しょうゆ、ビール、ワインといった醸造・発酵品を紹介するミュージアムは国内に数あれど、酢について深く学べるスポットは大変珍しいので事前予約の上、訪れました。

展示鑑賞の合間に中庭の水盤を見て癒される
展示鑑賞の合間に中庭の水盤を見て癒される



ガイドの案内付き「全館コース」で、発酵調味料・酢についてひもとく

かつて工場のあった場所に、運河の風情ある景観に溶け込むように立つ建物群。エントランス棟は昔の意匠を踏襲した瓦葺きの建物で、黒壁やレンガの壁など昔の建物の一部を再現した棟もあります。

館内は5つのゾーンに分かれ、全てを巡れる「全館コース」と、2つのゾーンを自由見学できる「ミニコース」のいずれかを選べますが、せっかくなので、一部のゾーンをガイドが同行する全館コースを予約しました。

まずは、昔の建屋の古材が骨組みに使われる「大地の蔵」からスタート。かつて使用された木桶や樽(たる)、鉄釜を用いた人の手による酢づくりを解説。現在の醸造の様子を見学することもできます。2024年に新設された体験コーナーでは、バーチャルで酢をつくるアトラクションを体験できます。

「大地の蔵」の昔の酢づくりから、第一工程・粕熟成の展示
「大地の蔵」の昔の酢づくりから、第一工程・粕熟成の展示


江戸時代から続く伝統製法「静置発酵」の様子を紹介
江戸時代から続く伝統製法「静置発酵」の様子を紹介


「大地の蔵」に2024年に登場した体験型アトラクション
「大地の蔵」に2024年に登場した体験型アトラクション


「風の回廊」では、明治から昭和初期の半田の様子を映した懐かしい写真展示や、山車まつりに登場する10地区31組の法被のデザインをモチーフにしたのれんを眺めることで、半田の風土や文化を知ることができます。最奥の窓からは半田運河を望み、在りし日に思いを馳せることも。

10地区31組の法被のデザインをモチーフにしたのれんが並ぶ「風の回廊」
10地区31組の法被のデザインをモチーフにしたのれんが並ぶ「風の回廊」



次に向かう「時の蔵」と「水のシアター」はガイド付きでの案内。時の蔵の扉が開くと圧倒されるのが、江戸時代に活躍していた長さ約20mの「弁才船」の実物大レプリカ。実際に乗り込み、半田から江戸へと酢を運ぶ航海を体感できます。

「時の蔵」の弁才船と年表展示
「時の蔵」の弁才船と年表展示


同時に200年以上にわたるミツカンの歴史を当時の時代背景とともに年表でひもとくことも。

ミツカンの四代目が手がけた牛乳事業の一貫、駅前のミルクホールで使用されていた食器
ミツカンの四代目が手がけた牛乳事業の一貫、駅前のミルクホールで使用されていた食器


「水のシアター」では、日本の四季の自然や営みとともにある、食材や料理を映像と音で表現。季節の風や香りが匂い立つような1本の映画を観ているようで、心が洗われました。

最後に「光の庭」ではオリジナルラベルの「味ぽん」が作れたり(1本200円)、食の未来を学べるアトラクションやクイズコーナーに挑戦したりと、子連れでも楽しめるブースがいっぱい。

体験型アトラクションを通じて食について学べる「光の庭」
体験型アトラクションを通じて食について学べる「光の庭」


寿司の食品サンプルが1000貫以上ずらりと並ぶ「すし大陸」は、好きなネタにズームして映え写真が撮れるのが楽しい!

「光の庭」の「すし大陸」という作品。本物そっくりのネタがずらりと並び圧巻!
「光の庭」の「すし大陸」という作品。本物そっくりのネタがずらりと並び圧巻!



