「ワッフル」のトポロジー 私の岡山ソウルスイーツ《プラグマガジン編集長のローカルトライブ!》

2026.01.16 12:30
提供:繊研plus

岡山には数多くの郷土菓子がありますが、私が週に一度くらいの頻度で食べているのが、岡山を中心に店舗展開する洋菓子店「白十字」の看板商品のワッフルです。ふわふわでもっちりとした生地に、深い味わいのカスタード。派手さはありませんが、食べるたびに口中が幸福感で満たされる、1957年から続くロングセラーです。今回は、私がほれ込むワッフルを、地域のカルチャーへ引き上げようとかじを切った白十字を紹介します。

洋菓子の越境

白十字(岡山市)の二木正芳社長は、岡山でも指折りのファッションアディクト。現在の白十字を見れば、その感覚が経営の深層まで持ち込まれていることが分かります。

昨秋リニューアルした白十字本館

岡山一番街店をはじめ、複数の店舗でユナイテッドアローズが監修した制服を導入し、店内で流れる音楽は岡山出身の気鋭のサウンドクリエイターによるもの。空間、音、スタッフのたたずまいにまで漂うファッションの感覚は、二木氏ならではと言えるでしょう。

岡山一番街店では焼きたてが購入できる

そんな二木社長が「白十字=ワッフル」から「岡山=ワッフル」へ視座を引き上げたきっかけは、沖縄で目にしたオリオンビールのTシャツでした。「訪れる度に、着ている人が増えているように感じます。ビールを飲めない子供まで着ていて、〝沖縄=オリオン〟が成立している。これを岡山で起こしたいと思いました」

準備しているのは、ワッフルをモチーフにしたアクセサリーやマグカップ、クッション、キャップといったライフスタイル雑貨。これは、お菓子を食べられない人やアレルギーのある人でも、ワッフルを〝身近に感じてもらえる〟状態を作るためでもあると言います。

岡山一番街店で販売するワッフルステッカー

「お菓子屋ですが、すべての消費体験が競合。アパレルにもライバル心があります」と二木社長。重要なのは、これが〝余力の遊び〟ではないこと。原材料費などが高騰し、世界情勢の影響も受けるなかで、菓子だけに売り上げを依存する前提は揺らぎつつあります。本業を守るために、あえて外へ出る。白十字の越境は、感度の高い社長の趣味ではなく、極めて現実的な経営判断でもあるのです。

オリジンを鍛える

白十字の現在の動きは、いきなり始まったものではありません。その前段として、ワッフルそのものと正面から向き合う時間がありました。日持ちや衛生面を優先して製法を変えた際、長年のファンから「なぜ変えたのか」「前の方が良かった」という厳しい声が多数届いたと言います。

その反省から、製法を原点へ戻す決断をしました。ただし、元通りにするのではありません。新しい設備や技術は積極的に取り入れつつ、材料や工程を徹底的に見直しました。結果として生まれた現在のワッフルは、「原点回帰」でありながら「原点突破」とも言える完成度に仕上がっています。

菓子から、記憶、装い、都市イメージへと位相を変化させていくには、強い土台が必要です。その意味では、ワッフルと向き合い直した時間が、現在の取り組みを内側から支えていると言えるかも知れません。白十字のワッフルをめぐる動きは、老舗企業が強い商品を起点に、ファッションの力でIP(知的財産)を拡張していく可能性を感じさせます。

このワッフルは添加物を極力使わず、食感と風味を優先している製法上どうしても日持ちがしません。その結果、基本的に岡山でしか味わえないものとなっています。ぜひ、岡山を訪れた際はご賞味ください。

山本佑輔(やまもと・ゆうすけ) 04年に創刊した岡山県発のファッション・カルチャー誌『プラグマガジン』編集長。プラグナイトやオカヤマアワードといった地方発のイベントや企画もディレクションしている。24年度グッドデザイン賞で雑誌として史上初めての金賞(経済産業大臣賞)を受賞。通り名はYAMAMON(やまもん)。https://lit.link/yamamon

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