《ちょうどいいといいな ファッションビジネスの新たな芽》創業100周年の寺井商店 伝統技術の継承を新しい形で
寺井商店は京都で呉服の製造と販売を営んで今年で創業100周年です。代表の寺井昭人さんは、きものの需要が減少していくなかで、08年に革製品事業を始めました。伝統の染色技法を応用した製品を販売しています。
染色技法を革に
革製品事業は、自社で企画・製造・販売を手掛ける製品「AKIITO」(アッキート)と、自社で染色した革「嘉和KAWA」があり、他社との協業やOEM(相手先ブランドによる生産)も行っています。当初はタンナーに牛革を染めてもらい、それに透かし彫りを施し、金襴(きんらん)や縮緬(ちりめん)の生地を組み合わせ、財布やバッグをオーダーメイド販売していました。その後、長年培ったきものの絞りの技術や染色技法を革に取り入れた既製品の販売を開始。様々な技法と知識を強みに伝統的な図案も取り入れ、時代に合った物作りをしています。現在は巻き上げ絞り染め、絞り箱ローケツ染め、しけ引き染め、型染め、墨流し染め、撒糊(まきのり)染めなどで商品化しています。
きものの業界は職人の高齢化が深刻な課題です。寺井商店が革事業を始めた理由の一つは、染色技術を継承するためです。素材を変えてでも技術を残したいときものと全く同じ工程で革を染めています。技術が残れば、いつでも生地の染色に戻れると寺井さんは考えます。
きものの魅力を
寺井さんは、革製品を販売するとき、染めの説明をしながらきものの歴史や文化も伝えられることを大事にしています。革小物は日常使いできて、手に取りやすい価格帯で商品化が可能です。自社の革小物をきっかけにきものに興味を持ってもらい、その魅力や技術を伝えたいそう。「地道な活動にはなるけれど、きもののことをもっと知ってもらいたい」思いがあります。
現状の売上比率はきもの7割、革製品3割です。革製品は目の届く範囲で丁寧に生産したいため、生産数には限りがあります。2事業を行うには手狭になったことから、今年拠点を京都と滋賀の二つにしました。滋賀は主に革製品事業で、スペースが広く取れて作業効率を改善できました。きもの事業は、関係する職人が近隣にいる京都をベースにしています。
OEMや他社との協業を通じ、きもの以外の分野との取り組みは、新しいことを知り、きもののことを伝える機会です。年2回、東京・表参道で行う京都の事業者による合同展「カケル展」にも出展し、様々なメーカーやブランドと接点を築いています。ユニークな協業では、日産京都自動車大学校の卒業制作のカスタマイズカーの内装に、墨流しの技法で染めた革が採用されました。自社で一貫生産のため、試作や一点物に取り組みやすいことを強みに、今後もオーダーメイドも続けていきたいそうです。
■ベイビーアイラブユー代表取締役・小澤恵(おざわ・めぐみ)
デザイナーブランドを国内外で展開するアパレル企業に入社、主に新規事業開発の現場と経営で経験を積み、14年に独立、ベイビーアイラブユーを設立。アパレルブランドのウェブサイトやEC、SNSのコンサルティング、新規事業やイベントの企画立案を行っている。
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