ミュージアムショップでは、限定グッズをおみやげに

帰りにはミュージアムショップで限定グッズの買い物を。創業当時の粕酢を再現した「純酒粕酢 三ツ判山吹」の原液をさらに3年寝かせた「千夜」はここだけの数量限定商品。まろやかでコクのある熟成した酢は、ぜひ寿司飯で違いを味わってみて。

「山吹」を3年間熟成した「千夜」
「山吹」を3年間熟成した「千夜」


ほかにもオリジナルトートバッグやおすし缶バッジ、味ぽんストラップ、ミツカンの商品デザインをモチーフにした缶マグネットなど、友人へのお土産に喜ばれそうなグッズがそろっています。

建物をデザインした、MIMトートバッグ(大)
建物をデザインした、MIMトートバッグ(大)


好みのネタを選びたい!
好みのネタを選びたい! 寿司マグネット


「MIZKAN MUSEUM」(MIM)
・住所:愛知県半田市中村町2-6
・TEL:0569-24-5111
・営業時間:9:30~17:00(最終受付15:15)※予約制(滞在可能時間120分)
・休館日:木曜、年末年始、お盆期間 ※臨時休館あり
・入場料:【全館コース】大人500円、中高生300円、小学生200円、乳幼児無料、【ミニコース】大人300円、中高生200円、小学生100円、乳幼児無料

大人の社会科見学の後は、運河周辺でビネガードリンクで一息

「MIZKAN MUSEUM」の正面玄関前には、ミツカンの粕酢を使用したオリジナルビネガードリンクが味わえるカフェ「リトリートキッチン」があるので、乾いた喉を潤して。

ドリンクメニューのほか、ミツカンの商品を用いたパスタも人気の「リトリートキッチン」
ドリンクメニューのほか、ミツカンの商品を用いたパスタも人気の「リトリートキッチン」


3種類ある中、ミツカンの「純酒粕酢 三ツ判山吹」を用いた自家製パイナップルシロップの水素水割り「完熟パイン」と、ブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリーとミツカンの「純リンゴ酢」で作る自家製シロップの水素水割り「3種のベリー」をいただきました(この日は、マンゴーと「千夜」で作る「濃厚マンゴー」はあいにく完売)。

右/完熟パイン、左/3種のべリー 
右/完熟パイン、左/3種のべリー 


完熟パインは甘さ控えめ、爽やかな酸味で後味サッパリ。一方、3種のベリーは甘酸っぱい風味に疲れが吹き飛びました。いずれも漬け込んだフルーツがゴロゴロ入っていて、酢とフルーツの相性のよさを実感しました。

「リトリートキッチン」
・住所:愛知県半田市中村町2-12
・TEL:070-9042-0369
・営業時間:10:00~17:00
・定休日:月曜

運河周辺には、江戸末期~昭和初期に建てられた国指定重要文化財の「小栗家住宅」のような歴史的建造物も点在。その一角「_unga」(スペースウンガ)ではミツカンの商品のほか、日本酒、しょうゆやみそなど、地元の醸造品をそろえているので、こちらもチェック!

国指定重要文化財の小栗家住宅
国指定重要文化財の小栗家住宅


「_unga」(スペースウンガ)
・住所:愛知県半田市中村町1-40(国指定重要文化財小栗家住宅内)
・TEL:なし
・営業時間:10:00~16:00
・定休日:年末年始

運河を有する地形ゆえに、ここ半田で生まれた「酢」の歴史と、酢と寿司との意外な関係、現代の楽しみ方まで、駆け足で辿った日帰り旅は知的好奇心を充分に満たしてくれました。次回はぜひ、半田生まれのその他の発酵・醸造品にも迫ってみたいです。

7月13日(日)まで、愛知・岐阜・三重の東海三県では「発酵ツーリズム東海(うまみの聖地巡礼)」を開催中。愛知県は半田市を拠点に、MIZKAN MUSEUMの企画展「すしの千年を巡る旅」の開催や「発酵マルシェ」(7月5日・6日開催)、醸造体験などのプログラムが目白押し! この機会に、幅広く奥深い、東海の発酵文化を深堀りしてみて!

MIMの企画展「すしの千年を巡る旅」の展示。江戸時代の「半熟れ」の解説
MIMの企画展「すしの千年を巡る旅」の展示。江戸時代の「半熟れ」の解説


MIMの企画展「すしの千年を巡る旅」の展示。いずしの解説
MIMの企画展「すしの千年を巡る旅」の展示。いずしの解説



執筆者:塩田 典子(一人旅ガイド)

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