転職、昇進――周りと比べて焦る春。新生活を“迎えない”人が落ち込まなくていい理由

転職、昇進――周りと比べて焦る春。新生活を“迎えない”人が落ち込まなくていい理由

2025.05.09 20:20

■変わらない春に

桜が咲く頃になると、受信ボックスに「退職のご挨拶」メールが舞い込んでくるようになる。

年度末のあわただしさに紛れて、かつて仕事で接点のあった誰かが人生のターニングポイントをさりげなく打ち明けてくる。転職、独立、起業、海外、充電期間――。

文面には定型文で「非常に名残惜しく……」と書いてあるけれど、画面の奥には、今よりも広くて自由な世界に向かう決意がちらついていて、少しまぶしい。

SNSでもさまざまな報告が並び、みんなが次のチャプターへ進んでいくなかで、自分には何も「ご報告」するようなことが無いのだなと気づいてしまう。変わらなかった人間の春は、妙に静かで、ちょっと肩が冷える。

変化がないという現実は、ときに思いのほか大きな孤独感や焦りを連れてくる。誰かが新しいステージに立つ姿を見るたび、自分だけ取り残されているような錯覚に陥ることがある。

人生の更新ボタンを押し忘れているのは私だけなんじゃないか――そんなふうに思ってしまう瞬間が、春にはたびたび訪れる。

■「常に成長し続けなければならない」という固定観念

けれど、ここ数年で少しずつ考え方が変わってきた。

社会人になったばかりの頃は、「変化」こそが成長だと信じて疑わなかった。目に見える成果、わかりやすい昇進や評価、新天地へのチャレンジ。そういったものを持っている人が「前に進んでいる人」だと、単純に思っていた。

でも今は、大きな目標に向かって駆け込むよりも、目の前の小さなハードルをひとつずつ丁寧に越えていくほうが、ずっと難しくて価値があるんじゃないかと感じている。

それに「常に成長し続けなければならない」という焦りも、よくよく考えてみれば、どこか不自然なプレッシャーだったように思う。

無理をしないで立ち止まること、自分の持ち場を淡々と守ること、昨日と変わらない仕事をきちんとやること。そういう静かな積み重ねのなかにも、確かな成熟はあるはずなのに。

■アラサーになって自分の“持ち前のタイプ”を実感した

このことに気づいたのは、自分に合った働き方をようやく理解できるようになってきたからだ。

職場には、無理をし続けた方がモチベーションが上がる人もいれば、一度火がつくと数カ月の激務を走りきれるような人もいる。そんな働き方をする同期や先輩たちに憧れて、自分をそういう枠に当てはめようとした時期もあった。

でも、28歳を過ぎた頃から、ちょっとした無理がすぐに体調やメンタルの波に響くようになってきた。頑張る方向を見誤ると、自分がすり減っていくだけという当たり前のことを、ようやく体で理解したのだ。それから徐々に、仕事の達成感よりも、日々のコンディションを整えることに意識が向くようになり、自分の“持ち前のタイプ”を認めざるを得なくなった。

■働き方は個性。得意なことはみんな違う

働き方って、ポケモンのタイプみたいなものだと思う。

私は攻撃技が得意で燃え続けられる“ほのおタイプ”でもないし、長時間戦い抜けるスタミナ型の“かくとうタイプ”でもない。ましてや、一撃必殺みたいな飛び道具を持った“エスパータイプ”のような才能型でもない。

多分、私は“くさタイプ”か“ノーマルタイプ”だろう。激務モードは5日が限界だし、環境の変化には弱い。目の覚めるような攻撃よりも、少し地味に見える防御や補助が得意。そんな自分を少しずつ肯定できるようになってきて、心の底から「まあいいじゃん」と思えるようになったのが今日このごろ。

人によって、得意な技や特性は異なるし、能力が発揮できる環境も異なるはず。本当は、派手な成長を追い求めるより、自分の体と心の耐久性や、周囲との相性をちゃんと知ることが重要なのだ。

■変わらない春も焦らなくていい

もちろん、焦りが無くなったわけではない。変化を迎えた人を見ると、「このままでいいのか」と思う瞬間はいまだにある。

でも、そもそも私たちは皆、全く異なるコースのマラソンを走っている。誰かのゴールは、自分にとっては通らなくていい分岐点かもしれないし、自分の折り返し地点が、他人からはゴールに見えることだってある。ならば横の人とスピードや距離だけを比べるのは、意味のないことだろう。

ようやく最近、「このままでいいのかな」という問いに、少しだけ穏やかな気持ちで頷けるようになった。

変わらなかった自分にも、確かに積み重ねてきたものがあるから。

目立たなくても、自分の仕事をちゃんとやる。無理がきそうなら、休むことを先送りにせずに休む。なんとなく不調が続くときは、がまんせずに病院に行く。後輩のピンチをいち早く察して、さり気なくカバーする。

そういう“日々の手ざわり”のような経験が、私の中でたしかな骨身になっていると感じる。外から見ると変わっていないように見えても。

健やかに折れずに働き続けていれば、その先に見える景色があるから大丈夫だ。変わらない春にも意味があり、自分の季節は自分のタイミングでやってくるから。

(文:ジェラシーくるみ、イラスト:タテノカズヒロ)

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