《20周年を迎えた台東デザイナーズビレッジ》⑫「エメリー」 心の内にある表現力を拡張
23年春にデザイナーズビレッジに入居した田中エミさんは、同年の秋冬物から自身がデザインするブランド「エメリー」を立ち上げた。ファーストコレクションから、パリのファッションウィークにも参加する「キディル」と協業するなど、滑り出しは順調だ。
自分と深く向き合う
田中さんは10代後半に美容師の資格を取りヘアメイクのアシスタントをしていたが、ファッションへの憧れから代官山でブランドショップの販売員に転職した。さらに服作りに強い関心を持ち、21歳頃から働きながらバンタンデザイン研究所に通った。そこで「ミキオサカベ」を手掛ける坂部三樹郎氏と出会い、インターンシップから6年働いた。生産管理からECサイトの立ち上げ、ショーのキャスティングなど様々な経験を積んだ。
坂部氏が主宰するファッションスクール「me」でも学んだことで、「デザイナーになりたい」という思いに拍車がかかった。そこで「深く自分と向き合うことができ、心の内にある表現力を拡張することができた」と田中さん。デザビレは坂部氏から紹介された。鈴木淳村長を含め、相談できる環境はありがたく、ブランドを広めるためのアドバイスなどは〝気づき〟も多いという。デザビレではアトリエにこもって集中することが多いが、夜中まで作業している時に他の部屋に明かりがついていると励みになる。同期3人とは交流を深めており、パターンの仕事を頼むこともある。
ジャンルにとらわれず
エメリーは「自分が生きる社会と向き合い、日常のノイズの中にある愛おしさ」を表現する。田中さんは「自分自身もつらい時にファッションに救われた経験がある。装いが人生に与える影響は大きい」と考えている。以前は好きなグランジロックやロリータファッションなどのサブカルチャー一辺倒だったが、現在は芯はぶらさずにジャンルにとらわれない挑戦を続ける。2回目の展示会では「LHP」をはじめ、福岡や名古屋のセレクトショップなど6社に卸先が広がった。
「カルチャーに人が集まるので、ファッション以外のアートや音楽の人たちとも協業するなど、ジャンルレスにかかわり合いムーブメントを起こしたい。そのための場も作りたい」と前向きな田中さん。ランウェーショーを当面の目標に掲げる。今秋には仲間とロンドンで期間限定店を開催する予定。将来的にはグローバルな市場を目指す。「無茶でも、とにかくやってみることが大事」と笑顔を見せる。
(大竹清臣)=おわり
【連載】《20周年を迎えた台東デザイナーズビレッジ》
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