ワコール、立体造形技術「メループ」の用途拡大 廃棄材料が少なく染色・金型も不要【ファッションとサステイナビリティー】

2025.02.28 05:30
提供:繊研plus

ワコールは、メルトブロー法で立体物を成形する独自技術「メループ」を開発し、ブラジャーのカップのほか、新しい用途の開発を本格化し始めた。平面状の不織布を使った商品に比べ、大小様々な形状の立体成形物を作ることが可能なほか、廃棄材料もほぼゼロとなる。ファッションブランド「ダブレット」と協業したポーチなどが25年秋冬パリメンズコレクションでデビュー。「世界中でこの種の開発に取り組んでいる企業は恐らく無いはず」という未知の分野。ファッション分野だけでなく、工業用部材などの展開を含め、今も挑戦の日々が続く。

小部材で小ロットに

ブラジャーのカップは、裁断・縫製品とモールド成型が主。縫製はオペレーター個人の技術依存度が高く、モールドは廃棄材料が多いという課題があった。第3の手法としてメルトブローに着目、12年頃から構想を始めた。社内知識はほとんどゼロからのスタートである。樹脂の選定、紡糸、吹き付け装置や熱風の調整、3Dプリンターで作る吹き付け用の型作りなど、幾多の課題を一つずつクリアしていった。吹き付け装置に対してロボットの軌道を正確に制御するロボットアームや、アームの制御プログラムの開発など、難問は山積みだったが、将来の可能性をにらんで、自社開発で取り組むことを決断した。

紡糸、吹き付け、ロボットアームなどがセットになった製造設備

「あらゆる汎用樹脂を試してみた。全く型にくっつかないケースもあり、当初は失敗に失敗を重ねました」。開発を主導してきた深川直哉氏(人間科学研究開発センター研究開発企画課課長)は苦笑いする。

苦闘の末に20年に実用化を果たす。現在は「CW-X」のスポーツブラ、「ワコールサイズオーダー」のカップに活用する。現状、1分に約1ペアの生産が可能で、物性や品質、価格対応力などで遜色の無いカップが仕上がり、量産化が可能になった。形状の深いものや分厚いものは時間を要するなどの課題はあるが、ブラカップに関しては、他のブランドにも広げていく余地が広がっている。

カップ以外の用途展開も今後の大きな課題。24年秋に経済産業省の補助事業「みらいのファッション人材育成プログラム」への採択が決定。ダブレットとの協業も具体化した。秋から着手、1月のコレクションで発表というタイトなスケジュールのなか、ポーチやバッグ3点を制作した。3D製作した原寸大のプリーツスカートの型も仕上げたが、ジャケットやスカートなどの開発はまだ途上段階である。カップやバッグ向けなどは比較的固めの質感に仕上げたが、今後はドレープ性や柔らかな質感を出した樹脂および商品の開発を進めていく。ダブレットをはじめ、様々なブランドのデザイナーのニーズを聞きながら協業を模索中だ。

ダブレットと協業したポーチ
スカート、ジャケットなども開発中

大ロット生産する不織布の用途にはメループは向かない半面、立体造形が1工程でできる小さな部材、小ロットの対応はメループの大きな特徴。平面状の不織布を重ねると分厚くなる場合などでは、紡糸時に一度に積層できるメループは、コンパクトな部材に仕上がる。形や大きさの制約も少ない。

現在、幅広い分野を対象に、様々な可能性を探っている段階。電磁波シールド材、フィルター、家電製品のモーター回り、シューズのアッパーやインソールなどが候補に挙がる。他業界との協業を進めていく考えだが、高スペックが求められる分野であり、「時間を掛けてしっかりとした取り組みを行っていく」。

海外市場にも期待

現在の設備は生産子会社であるワコールマニュファクチャリングジャパンの長崎工場にある1セット。紡糸・吹き付け・3体のロボットアームをはじめ、一連の設備を備えた約6平方メートルの小型のスペースだ。紡糸やロボットは設備投資額も大きい。カップやファッションアイテムへの拡大、工業用途の可能性を見極めながら、今後の計画を検討していく。応用範囲が広い様々な新しい樹脂の活用、グループが持つ海外市場の広がりなどにも期待する。 

信州大学で紡績系中心に学んだ深川氏にとって、「化学分野知識が求められる樹脂、ロボット工学など、学ぶべきこと山積しているしんどさはある。開発し量産が始まった時の喜びは格別だった」。ワコール全体で見ても、異業種との連携や新規事業の拡大は、今後の成長の大きなキーワードであり、メループはその一翼を担う。

■メルトブロー法

不織布を作る製法の一つ。原料となる樹脂を熱で溶かして紡糸し、高速の熱風で引き伸ばす。極細になった繊維同士が熱で融着するため接着剤などがいらない。メループは、ポリウレタンやポリ乳酸などの単一素材を使うので破棄材料が少なく、カットして不要になった端材も再原料化が可能。樹脂に染料や顔料を加えて着色でき、染色工程も不要となる。モールド成型のブラカップと異なり、金型が不要なため省資源化にもつながる。

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(繊研新聞本紙25年2月28日付)

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